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黒ウサギチームが追加作業をしている間、アルミナ少佐側の白ウサギチームは制圧した海賊ラゴニアの衛星マヨースにある基地を離れ、ある程度の距離を取ってからD8608型駆逐艦の戦闘技術情報室用(?)の艦載機格納庫へと回収された。
出た時と同様、やっぱり一瞬だった。
戦技情報室へと白ウサギチームが戻り、事後処理作業を終えると少佐が、
「もう少し手間が掛かるかな、って思っていたのだけれど、
これだったらお弁当要らなかったわね。」
「でも黒ウサギのほうはお弁当あって良かったんじゃないですか?」
「それもそうね、じゃ、お弁当食べましょうか。
粗食だけれどもせっかく作ったんだから我慢して残さず食べてね。
水筒のドリンクもね。」
「「いただきます!」」
今朝というか深夜2時すぎに少佐が作っていたお弁当だ。
朝食というには少しヘビーなごはんの塊、と言えるその特大おにぎりを、デンだけは物珍しそうにしていたが、きょろきょろ周囲を見まわし、それ以外の者が普通にかぶりついているのを見て、デンもかぶりついた。
ステラは少佐がこのお弁当を作るのを手伝ったので知っている。
(※ 以下は、少佐、ステラ、テリー、トム、ニキ、ハルマン、
スミス、デンらの会話である。)
「少佐のお弁当、久しぶりですね。」(ニキ)
「以前にも作ってらしたんですね、このお弁当。」 (ステ)
「そうね、自分の分だけならしょっちゅうね。みんなの分はついで
だったけれども、確かに久しぶりかもね。」 (少佐)
「普通のお弁当にはしないんですか?」 (ステ)
「こういう時だと、人数分の容器を用意しなくちゃいけないでしょ?
各自どこで食べるか分からないのだし。ひとまとめにはできないわ。
それにこれなら楽だもの。容器も洗わなくて済むし。」 (少佐)
「ピクニックだったら重箱にできるんでしょうけどねー」 (ニキ)
「重箱の豪華なお弁当の時もありましたね。」 (トム)
「「あったんですか!?」」 (ニキ・ステ)
「ああ、懐かしいね、アルミナさん(父)のまだ居た頃の
少佐の重箱のお弁当。」 (テリ)
「へー、少佐の若い頃ですか、今でも充分若いけど」 (ニキ)
「(少佐っていったいいつから研究所に…)」 (デン)
「それ、いツの話デスか…」 (スミ)
「7・8年前かな、僕が43局に入ったのが8年ぐらい前で…、その頃には
もう少佐は、まだ研究員じゃなかったけど普通に出入りしてたよ。」 (テリ)
「(少佐の7・8年前……)」 (デン)
「出入りったって、遊びに行ってたようなものよ。」 (少佐)
「その1年あとに私が入ったんですね。」 (トム)
「テリーさんは40局でしたよね?、なんでそんな詳しいんです?」 (ハル)
「ロックと同期なんだ、僕は。トムは1年下の後輩だね。なので付き合いも
あってさ、その頃にはもう40局は43局と共同開発しててね、
人の行き来が普通だったんだ。」 (テリ)
「そうだったんですか」 (ハル)
「ハルは一番後輩だからあんまりテリーさんやロックさんのこと
知らないのよ」 (ニキ)
「ニキだって知らなかったろ。」 (ハル)
「二人とも。」 (テリ)
「はぁい」 (ニキ) 「はい」 (ハル)
「では皆さんは少佐のこういうお弁当は慣れてたんですね」 (ステ)
「そういうことになるかな」 (テリ)
「そうですね」 (トム)
「あたしはこれ(特大おにぎり)しか知らないなー」 (ニキ)
「僕も…食べたかった、少女の豪華弁当…」 (デン)
――ん?今『少佐』じゃなくて『少女』って不穏な単語が聞こえたような…
聞かなかったことにしよう…。つっこんじゃダメだわ。
「少佐、その豪華なお弁当って、もう作らないんですか?」(ニキ)
「ん?、あれはお父様への差し入れよ?、夜食とかだったし、
1人分も何人か分も、大して手間かわらないでしょ?
だからどうせならって重箱で、みなさんでどうぞーってやってたのよ。
父親の体裁ってもんがあるでしょ?、だから豪華なの。
自分の体裁だったらやらないわ。あんなの。」 (少佐)
「なんか残念~」 (ニキ) 「残念だなぁ」 (ハル)
「残念ですね」 (トム) 「残念デス」 (スミ)
「トムはあのとき居たじゃないの、結構食べてたはずよ?」 (少佐)
――どさくさ紛れにまたトムは…。
「まぁ機会あればまた作ることもあるかもしれないわね。」 (少佐)
と、その時ピロレポンピポンと音がして、コッペパンが報せてきた。
『アルミナ少佐、黒ウサギチームが現地調査に移行しました。
収容所では最初の1人が目覚めたようです。』
「収容所の人的状況は?」
『ラップライフサプライ関係の地上車が大小、駐車場にあります、
食堂関係者、警備関係者と考えられます。
食堂は既に稼働しており、調理作業が始まっております。
警備関係者は一部を除いて食堂に集合し、待機状態にあるようです。』
「そう、じゃ、そろそろ始めましょうか。」
「テリー、もってきたパックはどう?」
「はい、問題ありません。」
「じゃ、もってきて。ニキはカメラをセット。」
「「はい」」
返事をしたテリーとニキ。テリーは近くにいたトムを連れて、ニキはそのまま、同じ扉から戦技情報室を出ていった。
少佐は食べかけの特大おにぎりを、そのまま元の食品フィルムで包み、元の紙袋へ入れてステラに「預かって」と渡し、室長席へまわってテリーらを待った。
ニキは倉庫になっている隣の部屋から、カメラらしきものと畳まれた三脚のようなもの、それと小型のモニタをもってきて、室長席の向かいにセットし始めた。
「ふふ、可愛く映してね?」
「あはっ、少佐はいつもかわいいですよ」
などと軽口を交わしていると、テリーらが、今日海賊基地から押収した合成食品の箱を持ってきた。そして室長席の制御台の上に置くと、テリーが怪訝な表情で、
「あんまりお奨めしませんけど…、本当にやるんですか少佐」
「こういうパフォーマンスも必要なのよ。そういうもんでしょ?」
「何も少佐がやらなくても…。なんなら僕でもトムでも代わりますよ?」
「軍人の肩書きってのは、こういうときに威力があるの。
テリーたちでもできるけど、しょうがないでしょ。」
「はぁ、わかりました。」
少佐は微妙な表情で頷くと、制御台の下のひきだしから銀色のペーパーナイフを取り出して制御台の上に置いた。
テリーたちがもってきた合成食品は、箱ごと外から持ち帰ったときに、艦載機の中でテリーらの船外活動服と一緒に除染されている。
さらに帰還してから運び込まれた部屋で、こまかい検査をし、食品パックも一つ二つをサンプルとして有害な物質が含まれていたりしないか分析検査済みだ。時間のかかる検査はまだ結果がでていないが、ほぼ安全だと保障されている。味はともかくとして。そうでないと少佐が口にいれるのだ。皆が反対しないわけがない。
「ニキ、カメラ任せるわね。」
「はーい」
「さて、と、あっちの状況はどうかなー?」
といいつつ、制御台を操作する少佐。
皆が座っている、打ち合わせのときにも使った長椅子がせり上がった状態で、その手前側にニキがカメラを三脚に立てて構えている。それらの長椅子の後ろに、衝立が床からせり上がり、そこに体育館のような天井も高くひろびろとした室内が映し出された。
囚われた海賊たちは、皆ひどい有様だ。何が?、服装がだ。
ファスナーがないしベルトもない、ボタンもなければ、そりゃああんな風になってしまうのも仕方ないだろう。一定以上の硬さをもつ部品がすべて無いのだから。
「えー、海賊ラゴニアのみなさん、状況がわからず戸惑っているところ、
恐縮ですがまずはこちらを向いて聞いてくださいね。」
海賊たちの居る、収容所体育館の上手にあたる檀上にはスクリーンがあり、そこには今、ニキが撮影している映像、つまり室長席に立っている少佐が映っている。こちらではニキの脇の長椅子の上に置いた小型モニタに少佐が映っている。
ざわつく体育館の声が聞こえる。
少佐はその声がある程度おさまるのを、やわらかく微笑んで待っている。
「はい、いいですかー、みなさんはこちらで確認したところ、
アスパラギン星系の非合法組織、通称『ラゴニア』という海賊組織
ということで、強制的ではありますが、お越しいただきました。
武器などの硬いものを除外しちゃったので、服装が申し訳ないことに
なっちゃってしまってますが、別の服をご用意いたしますし、
装飾品などは後ほどお返ししますので、ご了承くださいね。」
カメラ目線でにこにこして言う少佐。ここまで言ったところでなかなかの盛り上がりを見せる体育館。檀上に詰め寄る者などが居る。
そろそろ少佐が何か言おうかという時、
『静かにしろ !!』
と体育館側で誰かが怒鳴り、動いていた人たちが急停止。
そして、数人に脇を守られるように立つ男性が檀上近くへと歩み寄った。少佐の映っているであろうスクリーンを見上げる姿勢で、
『あんた一体何もんだ?、俺達を一体どうする気だ?』
少佐はうんうん、と頷くと姿勢を正し胸を張り、キリッと真顔になった。
「私はカーディナル宇宙軍、戦闘技術情報部 アルミナ・アユ少佐だ。
あなたがたがコロニー艦と呼ぶ、宇宙軍艦艇の副艦長でもある。
あなたが通称ラゴニアという海賊組織の中心人物か。」
『そうだ、ベンデルマン・ダンズンという。
もう一度訊くが俺達をどうする気だ。』
「将来的に、という意味であれば、ベンデルマン、あなたとの折衝次第、
あなた方の態度次第だ。
暴れたりせず大人しく従っているうちは命の保証をする。
今これから、という意味であれば、住居を与え服を与え、
満足の行く食事を与える、という返答となる。」
『それは囚人扱いという意味か?』
「あなた方が現在居る場所は、当艦内の捕虜収容施設である。
囚人扱いというのがそれを意味するのであれば、その通りだ。」
『なるほど…、納得は行かないが、状況はわかった。
大人しく従おう。 おい皆わかったな !!』
『『おぅ!(はい)』』
なるほど、事前情報通り、統制はとれているようだ。
脅威度が下がったと見た少佐は、表情をゆるめた。
「さて、もう少しお付き合いくださいな。ベンデルマンさん。」
『まだ何かあるのか?』
「ここに持ってきたのはあなた方がいつも食べていた合成食品の
パックよ。」
そう言いながら箱を(検査後また閉じてある)ペーパーナイフで開いてパックをひとつ取り出し、上面のフィルムをピリリっと剥がして、
(チューブ状のものもあるが固形のほうを選んだようだ)
「えっ?、何コレ、どうやって食べるの?」
『それは…』
向こうからベンデルマンが何か言いかけたが、横からステラが見かねて小声で言うのを見て黙ったようだ。ニキのカメラワークのせいだ。
「少佐、レーションと同じです。」
「ああ、そうなの、ちょっとそこの下からスプーンとって」
スプーンを取ってもらった少佐が、スプーンを構えて容器から掬い、口元に持って行きかけたところで少し離し、
「全然おいしそうじゃないんだけれど、食べて大丈夫なの?これ」
『俺達がいつも食べてるものだ、害はない。』
不満そうに言うベンデルマン。彼の後ろもざわついている。
意を決した少佐が口にいれる。
「なんとも言えないヘンな食べ物ね…。
あなたたちこんなの毎日食べてたの?、頭大丈夫?」
怒り騒ぐ海賊たちを手で制したベンデルマン。
今は彼ひとりだけが立ち、他は座っていたが立ち上がる者もいた。
それらも黙って座った。
『マズいってのは認めるが、頭大丈夫ってのはどういう意味だ。』
「こんなの毎日食べて気が狂いそうにならないの?」
『ああ、他にどうしようもないんだ。ほれ、みんな痩せてるし、
顔色だってよくねえ。うちぁ貧乏なんだ。あんまりイジメねぇでくれや。』
ベンデルマンが片手で後ろにいる海賊たちを示しながらそう言った。
「今、艦内時間では朝の9時前なの。
早めにして、って頼んでおいたから、ほら、」
言いながら制御台を操作し、少佐の背後の壁に、収容所の食堂、厨房の様子が映された。
「ね、10時ぐらいに食べ始められるようにして、って言っておいたから、
今、食堂のひとたちが頑張って、あなたたち海賊の た め に、
こうして食事を作っているのよ?」
座っていた海賊たちの喰い付きは半端じゃなかった、立ち上がり声援を送る者、ガッツポーズをとり叫ぶ者、その場で足踏みをする者、さまざまだが喜んでは居るようだ。食べ物の威力とは恐ろしい。
そんな盛り上がりを見せる彼等を、映像越しに(カメラに向かって両手で)合図して黙らせ、
「それであなたたち、ヒーローになりたくない?」
そう言って少佐は、にっこり笑ったのだった。
* * *
海賊たちとの通信を終える直前にキャシーが現れ、カメラに映らないように壁際をそおっと歩いてドリンクサーバーに寄ってから自席にあるいていった。
そして通信を終え、ニキたちがカメラや合成食品の箱を片付けているのを背景に、少佐は席で収容所の警備員たちと連絡をとって、手続きや説明をしていた。
海賊たちを現地の警備員に任せ、通信を終了してしばらくした頃。
(収容所を運営するために少佐が依頼してあったラップライフ系列の警備会社の社員たち。訓練や研修のため艦内のラップライフ社の施設に居た。この収容所はラップライフサプライ社の系列会社で全て運営される。)
黒ウサギチームが部屋に戻ってきた。
同じようなタイミングでピロレポンピポンとまた音が鳴り、
『少佐、ゾウさんチームが機材積みこみ作業を開始したようです。』
と、コッペパンが報せてきた。
少佐はうんうんと頷いて、ガルさんらに、
「ガルさんたちもご苦労さま。追加しちゃったけどお弁当食べれた?」
「はい、頂きました。まだ食べてない者もいますが、これからでも。」
「そう。あたしも続きをたべなくちゃ。」
と言うとステラが預かっていた紙袋を受け取って食事を再開した。
すると9時ぎりぎりになって、リリィが駆け込んできた。
「あっ、おはようございますっ!」
「おはよう」
「おにぎりですか!、えへ、あたしも持ってきたんですよ。」
と、紙袋のまんまもってきてちょっと胸元に掲げるリリィ。
「それ、テーブルの上に用意しておいたやつじゃないの?」
「はい、そうですよ?」
「あれはお弁当じゃなくて、朝食に、って…。」
「またぎりぎりまで寝てたんですか…」
呆れたように言うステラ。席にすわって少佐を見ながら一緒に食べようと思ったのか、紙袋から例の特大――朝食用なので小さめの――おにぎりを取り出したリリィ。
「リリィ、今食べるんですか?」
「だって少佐も食べてるよぉ?」
「まぁ今日はいいわ、他にも今からおにぎり食べるってひともいるし。」
「全く…」 「いただきまーす」
飲み物を用意してない様子だけどいいのかな、って思っていたら、やっぱりリリィはノドを詰まらせていた。
* * *
少佐はそれから制御台でちゃかちゃかと作業し、「あちこち連絡してくるわ。」とステラに言って室長室に入って行った。
そして室長席制御台の端のほうに、パックとスプーンがあるのが気になったリリィが、室長席を挟んで反対側のステラに、
「ステラさん、これ、何ですか?」
「それは少佐がさきほど少し食べた食品サンプルですよ。」
なぜ合成食品と言わないのかというと、合成食品だと言うとなぜそれがあるのか、海賊にわざとまずそうに――実際あまり美味しいとは言えないようだが――見せるためなどということまでリリィに説明しなくてはならない気がしたのだろう。たぶん。イジメじゃないと思う。
「じゃちょっとあたしも」
言うが早いかステラの制止も間に合わず、リリィはその合成食品を引き寄せて持ち、食べ出した。
「「あっ!」」
たまたまドリンクサーバーに、落としてしまったストローの替えを取りに来たキャシーがその様子を見て思わず声を出して駈け出した。声が重なったのはステラの声だ。
同じ言葉でもきっと意味が異なる…かもしれない。
「ちょっと!それは少佐の!」 (※ 少佐のスプーン)
「いいじゃないですかぁ、なんかヘンな味だけどおいしいですよ?」
「貸しなさいって!」
おそらくキャシーには、少佐の使ったスプーンにしか目がいっていないのだろう。リリィからそれを奪い取ったキャシーは、リリィが目の前に差し出す合成食品のパックにつられてリリィを見た。
「キャシーさんもどうぞー?」
リリィはそんな事に気づいた様子もなく、スプーンを取ったんだから食べたいんだろう、勢いがあったのは自分と同じく朝食を抜いてきたからお腹が空いているんだろう、という程度にしか思っていないようで、至って無邪気に差し出したのだ。
キャシーのほうは勢いでスプーンをもぎ取った手前、食べないわけには行かなくなってしまった自分の状況に気づき、まずいと話しに聞いたあの合成食品パックだと知っているだけに内心焦りつつ、差しだされたパックを持ちもせずに、リリィに支えさせるままスプーンですくい、口にした。
「ね?ヘンな味だけどおいしいですよね?」
「え、ええ…、そうね。」
無邪気な笑顔で言うメイド服少尉、リリィ。
やや引きつった笑みで返す、キャシー。
その展開を呆れた目で見ているステラ。
主任席のあたりで何人かが笑いを堪えている。
リリィワールドにハマり込んだキャシーは、そのままパックの中身が無くなるまで、1本のスプーンを交互につかって食べさせられたのだ。
室長室から出てきた少佐が、
「あれ?、作業見て回ろうと思ったけど、誰もいないわね?」
と、不思議そうにステラに尋ねたが、みんなすぐに何事もなかったかのように部屋にもどってきたので、少佐も気にしていない様子で、各人の作業を見て回ったりしていたが、途中で、キャシーの顔色が少し優れない様子をみて、
「キャシー?、どうしたの、顔色悪いわよ?」
「いえ、だいじょうぶです…。」
「ならいいけど…」
それを聞いた、聞こえてしまった周囲にいる情報室員たちが不気味に歪んだ、笑いを堪えているような表情を一瞬みせたが、楽しそうに仕事してるならいいと思ったのか、尋ねることもせず、皆の作業の確認をしてまわった。
リリィは食べてしばらく個人端末をいじったりぼーっとしたりしていたが午前中には例の遠距離射撃場のテスターのお仕事がある。いそいそと出かけた。
* * *
午前11時ぐらいになって、少佐は皆に聞こえる声で、
「そろそろ行ける?」
「「はい」」
「じゃ、行きましょうか。」
とスタスタと出て行った。
ステラは慌てて追いかけ、テリー、ガルさん、を筆頭にぞろぞろと、複数の台車に乗せられた箱を誘導して部屋から出て行く。
キャシーがつまらなさそうに、「いってらっしゃい」と言い、メイも残るようで笑顔で手を振っていた。
総務部で予約してあった地上車数台に分乗し、少佐らが向かうのは、海賊たちを収容した捕虜収容所だ。
この収容所のある層は、いくつか同様の建物に敷地があり高い塀で区切られている、道路から見ると殺風景な区域だが、塀の内側は、農業用地や公園のようになっている場所もあり、池や運動場など、地上世界の学校などとそう変わらない。
更地になっている箇所も多く、少佐の言う「空いている場所」が多いというのも頷けるぐらい、この層は土地が余っていて、普段は人が居ない。
もちろん空も投影されている地上層だ。
収容所に到着した少佐ら一行は、事務棟で挨拶をしてから警備員詰所を経由して幾つもの厳重な扉や格子を抜けて、今日の映像に映っていた体育館へと入った。
予め呼び出されていたベンデルマンら数人が、長机や椅子がいくつか並んでいる所に着席しており、周囲をまばらに立つ警備員たちと居た。
あの後、収容所の警備員から用意されていた服を受け取り、ちゃんとした入浴をすませ、少し身ぎれいになってからたっぷりと食事も摂り、心もち顔色も良くなったベンデルマンらは、無精ひげもちゃんと剃ったりしており、お仕着せの捕虜用のツナギではあったが、あの映像で見たよりは、随分まともに見えた。
「こんにちわ、ベンデルマンさん。」
「ああこんにちわ、少佐どの。」
そう言って軽く挨拶をし、用意されていた椅子に腰かける少佐。
にこにこしている。
「お昼ご飯はいかがでした?」
「ああ、素晴らしかった。皆も大満足だ。合成じゃねぇだけで充分だと
思っていたが、『満足の行く食事』って言った意味がわかったよ。」
「そう。それはよかったわ。」
「それぞれ部屋に割り当てられたが、あちこちの放送がみれるモニタ、
ありゃあ一体どうなってる?、ラスタラやリスーマの放送が見れたぞ?」
「そこは軍事機密なの。見れればいいでしょ、どうだって。」
「ああ、それと部屋に置かれていたこのコロニーのパンフレット、
全部本当なのか?、地上世界より暮らしやすいようだが。」
「パンフレットに嘘はないわ。」
「信じられねえ…、いや少佐どのの言うことを疑ってるわけじゃないが…。」
「それで、どう?、話をきいてみる気になったかしら?」
「ああ、ああ、俺達にとっていい話なんだろう?、
もうあんなメシ食っちまったんで、みんな期待してんだ、
流れに乗るしかねぇ!ってよ」
本当に、今まで一体どんな生活をしてきたのか、想像できなくはないが、想像したくない。キラキラとした目で少佐を見つめるベンデルマンとその腹心だろう数名。
「じゃ、話しましょうか。」
にこにこしながら、そう言って少佐は話しを始めた。
* * *
アルミナ少佐の話というのは、
・星系内に5箇所の基地を用意するので、そこで働くこと。
・基地の性能について。(軽く)
・それらのための訓練をきちんと受けること。
・この収容所での生活作業、掃除や洗濯など、きちんと分担して行うこと。
(安いけど賃金も出ますよ)
・基地には収容所と同程度の食堂や施設が存在すること。
・海賊ラゴニアという組織は、将来的には解散すること。
・会社を設立すること。
・形態は、宇宙軍からの業務委託で、ちゃんとお金が支払われること。
・宙域に彼等が所有していた(占有していた?)施設や艦艇は
接収ではなく買い取りという扱いになること。
・艦艇の貸与もあること。
・艦艇の性能について。(これも軽く)
といったもので、会社に関して細かいことは書類を渡すのでそれを見て必要事項を記入の上、収容所の係員に提出すればいい、との事だった。
通常、捕虜収容所というものは、軍や国の経費で運営されるものだし、係員などは雇われている会社が違ったとしても、根っこは軍などからお金が出ているものだ。
ところがこの捕虜収容所は、軍の所有物ではない。建設資金だって軍からでているわけではない。
もちろん慈善事業などではないので、かかった費用は全て、もちろん分割になるが、あとで請求されることになる。強制的とはいえ収容されそこでしばらく暮らすことに納得してもらったのであるから、使用料というものを請求してもバチはあたらないだろうという考えだ。もちろん格安に設定されている。
収容所の食堂は他と同様に、本来はいちいち食事ごとに食券を買うシステムだが、しばらくは食券を買うことなく食事ができるようになっている。
だがこれも全てあとでまとめて請求される。食堂だって収容所だって、人が動く以上、タダじゃないのだ。
上記にもあるが、施設や艦艇の買い取りは、良心的な査定――と少佐が言うのだからちゃんと良心的だ、決してアコギではない。たぶん。――で算出される予定だ。『安心と信頼』のムツミネグループの査定にちょっと色をつけるのだ。これが最初の『彼等の会社』としての収入に充当される。
当面、基地の運営は数日後に輸送艦バラクーダが運んできた人員が行う。
そしてこの収容所の元海賊たちがそれらの人員に実地教育訓練を受け、30日間で引き継ぎ、バラクーダでやって来た人員はカーディナルに帰還する予定になっている。
引き継ぎが終われば、元海賊の人員ばかりで基地を運営することになる。
従来の基地とは異なり、基地内部のことを思考結晶が管理補助するので、何か思う所があって蜂起反乱独立しようとしても、そう簡単にはできないようになっているが故のこうした措置なのである。
基地の食堂はコロニー艦内に準備されているラップライフサプライ社の下請け会社の人員である。こちらは交代は今は考えていないが、希望があるなら考慮に入れてもいいかもしれない。星系内の人たちで仕事が回るならそのほうがいい面もあるからだ。
これらのことを丁寧に、にこやかに説明して概ね了承を得た少佐は、後ろで待ちながら持参した箱の中から袋を取り出して長机に並べ終えていた戦技情報室の人たちに、
「思ったより時間が掛かっちゃったわ、待たせてごめんね。」
と言い、
「じゃ、武器と思われるもの以外の、装飾品類をお渡ししますね。
袋のタグに、あった場所が書かれてるの。それを見て、みなさんに
ここで分配してあげてね。あとでみなさんをこちらに誘導するので。」
「わかった、好意に感謝する。」
頭をさげるベンデルマンたちに、
「もしかして傷とか破損とか、これがないあれがない、っていうのが
あったら言ってね。武器にあたるものははまだお渡しできないけれど、
ちゃんと考慮するから。
中には諦めてもらうものもあるかもしれないけど。あ、それと、
配り終えたら警備員さんに個人端末を配ってもらうので、使ってね。
マニュアルは警備員さんに言えばもらえるわ。
元々使っていた端末類は、まだ検査し終わってないの。
だからまだ渡せないの、ごめんね。」
「ああ、了解した。」
「じゃ、いろいろ思うこともあるかもしれないけれど、頑張ってね。
また話すこともあるでしょう、またね。」
と言っていつもの笑顔で、胸のあたりに手をあげて軽く手を振り、とことこと体育館から出て行った。
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20150211---- 一部の語尾を修正しました。




