表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/41

0-03


0-3



 いつの間にか根回しどころか何もかもが終わってる案件の議題をいまさらのように提起するというのは、実に空しいものだと実感した。


 提起が終わっても誰も反対などすることなく、明らかに多いだろうと思われる予算も「問題ありません」、「新設備ですからこれぐらい必要でしょう」とすんなり通され、関係各部署からの人員供給も立候補ですんなり決まり、技術監督部署は第43兵器開発局、つまりアルミナ中尉のところに推薦で決まってしまった。

 なにが「新設備ですからなー、優秀な部署にあてなくてはいけませんな」、「いやー優秀ですからな、第43兵器開発局は、ははは」だ。何の皮肉だ。わざとらしい。

 確かにあそこの連中は優秀だけどさ。俺も居たことだし。


 ―― でも今は、優秀すぎて困ってるんだ。



   *  *  *


 「お疲れさまです、閣下。」


 部屋に戻ったら即おしぼりを渡された。どこのバーラウンジだここは。

 「ああ、ありがとう。」

 「いかがでした?」

 「俺、必要なのかな……」

 「またそんな、閣下をおいて適任者なんて存在しませんよ。」(にっこり)


 ―― まぁいいか、なんかやる気出ないし、うろちょろしてカフェテリアでも行くか。

 

 「どうぞ。」

 「え、ああ、ありがとう」


 ―― 用意してあったのか……。

   せっかくだから頂くか。ああ、そうだ指令書だしてやらなくちゃな。

   なんだ、もうあるのか。そりゃそうか、あれだけ用意周到な会議だったん

   だからな。

   サインするだけの簡単なお仕事です、っと。はいはい。

   ああこれもか、資材部と、兵站局、航路局?、まぁもうなんでもいいか、

   サインサイン……。

   ん?ラップライフサプライ(株)?聞いたことない会社だな、何なに…?

   給食システムだ?いいのかオイ。いいか。いいのだ。どうせ俺なんて

   サインするだけさ。


 「んじゃこれを」

 「はい」


 ―― 手を出して待っていたのか、なんだかなぁ……。


 「閣下。」

 「ん?」

 「こちらと、こちらにサインを頂かないと…。」

 「ん、おお、すまん。」



 結局、なんだかんだで重力波制御の大規模ワープテストが行われるのだった。



   *  *  *



 「で、テストは成功したんだって?」

 「あ、はいお父様。」


 珍しく部長室に娘が来て、応接ブースでお茶を飲んでいるわけだ。


 「本来、ちょっとした発想の転換なんですけどね。逆位相で打ち消すだのなんだの

  難しいことをするのではなくって、吸収してしまえばいいんですよ。」

 「吸収?、あんな大規模なものを?」

 「はい、たったそれだけのことなんですが、実際やってみるとこれが一筋縄じゃ

  いかなくって。」

 「たったそれだけ、って…。」

 「以前のワープ機関でも似たような事をやってるんですよ、ちょっとそれが大きく

  なったのと、演算がちょっぴり複雑になっただけで、やってることは実は大した

  ことじゃなかったりします。」

 「なるほどなぁ、そういうものか。確かにワープ機関の周囲はきっちりシールド

  されているし、シールドの内側では余波を吸収したり再利用したりしている

  ものなぁ。」

 「はいー」

 「すると、例の課題として残っているのは、あとは?」

 「終わりました。」

 「え?」

 「くりあーですよー」(にこにこ)


 ―― なんだってー!!


 「テストには前のときのB6401型戦艦、通称『ミズイリ』を使いましたし、

  ミズイリは中枢も機関も刷新してありましたので、あとはこまごまとした

  入出力装置の交換で済みました。第二系外観測基地も装備刷新に拡張に新設備

  にと、みなさん大喜びでした。駐在人員も増えましたし。シールドも戦艦相当

  の出力が可能になってます。もう流刑地なんて言わせませんよー、あははー。」

 「ああ、そうか、うん、いや、そっちじゃなくてだな。」

 「あくまでテストでしたし、B6401型は旧式ですが、あのミズイリは今や人類最強

  の戦艦と言っても過言じゃないですよ。そのうちみんな並びますけれど。」

 「すると…、まさか……」

 「はい、そのまさかです。

  機能的には、敵がワープしてくるのを阻害、押し返し、別の物体を重ねて

  やることで撃墜できます。

  時空震に関してもかなり軽減できますが、まだ多少は近い天体に影響がでる

  可能性はあります。艦への影響は、艦に搭載されている重力制御装置で

  だいたいカバーできる程度になりますので、ほぼありません。

  今回のワープ機関から、シールドに触れるものを近距離ワープで飛ばせます。

  上限はありますが、弾頭や艦載機程度のものなら余裕ですね。

  光学兵器もなんのその。

  つまり、大抵の相手なら、敵なし、ってことになります。」



   *  *  *



 一体どうなるんだろう、この先。

 などと考えているうちに、あれよあれよと忙しく、本当に忙しく書類にハンコをついている間に、星間ワープが可能なほとんどの艦に、多少の改良を加えつつ搭載されたのだった。

 逆に、光学兵器などは撤去され、弾頭などもただの塊でよいので爆発したりと危険なものはほぼ搭載されなくなった。艦載機も攻撃用のものは不要となり、偵察用と、シャトルなどの輸送用のみになった。

 艦の運用人員は増えたが、艦載機戦闘がなくなったために艦全体としては人員が減ることとなった。

 例の試験とその後の運用から実績と有用性が広く認められ、多く建設・あるいは追加改良された観測基地には、それらの余剰人員が配備された。


 艦載機戦闘がなくなったことと、艦の防御力、基地の防御力が飛躍的に上昇したことで空間戦闘による兵士の損耗が限りなく0になったために、本来であれば新兵器・新装備が開発配備されると主戦論者が沸き立つものであるが、人数の分母のほうが多いので今の所は落ち着いている。


 だが、空間戦闘や侵略に関してはほぼ鉄壁となったが、地上戦となるとそうもいかない。

 まさか空間から地上へワープ弾頭をぶちこむなんていう無茶をするわけにも行かないからだ。


 そこで余った艦載機や廃棄になった兵器や装備を、地上基地に転用・配備したわけだが、これがまた評判よく、小型化され使いやすくなった重力制御機関とともに、地上の平和に一役買っているらしい。


 そして私は肩書や担当部署はそのままに、階級がひとつあがって大将となってしまった。

おまけに勲章が増え、後方支援局次席管理官というなんだかよくわからない肩書が増え、さらには幕僚本部名誉本部長などというこれまたよくわからない肩書が追加され、軍服の襟や胸元が実に賑やかになってしまったのである。

 私の副官のティシア大尉もひとつ階級があがり、少佐となったが、我ら2人とも、やることは大してかわらない。つくハンコの量が増えたぐらいだ。


 ―― ハンコ係という部署を新設してしまおうか……。


 「何か仰いましたか?閣下。」


 ―― 地獄耳か。

 「はい?」

 「いや、少しのどが渇いたなと……。」

 「あと少しでお昼ですよ。」

 「ふむ、ならお昼にするか。」

 「お弁当ですか?」

 「うん、しばらく離れるからだとさ。」

 「今日ご出立でしたか。少佐は。」

 「全く、何を考えているのやらさっぱりわからんよ……。」

 「ふふっ、ではお茶を淹れますね。」

 「うん、頼む。」


 そうなのだ。娘は今回の功績で階級が2つも上がってしまったのだ。

 といっても二階級特進は縁起が悪いという慣例で、2日かけて1日ずつ上がるという、妙なことになっていた。大尉・少佐の最年少記録と、大尉の在任期間最短記録だそうだ。そりゃ17歳だからなあ。大尉の最短在任はタイ記録だそうだ。過去にすごいのがいたらしい。

 

 ――ティシア君と並んでしまったなぁ…。

 「何か仰いましたか?閣下。」


 ―― 地獄耳め。

 「はい?」

 「あの子が少佐か…と思ってね。」

 「ふふっ、優秀ですからね、彼女は。」

 「あまり手がかからない子だったけどね、それはそれで親としては詰まらないもの

  かもしれないな。」

 「それは贅沢というものですよ、閣下。」

 「そうなんだがね……。」

 「ところで閣下」

 「ん?」

 「小さい頃はどんなお子さまだったんです?」

 「ああ、そうだなぁ、今もだが、」

 「はい」

 「さっぱりよくわからない子だったなぁ……」

 「いつの間にか開発局にフリーパスになっていたしなぁ…」

 「そうでしたね…」

 「皆の分まで作ってもってきていたっけ。私の好みより皆の好みの味付けにして

  いたのがちゃっかりしていたなぁ。」

 「ふふふ、でもそのお弁当、」

 「うん?」

 「閣下のお好きなものばかりですよ?」

 「……そういわれてみれば……」

 


 本来研究職であるなら『待遇』がついたままになるのであるが、彼女はあっさりと第43兵器開発局から数年前に新設された戦闘技術情報部へと転属し、本部に2日ほど通ったあと、辺境警備の駆逐艦に配属された。何やら本人の希望らしい。ハンコも押したし。


 訊くとどうやら新造艦らしい。D8608型だとか。しかもいつの間にか設計にひと噛みしていたらしい。一体いつからそんなことをしていたのやら。

 功績を上げ実績もあり、しかも当人も設計に噛んでいた艦への転属申請が通らないはずもない。

 それに本部としては、研究所上がりの最年少少佐など置いておくと「研究してりゃいいものをなぜこっちに」、などと要らぬ問題が起きたりすることが容易に想像できるので、体のいい厄介払いとも言えるが、手元に置いておいて自分の出世の道具にしたいところがそうはできないという、ジレンマめいた複雑な心境だったに違いない。

 すれ違ったときにこちらを見た顔が苦虫をかみつぶして堪えているようなのだったから間違いない。うん。


 駆逐艦とはいえ数千人が搭乗するようなそんな街みたいな艦らしい。

 もともと新型移動可能小規模コロニーというタテマエで建造していたらしいが、そんなものが戦闘艦にあっさり転向するわけもないので、おそらく最初から計画的なものだったのだろう。

 関連書類に許可を出したときには驚いたものだが。

 なので、あまり心配はしていないが、彼女のことだからなんとかうまくやるだろう。敵をつくりすぎなければいいが。

 階級が階級だからいじめられるとかはないだろう。

 寧ろ、いじめた側のほうを心配してしまいそうになる。


 まぁ、いつでも連絡はとれるらしいので、あまり心配はしていない。

 どうせなんのかんのと、私のハンコを狙って連絡してくることだろうし。


 あまり心配はしていないのだ。




***********************************************************


20150211---- 一部の語尾を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ