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 「少佐…」

 『少佐…』


 我に返ると周囲の皆が涙を拭きもせず微かな声で呼びかけていた。

 ステラ中尉も、リリィ少尉も、繋ぎっぱなしの通信画面のロックやキャシーたちも…。なぜかここに居るベンデルマンや教導官らも雰囲気に呑まれたのか声を出すことなく見守っている。。

 皆、アルミナ少佐に何と声をかけていいのかわからないというような困惑した、そしてもらい泣きしたような表情だった。


 ――あの連中の処遇はあとで考えよう。

   海賊たちをなんとかしなくちゃ…。


 皆から少しずつ勇気をもらったように思い、少佐は艦長への通信を切り、顔を上げて立ちあがった。


 『少佐、海賊の一部が第一辺境防衛基地を目標にしてまっせ!』


 カンイチくんからの警告だ。モニタに位置を表示させる。確かにそういった動きだ。なんとかしないと宇宙港が危ない。


 「コッペパン?、第一辺境防衛基地を守りなさい。双方破壊しないように!、

  カンイチくん!、それら海賊艦との通信を!」

 『了解しました、少佐。』

 『おっしゃー任しといてんかー』


 その場の雰囲気を打ち破るようなカンイチくんの声に、今度ばかりはありがたいと思いつつ、戦技情報室に居るメンバーにも指示を出す。


 「ロック、そっちの室長席でももう最高権限で操作できるわ。

  司令室を封鎖し、操作を凍結。いい?」

 『終わってるぜ!』

 「それじゃロック、収容所の手配を、アイトーカ市立病院に緊急連絡して

  収容所階層に医療人員を誘導、詳細おねがい。」

 『了解!』

 「キャシー、メイ、司令室に関する昨日からの全ログを凍結。

  分析して証拠を確保。

  それと駐留軍を…ああ、これはこっちで手続きするわ。」

 『『了解!』』

 「テリー、ああ、もうやってたのね、続けていいわ。」

 『はい』


 テリーはもう第一辺境基地に迫ろうとしている海賊たちに警告して、それに平行してコッペパンの一部の機能を使い、彼らの艦の機能を停止させようとしていたのを、少佐が通信状況から見抜いたのだ。


 「ガルさん…のほうも、もう手を打ってたのね、そのままお願い。」

 『了解』


 ガルさんはテリーと同様に、だがアステロイドベルト1の海賊スネアの拠点のほうに働きかけていたのだった。


 ――優秀な部下をもつと、あたしのすることが無くなる気がするわね。


 『テリーはんに先越されてしもーたですわー、ワテ思考結晶やのに、

  なんや負けた気ぃします…、正直凹むわ~』

 「何言ってんのよ…、あたしの指示が遅かったからでしょ、

  んじゃ海賊たちの被害状況を分析しなさい。凹んでるヒマないわよ?」

 『あぃょ~、ほな結果はコッペパンはんに流しまっせー』

 「それでいいわ、おねがいね。」

 『少佐のおねがい、キターー!』


 ――なんかデンに近くなってきたんじゃない?、カンイチくん。

   とりあえず任せていいような感じになっちゃったし、

   お昼ごはん食べ損ねたし…


 「じゃ、各自適当に昼食をとっていいわ。

  テリー、ガルさん、海賊たちに何かあったら連絡を。」

 『『了解!』』


 横からスティが熱いおしぼりを差し出してくれた。


 ――気が利くわね。

 「あら、ありがとう。」

 「いいえ…」


 あまりほめられたことではないが、適温に冷まして顔を拭いてすっきりできた。こういう時こそ落ち着かなくてはならない。自分のペースを取り戻すのだ。


 ――艦長たちにはきっちり反省してもらうとして、

   問題はスネアのほうよね…、

   開拓事業団になってもらおうと思っていたのに、全く…、

   ガルさんとテリーの説得次第かもしれないけれど、

   あんなに殺してしまっては、それも難しいかも…

   反抗勢力が地上で蜂起、なんて、ああ今は考えるのやめましょう。


 「さて、食べ損ねちゃったけれど、お昼ごはんどうしよう?」



   *  *  *



 結局昼食を食べずに戻ったアルミナ少佐一行は、室長室からカーディナル宇宙軍本部に連絡した。

 少佐ら戦闘技術情報部が実行していたアスパラギン星系の平定に向けての計画と、艦長派の反乱――と呼んでいいだろう――直前までの進捗状況、を報告するついでに、爆破予告を捏造して根拠を作り上げ艦長権限の下に駐留軍を動かし、不当に現地住民――海賊だって守るべき現地住人なのだから――を脅かし、17275名の命を奪った現状を、『証拠』を添えて提訴したのだ。


 「結局、どういうことだったんです?、少佐。」(キャ)

 室長室から出てきた少佐に、キャシーらが声をかけた。

 少佐はキャシーから差し出されたドリンクを受け取ると、そのまま近くにあるステラ中尉のデスクに寄りかかって立ったまま話し始めた。


 「んー、だいたい分かってる人も居るみたいだけれども、ざっくり言うと、

  調査報告会議があったでしょ?、あれであたしたちがただ調査した

  だけじゃなく、艦長たちが考えていた以上にことを進めていた、

  ってのが分かって焦ったのよ。」(少佐)

 「それで手柄を立てようと残った海賊を殲滅しようとしたんですか…」(ガル)

 「ひっでぇ話だなぁ、軍人ってのぁ度し難いぜ全く。」(ロッ)

 「それで艦内時間で翌朝未明にはもう最初の降伏勧告を出してたの。」(少佐)

 「記録を見ましたが、あれは圧力挑発ですよ。」(テリ)

 「そんなに酷いの?、ちょっと観てみたいかも…」(キャ)

 「やめとけって、ムカつくだけだぜ?」(ロッ)


 コッペパンがというか戦闘技術情報室が、海賊基地のためだけではなく星系内の情報を得るため無人監視装置をこっそりとあちらこちらに設置していた。調査報告会議ではそれらの位置や機能を説明し、詳細が記載された資料を提出した。

 その無人監視装置を利用して海賊基地の通信に割り込んで行ったようだ。

 指向性の問題もあったが、できたばかりの監視基地ではまだ不慣れな点もあり、そもそも敵性種《HS》は光や電波の通信は行っていないので、通信監視はしていなかったのだ。

  (※ 敵性種《HS》がどのように情報をやりとりしているのかは諸説あるが、

     どれも決め手に欠けており、未だ解明していない。)

 コッペパンはもちろんそういった通信も監視していたが、艦長らの軍事作戦であるため作戦に携わる者以外へは、特別に少佐ら情報室側が予め設定していなかったこともあり、機密漏洩に抵触するおそれからコッペパンは少佐らに報告しなかったのだ。

 そういった『盲点』を突かれた形と言える。


 「あたしが視察に行くことは昨日には予定に入れていたので、それを知って、

  急遽ことを起こしたらしいわ。」(少佐)

 「ずる賢いというかなんというか…」(メイ)

 「鬼の居ぬ間に、ってやつか…いてっ」(ロッ)

   (少佐がロックのすねを蹴っ飛ばした)

 「で、あとはあたしが出たのを見計らって、爆破予告を捏造し、

  連絡通路を閉鎖。宇宙港を離脱して海賊基地の近くにジャンプ。

  隠蔽を解除して既に基地の周囲に展開していたスネア艦に向けて

  再度降伏勧告。スネア艦が包囲し始めたのを悠々と眺めて

  戦闘防御状態へ移行した、ってわけ。」(少佐)

 「通常状態でもスネア艦程度の武装じゃ傷ひとつ付かないのに…」(キャ)

 「わざわざ戦闘防御状態になって重力振動圧縮モードってのえげつねぇな、

  あんなもん人間相手に使うもんじゃねーぜ…」(ロッ)

 「新しい玩具を使いたがる子供じゃないんですから…」(ガル)

 「それで17000人、ですか…」(テリ)

 「病院のほうはどう?」(少佐)

 「怪我人は少ないんだが、心のほうがな…」(ロッ)

 「無理もないでしょうね、あの一瞬は地獄を覗きこんだ思いをした

  はずですし…」(ガル)

 「収容所にホロを増設することになってる。あとはケアプログラムに従って

  やってもらってる。まだ人数増えるんだろ?」(ロッ)

 「たぶん。医療関係のほう大変だけれど、人材をカーディナルから…」(少佐)

 「そりゃ助かるぜ、手が足りなくて大変だって言ってたし」(ロッ)

 「じゃ、手配するわ。打診はしておいたからすぐ送ってもらえるでしょう。

  3・4日は現状で耐えてもらわないとだけれど。」(少佐)

 「暴れたりってのがいねぇのが幸いだが、市立病院のほうと掛け持ちだから

  みんなひーひー言ってたぜ。」(ロッ)

 「んじゃ軍から報奨金とか超過勤務手当とか、考えておかなくちゃね。」(少佐)

 「規定の手当って出るんじゃないんですか?」(キャ)

 「あんなの形だけなのよ、スズメの涙よ?、もっとドカンと出してあげないと、

  もし次があったときに気軽に頼めないでしょ?、ね?ガルさん。」(少佐)

 「そうですね、ははは」(ガル)

 「え?なんでガルさん?」(キャ)

 「素材の開発のときにいろいろあったんですよ。」(テリ)

 「医療のほうじゃないんですけどね、協力会社さんで問題があって…、

  軍規定の謝礼では不服だったらしく、次のときに断られたんですよ。」(ガル)

 「へー、結局お金かぁ…」(キャ)

 「そういうもんなんだよ」(ロッ)

 「そういうもんです」(テリ・ガル)

 「みんなで言ってるし…」(キャ)

 「「ふふふ」」 「「ははは」」



   *  *  *



 数時間後に軍本部が、試験運用中の艦の『戦果』と見るか、辺境住民の命を重要ととるか、という軍本部の姿勢をただすような少佐の報告と訴えに、軍本部が返答したのはこういうものだった。

 ・アルミナ少佐の計画はそのまま実行を継続されたし。

 ・アスパラギン星系での敵性種《HS》対策任務は成功したと判断する。

 ・敵性種《HS》への対策方法が、当カーディナル星系の基地運用実績

   並びにアスパラギン星系でのD8608型駆逐艦の運用により、

   その有効性が実証されたと認める。

   その功績を鑑み、アルミナ・アユ少佐を1階級昇格し中佐とする。

   本通達を内示とし、正式な辞令を追って交付する。

 ・ヘンリート艦長以下司令室所属の者たちについてはそれぞれの階級に

   応じた責任があると思われる。しかし解任には至らず減俸処分を

   中央軍本部より通達する。

 ・遺族らについては軍規定に従って補償措置をとる。

   追って調査団を派遣するので協力されたし。

 ・ヘンリート艦長に対しては当中央軍本部より、一部の機密を開示する。

   その時点よりアルミナ少佐改め中佐のD8608型駆逐艦への権限が

   艦長の上位であると認める。

 ・D8608型駆逐艦駐留軍についてはその責任を問わない。


 ――うーん、17000余名の人たちには申し訳ない決定ね…、

   でも遠く離れた辺境の人命に対する補償の扱いなんて、本部からすれば

   こんなものなのかも知れないわね…、嘆かわしいことだけれども。


 「本部からの返答ですか?、見ても?」(ガル)

 「いいわよ、大したものじゃないし。」(少佐)

 「それって機密扱いじゃないんですか?」(キャ)

 「こんなもの、あなたたちに隠すほどの価値なんてないわ。」(少佐)

 「呆れるやら嬉しいやら…ふふっ」(メイ)

 「しかしこれ、なんだか報われませんね…」(テリ)

 「どっちの話だよ?」(ロッ)

 「どっちもですよ、海賊たちにしてみれば不満でしょう、

  限界がくるところでしたが、この星系を敵性種《HS》から守ってきた

  のは彼らなんですから。我々だって不満ですし。」(テリ)

 「納得が行かないところもありますね。」(ガル)

 「あら、あたしは別に不満じゃないわよ?」(少佐)

 「え?、そうなんですか?」(テリ)

 「うん、だいたいこんなところかな、って思ってたもの。

  軍本部だって一枚岩じゃないし、ここの艦長派はきっと、

  本部のどこかの系列でしょう。そこがある程度弱くなった、

  弱くならざるを得なくなった、ってところでしょう?」(少佐)

 「落としどころってやつかねぇ…」(ロッ)

 「どこか、ってのは…?」(キャ)

 「それはさすがに言えないわ。悪いけど。あたしが知るはずのない

  情報ことだもの。」(少佐)

 「でも減俸だけってのはね…」(テリ)

 「さっき艦長らに送られたのを一部解読したけれど、見る?」(少佐)

 「「ええっ?」」


 ヘンリート艦長への中央軍本部からの通達は上記の一部に加えてこういうものだった。

  ・アルミナ博士がD8608型駆逐艦のオーナーであること。

  ・軍はオーナーから艦を借りていること。

  ・軍はオーナーに対して施設や土地の使用料を支払っていること。

  ・艦長の操艦・運用に関する権限はあくまで委託であること。

  ・開示制限:副艦長ソダース・クリストファー少佐


 「えええー?」(キャ)

 「僕は知ってましたよ。」(テリ)

 「同じく」(ガル)

 「俺も知ってたぜ?」(ロッ)

 「私も知ってたわ。ふふっ」(メイ)

 「え?、んじゃあたしだけ?、知らなかったの…」(キャ)

 「これで主任クラスはみんな知ったわけね。」(少佐)

 「うわー、知らない方が良かった気がするー…」(キャ)

 「「あはは」」 「「ふふふ」」


 昇格の辞令は1週間後らしい、戦技情報室ここの皆も補佐官の2人以外仲良く1つずつ昇格だそうだ。待遇の文字は取れないようだが、ここのメンバーには階級など関係ないだろう、誰も気にしていないようだし。



 結局、監視基地への視察は日を改めて行った。ステラとリリィを合わせて合計10名で輸送艦ホテル・バラクーダ2泊3日の旅、と言ったらロックが「厳正な方法で決めようぜ!」といって6面体のサイコロを5つ出してきた。センター街のオモチャ屋で売られている透明な樹脂でできている奴だ。


 ――いつの間にそんなもの買ってきたのかしら…。

   ロックとデンは変わった腕時計をしているし…。

   お揃いで色違いって、何か意味あるのかしら…?


 単純に合計数で勝負したらしい。全部同じ数とか連番とかそういう『役』は無しで。テリーらが単純にしましょうと言ってそうなったようだ。

 で、ロックは1の目が5つ出て「ぐぉぉぉ…」と唸りながらくねくねと変な踊りをしていた。最低数では居残り確定だろう。

 結果は主任勢からはキャシー1人、残りはちゃっかりとトム、ハルマン、ニキ、ドルク、リュウ、ジャックに決まった。ちょうど男女5名ずつだ。

 「(リュウ、お願い、代わって…!)」

 「(断る。そういう事を少佐は好まない。)」

 後ろの方でそういうやりとりが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。


 カーディナルのホテル・バラクーダでは「海の幸・山の幸、秋の味覚フェア~海辺と山をヘルシー散策~」という微妙に分かりにくいものをやっているらしい。

 輸送艦ホテル・バラクーダでもそれを真似て、大浴場の壁や遠くに見える景色を秋に設定し、食事もそのテーマに沿った趣向になっているというので、皆も楽しみにしていた。


 前回と同じくカンイチくんに乗り込んで出た直後。


 「この中で誰か『釣り』をやったことのあるひと居る?」(少佐)

 「釣り、ってあの魚を棒と糸で釣るやつですか?」(ニキ)

 「それを言うなら針と糸じゃねーか?」(ハル)

 「とにかくそれよ、居ないの?」(少佐)

 「はーい、実家に居たときやってました、お小遣いになるの」(リリ)

 「「お小遣い?」」

 「はい、たくさん釣れたらお店に売るんですよ、あと、

  大きいのが釣れたら燻製にして保存食でしたー」(リリ)


 ――趣味や競技じゃなくて生活の一部のようね…。


 「他のみんなは?」(少佐)

 「知識としてなら知ってますけど、実際にやったことは…」(トム)

 「ありません。」(ドル)

 「大学の研究室にいた頃、教授によく連れられて行きました。」(ジャ)

 「キャンプに行ったりしたときに少し。」(リュ)

 「ふぅん、経験者が3人いるなら大丈夫ね。」(少佐)

 「それで、どうして釣りなんです?」(トム)

 「庭にあるのよ、渓流と池が。」(少佐)

 「え?、庭って…?」(トム)

 「これから泊まるホテルの庭よ。釣りができるの。」(少佐)

 「「ええっ!?」」

 「輸送艦、ですよね…?」(ジャ)

 「そんなに睨まなくてもウソじゃないわ、ホテルがあるんだから

  庭があっても不思議じゃないでしょ?、ちょっと広いだけよ。」(少佐)

 「別に睨んでいるわけでは…」(ジャ)「まぁまぁ」(キャ)

 「分かってるわ」(少佐)

 「なるほど」(トム)

 「トムは納得してるけど、ちょっと…って…」(キャ)

 「少佐のこういうところには慣れてますので。」(トム)

 ――こういうところってどういう意味よ…。

 「もう何が来ても驚きません、驚きません…」(ステ)


 その後は何が釣れるのかとか秋の味覚って何がでるのかとか、山の幸はともかく海の幸はどうなんだとか、監視基地の視察のことには全く触れずに、ホテルの施設のことばかり話していた。



   *  *  *



 基地の視察ではベンデルマンとその部下らしき人1名がマヨース基地から付いてきて、他の2箇所を一緒に巡った。挨拶回りのようなものだ。


 基地に増設中のレクリエーション施設はカーディナルにある基地のそれよりも大きく、試験的に機能も増やしたものになるということで、教導官らカーディナルから来た者らは羨ましがっていた。ここで評判が良ければ、今後建造される基地の施設にオプションが増える。使ってもらってアイディアを出してくれればそれだけ充実もする。パラギニア宙域警備社の人たちにはたくさん動いて働いてもらって借金を返済してもらわなければならないのだから、たくさん訓練してたくさん楽しんでもらえればいいと思う。


 その他は特に何ということもなく視察が消化された。キャシーとリリィは訓練メニューに興味があったようだったが、それだけだ。



   *  *  *



 バラクーダの大浴場は見事だった。建造時に機能のデモを見たりしてから完成時に宿泊したが、その時は残念ながらまだ大浴場などいくつかが調整中だったこともあり、少佐にとっては初めてなのだ。

 乳白色のお湯が景色に染まってほんのり赤く、湯気が幻想的にたゆたう雰囲気が素晴らしい大浴場だ。


 「少佐、メイドがお背中をお流ししますぅ」(リリ)

 「ちょっと、あたしがやるんだからー!」(キャ)

 「あー、今日はそういうのはいいから。のんびり浸からせて。」(少佐)

 「では私の背中をお願いするわ、リリィ」(ステ)

 「はーい、…これ、大丈夫なんですかぁ?」(リリ)

 「子供の頃のだから、もう平気。普通に洗っても大丈夫よ。」(ステ)


 ステラの背中、腰に近いところから脇腹にかけて大きく火傷の痕があったのだ。故郷の村が焼かれた、と聞いたがその時のものだろう。リリィに洗わせてもいいぐらいに、皆に見られてもいいくらいに、近しく思うようになったということだと、少佐はその様子を見て微笑んだ。


 「この景色ってどこかで見たような気がするんだよなー」(ニキ)

 「どこかってどこで?」(キャ)

 「うーん…?」(ニキ)


 大浴場のドーム状の天井や壁に投影されている景色を見て、ニキがそんなことを言い出した。


 「これ、あれですよー、ハンナ・リャース渓谷ですよー」(リリ)

 「!、ああー、言われてみれば確かに…」(ニキ)

 「へー、これが…」(キャ)

 「リリィは行ったことあるの?」(ステ)

 「はい、士官学校の遠足で行きました!、猪食べたですぅ」(リリ)

 「遠足?、校外訓練じゃなく?」(キャ)

 「あれっ?、そうだったかなぁ…、うーん?

  同じようなもんじゃないんですか?」(リリ)

 「…全然違うと思うけど…」(ニキ)

 「猪って、そういう料理が出るところに泊まったの?」(キャ)

 「料理は自分たちで作るんですよぉ?、寝たのはテントでした。」(リリ)

 「…やっぱ訓練だよね。」(ニキ) 「うん…」(キャ)

 「みんなで茸とか採ってたら向かってきたんでズドーンって。

  楽しかったのでまた行きたいですよー」(リリ)

 「…それ、食べたんだ…?」(ニキ)

 「はい!、殺したらちゃんと食べないとダメなんですよぉ?」(リリ)

 「士官学校ってそんなことやってんの…?」(キャ)

 「そんなことないと思うけど…」(ニキ)

 「私はそういう訓練は無かったけど…、カーディナルじゃないから

  よく知らないわ。」(ステ)


 しみじみと景色を見ながらそう言ったステラに釣られるように、皆のんびりと湯に浸かったようだ。お湯の流れる音が聞こえる。


 「あっ、少佐、眠っちゃったらダメですよ!、のぼせますよ!」(キャ)

 「…ん、あー、気持ち良くて眠ってたわ、そろそろ上がる…」(少佐)

 「急に立っちゃ、ほら、つかまって下さい、足元気を付けて」(キャ)

 「…んー、ありがと。ふぅ、出口どっちだっけ…?」(少佐)

 「こっちですよ、ほらそっちに扉が…、そこにタオルも」(キャ)

 「ん。おお、古式縁こしきゆかりの扇風機よー」(少佐)

 「何言ってるんですか、ほら、ここに座って下さい」(キャ)

 「わふっ、大丈夫よ、自分で拭くから…」(少佐)

 「じっとしてて下さいってば」(キャ)

 「あー、はいはい、やっぱいいわねー温泉って。」(少佐)

 「温泉じゃなくて大浴場ですよ、少佐」(キャ)

 「いや、ここはちゃんと温泉みたいね。成分調整と空調で、だって」(ニキ)

 ニキとステラも上がってきたようだ。

 「えっ?、そうなんですか?」(キャ)

 「うん、そこに書いてたよ?」(ニキ)

 「へー…なんかすごいね」(キャ)

 「浴槽も溶岩や火成岩でできてるのよ、気づかなかった?」(少佐)

 「そうだったんだ、凝ってますねー」(キャ)

 「すげー…ステラさんがもう一度来たかったって言ってたのが

  よくわかるなー、部屋もすごかったし。」(ニキ)

 「今回はベッドじゃなくてお布団にして、って言っておいたから、

  畳敷きで木や紙でできてたでしょ?、窓はガラスだけど。」(少佐)

 「あんな凝った部屋、初めてですよ」(ニキ)

 「前に泊まったのは曲線的で洗練された雰囲気の装飾がある部屋でした、

  あれは衝撃的でしたが、今日のも衝撃的です…」(ステ)

 「んじゃきっと、かなりいいお部屋かもね、広かったでしょ?」(少佐)

 「はい、実はあの時はいろいろ混乱してて、はっきり思い出せないん

  ですが、もう、どうしていいか分からないぐらいでした。」(ステ)

 「じゃあ明日にでもそのお部屋、見せてもらいましょ。」(少佐)

 「いいんですか!?」(ステ)

 「わー、たのしみー」(キャ)

 「いいのかな、あたしらだけ…」(ニキ)

 「勝負に勝ったんだもん、いいんじゃない?」(キャ)

 「ところでリリィは?」(少佐)

 「あ、リリィならサウナのほうに。」(ステ)

 「あー、実家のほうは公衆サウナのある地方だったっけ。」(少佐)

 「公衆サウナ?」(ニキ)

 「そう、あたしは資料で読んだだけなのだけれども、山間部でね、

  温泉とサウナがわりと普通に村や町にあるのよ、その代り、

  各家庭にはちゃんとしたお風呂がなかったり、サウナしかなかったり

  狭かったりだって書いてたわ。」(少佐)

 「「へー…」」(ニキ・キャ)

 「そういえばリリィが、『官舎にサウナがない』って言ってました。」(ステ)

 「うーん、さすがに官舎にサウナを増設するのは…、

  個人用の庭に置くタイプならいけるかもしれないけれども…」(少佐)

 「ところでリリィさんがサウナに行ったのって何分ぐらい前なんです?」(キャ)

 「あっ、ちょっと私見てきます!」(ステ)


 さすがに小さい頃からサウナを利用してきただけあって、リリィはなんともなく元気だった。真っ赤な肌で「久しぶりのサウナでした~」なんて言ってあっけらかんとしていたのには皆唖然としていた。


 食事は大広間に用意された。今日は山の幸らしい。

 しっとりとした小豆色で足の短いテーブルに並べられた山の幸に、みな大満足したようだ。茸が多く「秋の味覚」と銘打っていただけはあるなと思ったが、一部春の食材も山菜に混じっていた。リリィも嬉しそうに食べていた。男性たちも「ほほぅ」「これは…」など言って堪能していたようだ。


 男性側の大浴場は、ホダルカナル火山の景色だったらしい。よくご存じですねと控えていた着物の女性が言うと、ジャックが目を細めて酷薄に笑い、「そこにしか棲息していない動植物がいましてね、行ってみたんですよ」と言ったが、その女性が返事もそこそこにそそくさと別の位置に移動したのでまた凹んでいるようだった。あれは酷薄に見えるが嬉しい時の表情なのだが…。

 キャシーはその景色に興味があったようで、ジャックにいろいろ話を聞いていた。あんなに話すジャックも珍しい。


 トムはグラジオ兄弟――どっちが姉か兄かはっきりしないので仕方なく皆そう呼ぶ――に、監視基地の機能や役割などを教えているようだ。距離もあるしところどころしか聞こえてこないがたぶんそんな内容のようだ。


 なぜか正面に座って美しい姿勢で寡黙に食べているリュウ。いくつか並んだテーブルには片側に男性たちが先に座っていて、来た順に適当に座った結果なのだが…、まぁ、これはこれで食事を堪能できたのでよしとする。

 一応釣りの経験があると来る途中で聞いたので、話を振ってみた。


 「リュウは釣りは得意なの?」

 「得意…というほどではありませんが、ちゃんと釣れました。」

 「そう、なら安心ね、明日の予定にしているのだけれど、あたしに

  教えてくれる?、やったことないのよ。」

 「は、はい、それがしで良ければ。」


 ――それがし…!?、初めて生で聞いたわ、そんな一人称。

   お侍さん、って呼んでたのがいけなかったのかしら…?

   そんなロールプレイしなくても普通にしてていいのに…。


 「一応ホテルのスタッフが付いててくれるらしいけど、せっかく身内に

  経験者が居るんだものね。」

 「はい、そうですね。」


 ――雰囲気的に話が続かないわ…。

   でもまぁ、『御意』とか言われなくて良かったわ。



   *  *  *



 翌日は朝から渓流釣りに行った。

 人造渓流とはおもえないような、自然な趣きの溢れる川がそこにあった。虫などはいないが、魚は放流されている。飼われているようなものだ。

 もちろんホテルのイベントなので、釣りをする何時間か前に魚を増やしている、らしい。釣った魚はホテルで昼食に出される。そういう趣向なのだ。別に釣れなくても料理は出るようだが。


 ――しかしこういう事なら視察じゃなくてちゃんと皆で慰安旅行に

   してもよかったかなー?

   そのうちコッペパンのほうでテーマパークの最終テストをするし、

   そのときにパークの宿泊施設でやったほうがいいかもね。


 テーマパークには宿泊施設もある。観光資源という目的でもあるがもちろん試作であって、ここで評判が良ければ他の場所への商材となることを見越している。宿泊施設は艦外からのお客様のためのものでもあるが、コロニーの住人が宿泊することも可能だ。一部のアトラクションは調整中でもあるので、まだ営業開始はしていない。


 「少佐、引いてます」

 「え、あ、あ、あぅ…」

 「エサ、取られましたね、大丈夫です、次は釣れますよ。」


 ――リュウ、あんたさっきもそう言わなかった?


 「全然釣れないわね…、ちょっと道具を交換して。」

 「あ、はい、どうぞ」


 当然そんなことをしたぐらいでは釣れないのだ。そもそも道具はホテルが用意したものなので、どれも大差ないのだから。

 近くではキャシーがジャックにいろいろ手ほどきされているようだ。

 向こうのほうではリリィがばんばん釣っているようだ。ステラはまだ全然らしい。

 あっちではニキとハルマンがにらみ合っている。トムが何か言っている。

 聞き取れないが、「戦う相手が違うんじゃないか?」だったりして。


 結局1匹も釣れなかった。ドルクもダメだったそうだ。

 キャシーとステラが1匹釣ったと言っていた。

 トム、ニキ、ハルマンは2匹釣ったらしい、どっちが大きかったでまたモメていたようだった。

 リリィとリュウがダントツだった。リリィは生活に直結していた生い立ちだからいいとしても、リュウって一体何者なのだろう…。

 ジャックも何気にきっちり釣っていたようで、なぜだかキャシーが自慢していた。


 昼食にはその魚の塩焼きや香草を使った料理が出た。皆も喜んで食べていた。なるほど、ありきたりなのかもしれないが、いい催しだと思う。


 午後に何人かで腹ごなしの散策をした。

 リリィはメイド服ではしゃぎ回っていた。喋るか走るかどっちかにしろと。

 ジャックが「これが人造の庭とは素晴らしい」と言って、時々リリィが走って採ってきた葉や茸の解説をしていた。生き生きと嬉しそうに。皆ふんふんと聞いていた。

 遊歩道を歩き、設置されている四阿あずまやで、木目調にカラーリングされたラップライフ印のドリンクサーバーがあったので休憩し、たっぷり山の景色を堪能してホテルに戻った。


 出る前に言っておいたので、女性陣はこっそり部屋を変えてもらっている。例の、ステラが泊まったのと同じ部屋だ。

 ステラは大感激していた。他も喜んでいた。リリィは「お姫様ベッドです!」と目を輝かせていた。

 実はちょっと値が張るのだが、まぁいいだろう、たまにはね。


 帰るときに部屋を変えたことが男性陣にバレて、トムにイヤミを言われた。だって、しょうがないでしょ…?、男性陣だってこっそり池のほうに地上車で出かけたり、ホテル区域じゃないところを見学しに行ったりしていたんだから。


 と、まぁ視察なんてほんのついでかのような骨休めだったが、行った者はみな楽しんだようで何よりだった。

 トムがテリーに「監視基地の視察はどうでした?」と尋ねられて、「楽しかったですよ」と返事し、聞こえた者らが不思議そうな顔をしていた。


 旅行中(開き直って)の定時連絡でも何も異常がなかったようで、どうやらいろいろと落ち着いたようだ。地上世界のほうは少し混乱があったりしたようだが、大きな事件などは起こっていないようだった。



   *  *  *



 宙域に居る海賊スネアは、ガルさんやテリーの『説得』が功を奏し、一部は宙域開発事業団への道を模索することとなった。民間船や宇宙軍に対して敵対行動をとらない限りにおいて、しばらくはその存在を黙認されることになったのだ。

 一部過激な者らがこれに反発して離反したらしいが、宙域では監視基地やコッペパン艦の監視が厳しく、大したことにはならないと判断したので様子を見ている状態だ。


 とにかく今は宙域を平定することが先決であるので、地上のことは後回しである。

 宙域に資源採掘をしに出てくるスネア系民間企業は、本来なら権利関係を整理してからにして欲しい所ではあるが、どこで何をどれぐらい採取する、という申請をしてもらってきっちり記録しておくに留めている。

 必要はないが元宙域スネアが宙域開発事業団として護衛という名目でスネア艦を出して監視に付いている。移行期間のようなものだしこれまでそうやっていたのだろうから黙認するが、そのうち星系政府が法整備などをして管理するようになるだろう。

 宇宙軍としては宙域で余計なもめごとが起こらないようにしてもらえればいいのだ、記録をしておくのは言わば『転ばぬ先の杖』であって、何も宇宙軍がそんなところまで面倒を見ようというのではない。


 衛星マヨースのスネア基地は、第147辺境警備隊いちよんななに預けられることになった。アルミナ少佐が言うには、

 「マヨースのだだっぴろい基地は、147にでもくれてやればいいわ。

  そのうち宇宙港になるでしょうし。こっちはもう監視基地作っちゃった

  のだから、要らないでしょ。」

 だそうだ。それで現在改良工事中だ。

 ムツミネ宙域建設ではなく、元スネアの開拓事業団がやっている。これが最初の仕事になっているようだ。ムツミネは技術提供を申し出てくれたが、新素材を使った技術はまだ伝えないので、旧来の方法での工事になるため、やんわりと断った。

 まだ問題の多い星系なのだ。出し惜しみをするわけではないが、敵性種《HS》が関わる部分でもないし、そちら方面での宙域の安全は確保されているのだから、ゆっくりやればいいだろう。


 仮称スネア宙域開拓事業団になった元海賊スネアたちは、

 「俺達だってな、当初は自警団から始まったんだ。」

 「だからラゴニアの奴らの気持ちがわからないわけじゃない。奴らを放置

  してたってのはそういうのもあるんだよ。」

 「企業と癒着?、ああその辺には思う所が無かったわけじゃねぇけどよ、

  長いものには巻かれろって言うだろ?、ここで育った俺達には選べる余裕

  なんてなかったんだ。スネアに入るのが自然、ってな。」

 「これだけ組織がデカくなっちまうとよ、いろんなのが居るんだってこった。

  素直に開拓事業団に衣替えできて、俺は良かったと思ってるぜ?」

 「もう敵性種《HS》と戦わなくていいってんで安心してるヤツもいるぜ。」

 「巣?、ああ知ってたぜパロランのほうだろ?」

 「でも前にそっち行った奴らは逃げて帰ってきたらしい。」

 「ベルト1の内側に来たやつだけ何とかするんで精一杯だったんだ。」

 「え?、もう巣は殲滅した?、うっははそりゃすげぇな。俺達がボロ負け

  するわけだぜ。」

 「戦闘?、あんなもん戦闘ったぁ言えねぇだろ、アンタらシールド張って

  守ってただけじゃねぇか。そりゃ挑発されたってのもあるけどよ。」

 「死んじまった仲間のことは、残念だがしょうがねぇだろう、

  なんせ武器ぶっぱなしてシールドに突っ込んじまったんだからなぁ、

  お互いに他のやりようもあったかも知らねぇが、今更だぜ。」

 「ま、文句があるやつぁこっち(事業団)にゃ来てねぇんじゃねぇか?」

 と、概ね似たような意見だったようだ。


 アステロイドベルト1にある宙域スネアの本拠地は、まだ手つかずだ。

 調査団が到着し次第、事業団の代表らと共に内部調査が名簿に従って行われるので、それまでは事業団に説得や名簿の補完、地上に戻る人達の輸送などをしてもらっている。


 宙域スネアは地上スネアと違って、それは軍に比べれば多少いい加減なところはあるが、それでも組織としての体は成していたようで、基地の制御室にはそれぞれのドックや工廠、住居区の詳細情報が収められており、誰それがどの部隊でどの艦に搭乗するか、地上から誰が来て誰が帰ったかなど、きちんと記録されていた。

 「こういうのはちゃんとやっとかねぇとな、宙域ってなぁ甘かねぇからな。」

 とは事業団代表のひとりの弁である。

 全くその通りなのだ。地上にだってそれは危険はあるが、宙域はその比ではない。ましてや敵性種《HS》の危険だってある。そのへんに飛んでいって敵性種《HS》に喰われましたじゃ済まないのだ。そこいらで野垂れ死んでもらっちゃ星系の皆が困ることになり兼ねないのだから。


 そのおかげで、残った艦の情報を統合することでどの艦が破壊したか、誰が死んで誰が残ったかの情報も順調に整理されているようだ。

 事業団に参加した者、基地に残っている者、離脱した者、それらが遠からず名簿に記載され、それを基に調査団が遺族たちへの補償を行うだろう。



 ムツミネのほうには別の工事を依頼している。それは第四惑星リスーマの2番目の衛星アレラにあるスネア基地の解体・監視基地建設だ。

 1番目の衛星ベールは、惑星リスーマにかなり近いところを公転しているのでアレラに比べると不安定であるということと、ベールはあまり大きな衛星ではないことの2点からアレラに建設することにした。

 ついでにスネアの勢力を減らすという理由も挙げられる。


 ベールにあったそれぞれの海賊の基地は、規模も小さく手狭で設備も通信程度しかなかったことから、無人観測所として活用することになった。


 第147辺境警備隊の第一辺境防衛基地は継続して運用される。

 海賊スネアの息のかかった隊員や基地要員が抜けてしまったが、元海賊ラゴニア改めパラギニア宙域警備社から人員を調達してその穴を埋め、設備もコッペパン艦から提供したことで防衛力も大幅に強化されることになった。

 もちろんまだ基地運用の訓練中であるので、教導官らが付き従っている。

 アルマローズ司令は、当初は眉間にしわを寄せていたが、結果的には喜んでいるようだ。

 司令に基地設備や運用に関するマニュアルを渡し、シミュレーターで基地司令用の訓練を受けて下さいねと伝えたときの表情は見ものだった。教導官らは30日程しか居ないのだからしっかり励んでもらいたいものだ。


 あとは後方支援局からお父様の苦言と、海賊らへの補償が思うように通らなかったことへの謝罪が送られてきた。派閥がせめぎ合う軍本部のことなのだ、おそらく最大限がんばってくれたのだろう、調査団は後方支援局からの派遣だそうだ。もし足りなければ遺族会でも作ってもらってそこに寄付するなり、よそから引き取った旧型艦でも贈呈するなりしようと思っている。


 この先、地上の情勢が安定してきたら、カーディナルや他星系の主な惑星のように、軌道エレベーター基地を設置するのも考えたほうがいいだろう。先に宙域が安全なので行き来も増えるだろうし、宙域の資源採掘も活発化が予想されるのだから。



   *  *  *



 ――何という事だ、ただの雇われ艦長だったとは…。


 軍本部からの通達を見て、処分の軽さにほっとしたが、同時に届けられた極秘通達を見たヘンリート艦長はその内容の衝撃で愕然とした。


 うまくやったつもりが、短時間できっちり調べられて証拠として提出されてしまったのには驚いたが、処分が思ったよりかなり軽かったことにも驚いた。

 情報を捏造して乗員を欺き、艦を動かした。そして軍の規定を逸脱した一方的な降伏勧告を発して海賊ではあるが市民を挑発、さらにこちらからは攻撃をしていないとは言え戦闘防御状態で、敵性種《HS》に対して用いるべきシールドを対人で張り、一瞬にして17000余名の市民を虐殺した、というのが軍本部の解釈らしい。

 どうなるか予想がつくようなことをしでかしたのであるから、そういう解釈で間違ってはいない。

 上の方で首がいくつかすげ替わったようだが、そのおかげでこちらは軽く済んだのかもしれない。


 それよりもこちらだ。

 あのアルミナ少佐が、いやもうすぐ中佐に昇格らしいが、このコロニー艦のオーナーだと…?、そんな艦で、この私に続けて艦長をやれというのか。正直知りたくなかった。確かにこれは極秘だ、こんなことは前代未聞だ。軍艦扱いなのに軍のモノではないだなどと…。ソダース副艦長には伝えて良いというだが、これを見せてもいいのかどうか、判断つきかねる。



 司令室でその場に居た者らと共に監禁状態にされた。

 外の様子もわからなくなり何もかも遮断され、機器やコンソールも外部から上位権限でロックされてしまい、皆が混乱し騒ぎ始めた頃、大型モニターの中心に小さく『解放まで 47:59:59.99』と数字が表示され、カウントダウンが始まった。

 部屋のドリンクサーバーは使えるようで、それで丸二日凌げ、そこで反省していろ、と言わんばかりのその措置に憤る者もいたが、通信も使えず扉もロックされていて、叫んでも相手に届いているとは思えず、大人しく待つ他なかった。


 司令室の全員が私の策略に乗ったわけではないので、巻き添えを食ってしまった者たちには申し訳なかった。どんな処分が下るか分からなかったが市民を虐殺したのだと解釈されたらきっと重くなるだろう。

 そう思い、今のうちだと皆に頭を下げてまわり、できるだけの事はすると当てのない約束を言ったりした。

 ソダース副艦長は何も言わず私について回り、同様に頭を下げていたが、始終無言だった。仕方のないことだろう。


 司令室から解放され、そのまま誘導された一般食堂で、そこに用意されていた軽い食事を摂ると、皆自室で謹慎するようにと、戦闘技術情報室の主任らに命ぜられた。私たちは処分を待つ身であるし、命令はアルミナ副艦長の名で発せられたため、逆らう者は居なかった。


 自宅である官舎へ帰ると、息子アレックスが驚いて「父さん、何かあったの!?」と心配そうな目をして言った。学校は休みだったらしい。すこし休暇をな、と返事をして自室に入った。


 そして謹慎が解け、艦長室で極秘通達を見たのがさきほどの感想だ。


 ――やはりソダース副艦長には極秘通達の内容は伝えないでおこう。


 こんな衝撃的な内容なのだ。私だけで充分だろう。



   *  *  *



 「ケっ、軍に尻尾振るなんざやってられっかよ!」

 「とりあえず逃げるとして、どこ行くよ?」

 「ラスタラだな。支部もあるしよ」

 「そうだ、ラスタラに行きゃ逆らうもんなんていねぇ!」

 「よし、そうと決まりゃさっさと行くぜ!」

 「「おぅ!」」


 ――ぐずぐずしてたら軍の連中が来ちまうしな!

   しかしせっかくの甘い汁だったのに、軍の連中め…。

   まぁいい、下にだって甘い実の成る樹があらぁな。


 「(おい、念のために何人かここと、宇宙港の基地のほうとに

   忍ばせとけや、雑貨屋でもやらせといてよぉ。)」

 「(わかりゃした、連絡つなぎはどうしやす?)」

 「(資源採掘の会社がホレ、あったろが、それで直接やりとりしろ。

   いいか、通信使うなよ?、軍にバレっからな。)」

 「(へい。そりゃもう。じゃ、早速手配を。)」


 ――とりあえずこれぐらいはな。


 「おぅお前ぇら!、ぐずぐずしてっと軍の野郎どもが来ちまうぜ!」

 「「おー!、急げー!」」 「おぅ!」」


 ――下に降りたらすぐ動かねぇとな、下の連中はまだつかんでねぇハズだ。

   そのへん上手く使って当座のシノギしねぇとこいつら食わせらんねぇ

   からな。手駒として役立ってもらわにゃならねぇんだから、

   バラバラになっちゃもったいねぇ。


 「よーし、できるだけ分かれて乗れよ!、持って行けるだけの艦艇を

  出すんだ!、そんで降りるときは降りれるのにまとめて乗せてもらえ!」

 「せっかく乗ってった艦を棄てんのか?」

 「そのへんの石ころにでも繋いでおきゃいい!」

 「なんでそんなことを…?」

 「バーカ、ダラズさんにゃ考えがあるんだよ!、考えてねぇで手ぇ

  動かしやがれ!」

 「は、はい!」


 ――そういえば基地んとこのやつら逃げたって言ってたな…、

   探し出して何かに使えねぇかな…


 どこにでもこういう悪知恵の働くヤツが居るものである。



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20150211---- 一部の語尾を修正しました。

201502122115 判明→解明、生息→棲息 ほか一部の漢字をひらがなに訂正しました。


まずはここまでお読みくださった方々に幾重もの感謝を。


1章はここで終わりです。

2章はいよいよ地上編となります。お楽しみに。

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