1-10
1-10
4時間ほど眠った。外はまだ暗い。深夜2時だ。
いそいそと身支度をして、上着と腕に装着する端末を手に持ち、ダイニングキッチンへ。袖をまくって手をあらい、昨晩買っておいた海苔や缶詰、梅干などをテーブルに出す。眠る前にセットしておいた炊飯器にはもう炊けたごはんがある。
食品用フィルムをテーブルに敷き、塩をふり、棚から出したお茶碗に炊飯器からごはんをごそっと山盛りによそう。
テーブルのフィルムの上にお茶碗を逆さにして、よそったごはんをどさっと乗せる。まんなかにスプーンで少しくぼみをつけておく。
それを全部で6つ、テーブルに広げてから、流し台のところで缶詰をあけ、容器に移して調味料などを加えて混ぜる。
冷蔵庫から昨夜買ったから揚げをとりだし、まな板の上で適当にスライスしておく。
荒ざましが終わったテーブルの上のごはんに、から揚げのスライスを適量、くぼみのところに乗せてゆき、缶詰のほうのも同様にする。
そして、食品用フィルムの四隅を持ち上げて、大きなおにぎりにするのだ。
6個の大きなおにぎりができた。
さらにあと10個つくっていると、ステラ中尉が起きてきた。
「少佐、一体なにをなさっているんです?」
「お弁当作ってるのよ。」
「仰って頂ければ私がお作りしましたのに…」
「いいのよ、大したことじゃないし、手抜きだし。
それとも、手抜きはイヤ?」
「いえ、それは別に。」
「じゃ、手を洗って手伝って。」
「はい」
15個の特大おにぎりをそれぞれ、これも昨晩買っておいた紙袋に入れ、7つと8つに分けて別々の手提げかばんに入れる。残りの一つはリリィ用だ。
「ゾウさんチームは普通の時間だから要らないわね。」
「するとこの巨大おにぎりは、ウサギさんチーム用でしたか。」
「ちゃんと人数分あるでしょ?」
「なるほど…」
「じゃ、身支度したら出るわよ。」
「あ、はい。ところで少佐?」
「ん?」
「リリィはどうするんです?」
「昨夜も言ったと思うけれども、リリィ少尉には今日の午前中に例の、
遠距離射撃場のテスターのお仕事があるでしょ?」
「でも参加は自由って…、やっぱり連れて行ったほうがよくないですか?」
「ダメよ、枠を取って最初のテスターのお仕事なのよ。
無理やり予約をズラしたようなものなんだから、せめて初回くらい、
ちゃんと参加して、目立ってきてもらわなくっちゃ。」
「なるほど、そうですね、わかりました。」
「そう。じゃ、身支度してきて。」
「はい。」
そう言うと少佐はいつ用意していたのか軍用の水筒をいくつか持って、リビングにあるドリンクサーバーのところに行き、いつものようにボタンをくりくりっと操作して飲み物を作り始めた。
昨晩乗って帰ってきた地上車に乗って、早朝と言うには暗い、夜空の(投影された景色)の下、官舎のカーポートからぐるっと、司令棟の裏手の門まで走らせ、夜勤の門番に手続きをして車を預け、歩いて司令棟に向かう。
戦技情報室へ入ると、ウサギさんチームが全員居た。
「「おはようございます」」
「おはよう、というには早すぎるけれども、みんなだいじょうぶ?」
「ははは、少佐こそ」 「ふふっ」 「はは…」
「じゃ、ガルさん、そっちはこれね。」
「む、結構重いですね、何ですか?これ」
「お弁当よ?、んでこれ水筒。2つもって。」
「おぉぉ、ありがとうございます少佐。」
「適当につくったんで、適当にたべてね。人数分あるから。
梅干しの小瓶も入れておいたわ、爪楊枝もね。」
「まるでピクニックですね。」
「似たようなもんよ。」
全員笑顔だ。これから何をするのか自覚がないのだろうか。と、ステラは思った。
少佐は皆を見回し、少し息を吸うと、
「では状況開始!」
「「はいっ!」」
そして、室長席の反対側へぞろぞろと移動する。
歩きながら、ステラが不安そうな表情をして小声で、
「あの…、少佐?」
「なぁに?」
「一体どちらへ?」
「昨日言ったでしょ?、艦載機のところへ行くのよ。」
「艦載機って、少佐をアルマローズ司令のところからお迎えしたときに
通ったターミナルビルのところではないんですか?」
「あれは一般用よ。あたしたちの艦載機はそこにはないの。
こっちの最下層にあるのよ。ついて来ればわかるわ。」
「…はい」
戦技情報室の扉を出、少し先にある黒い扉のエレベーターに乗り、扉が開いて出た場所に、新型艦載機がアームに支えられて並んでいた。いくつかサイズが違うものや、半球を伸ばしたようなものも見える。遠近感が狂って目がおかしくなりそうだ。
少佐から渡された資料にもあったが、並んでいるもののうち、黒い球体を上下からすこしだけ潰したような形をしている家一軒がすっぽり収まりそうなサイズの2機?2体?2個?、とでも言えばいいのだろうか、艦載機なのだからやはり2機というべきか、の下部に開口部があり、どうやらそこから乗り込むようだ。
白ウサギチーム、黒ウサギチームのそれぞれが、それぞれ別の艦載機に乗り込む。
予め決められた席に、各自が着く。操縦室だ。
席は部屋に入って前方に5つ並んでいて、両側にそれぞれ2席ずつ壁側を向いて並んでいる。中央に1席、そして少し高い席が一番後ろにある。全部で11の席だ。
白ウサギチームの面々は、手前の少し高い席にアルミナ少佐、中央にテリーが着き、前方の5席をひとつ飛ばしで3名が着き、左右の席に一人ずつが着いた。
ステラの席は入口に近い、向かって左側の1席空いているところになった。
各自ベルト等で椅子に身体を固定する。
少佐の合図でテリーが席の周囲にある操作台で操作を開始する。
すると、全周囲の壁と天井が透明になったような感じで艦載機の周囲が投影された。
ステラが思わず「わ」と言ってしまってから、にこにこしている少佐を見ると、少佐は軽く頷いてから、
「じゃ、行きましょうか、コッペパン?聞こえる?」
『はい少佐』
「準備はいいかしら?」
『いつでもどうぞ。』
「では、白ウサギ発進!」
と言うと周囲の景色が、乗り込んだ艦載機格納庫から一変して、周囲に星がちりばめられ、大きな天体がいくつか見えた。金色に輝く恒星も見える。あれは恒星アスパラギンだ。
少佐の後ろにはオレンジ色でマーキングされ、タグの付いた物体が表示された。タグには『黒ウサギ』とある。正面のモニタには大きく天体が映されており、やはりタグがついている。タグには『3-1 マヨース』と書かれていた。
「こちら白ウサギ。黒ウサギは行ってよし。」
『こちら黒うさぎ。行ってきます。』
モニタに黒ウサギ側のガルさんが表示され、そんなやり取りをしてすぐ、表示が消え、それと共に少佐の後ろに表示されていたマーキングとタグも消えた。
「白ウサギ移動開始。」
と、少佐が言い、昨日の説明通りに、正面のモニタに海賊ラゴニアの基地が真上からみたような感じで見えてくる。基地には補助線がいくつも引っ張られ、モニタにはあちこち数値が表示されている。
「距離2000で静止。」
少しして周囲の景色の動きが静止する。
「小型艦艇が1隻、発進準備をしているようです。」
「んじゃ急がないとめんどうね。」
「スキャニング完了しました!」
「微細振動開始!」
「はっ!」
「小型艦艇はどうかな、割り込める?」
「やってます!、あと3分ほどかかりそうです!」
少佐が席の前の制御台で何やら操作した。
「少しだけ押さえこんでみたけれど…、間に合うかしら…」
押さえこむというのは小型艦艇の発進を遅らせるようにするため、指定座標に重力偏重をかけて文字通り押さえこむことである。小型艦艇のパワーと土台の強度のこともあるので、あまり強くかけるわけには行かない。だから少しだけである。
余談だがこういうことが可能だからこそ、相手が光速の何割かで飛行していようが誘導したり特定ポイントで捕捉して無理やり他所へ飛ばしたり、敵性種《HS》なら物体を直接重ねて部分的に破壊したりできるのだ。ミサイルだろうが弾頭だろうが、デブリだろうが隕石だろうが、そんなものなんとでもなる。
無敵、と評価されるわけである。
もちろん相手の質量次第では艦載機の手には負えないこともあるが。
「小型艦艇内の物体の停止を確認しました。」
「基地のほうは?」
「物体の停止を確認。」
「微細振動停止!」
「停止を確認!」
「じゃ、コッペパン?、順次送っちゃって。」
『転送を開始します。』
少佐がそう言うとコッペパンから返答があり、モニタ上、基地の右下に引っ張られているタグの中の数値が減ってゆく。単位は、『人』だ。
しばらくして、その数値が『 0』になった。
小型艦艇から引っ張られているタグの数値も、『 0』になった。
『転送完了しました。』
とコッペパンの声がした。
少佐は満足そうに頷いて、ちらっとステラ中尉を見ると、なぜだか知らないが青ざめている。
少佐は少し首をかしげるようなしぐさをし、
「じゃ、接近してそおっと着陸!、周囲監視よろしく。」
「はい!」
正面のモニタに見えている基地が近づいてくる。距離を表す数値が減って行く。
「ステラ中尉?、だいじょうぶ?、酔っちゃった?」
「い、いえ…、だいじょうぶです。」
全周囲モニタというものは、激しい動きをしなくても、不慣れだと酔うこともあるのだ。
――酔っていないならどうして青くなってるのかしら?
不思議に思いながらも、作戦指揮中の少佐には、今はすることがある。
「着陸時の秒読みは不要よ」
「わかりました。」
少しして、
「小型艦艇の割り込み完了」
「停止処理を。」
「停止処理完了しました。」
「着陸しました。」
正面のモニタにはすぐ近くに拠点制圧目標の基地が映っており、周囲は衛星マヨースの景色が映っている。
「では先行調査員は宙域作業服を着用して調査を開始。」
「「了解!」」
そう言うとテリーと前方に座っていた3名がベルトをカチャっと外して立ち上がり、少佐の右後ろの扉に入って行った。
座席ベルトは雰囲気というか様式美のようなものである。床の重力制御をオフにしたときには必要だが、そこまでしなくてはならない事態はほぼないと言える。逆にそこまでしなくてはならないような時には艦載機自体が危険な状態ということだ。
でもベルトをしっかり留めておくことは精神的にも良いこと――けじめという面でも――なので、訓練でもそういう風に教えている。
「コッペパン?、収容者たちの様子は?」
『はい少佐、まだ誰も起きていないようです。』
「そう。誰か起き出したら教えて。」
『了解しました。』
「それと、黒ウサギのほうはどう?」
『現在、転送処理中です。』
「そう、順調なのね。」
『はい少佐。』
――あの部屋、ガスで眠らせるとかできるようにしておけばよかったかなー?
物騒なことを考えるものである。
少佐がふと気づいたように、
「コッペパン?、あなたの影響範囲で現在移動中の艦艇は?」
『現在移動中の艦艇は、9隻、確認しています。』
「コッペパンと艦載機を省いて。」
『6隻です。』
「艦種別を教えて。」
『第147辺境警備隊所属護衛艦1、民間輸送艦1、海賊スネア所属艦3、海賊ラゴニア所属艦1、です』
「それらの現在位置情報をこちらに転送して。」
『転送、完了しました。』
少佐が手元の操作パネルをちゃっちゃと弄ると、正面のモニタに俯瞰した星系図の一部が表示され、そこには6つのマーカーがあり、それぞれタグに、護衛艦、輸送艦、スネア艦a・b・c、ラゴニア艦、と表示された。
背景は衛星マヨースの地表と基地が表示されたままだ。
「ふんふん、護衛艦と輸送艦は問題ないわね。
ラスタラと基地の定期便でしょう。
スネア艦はこれとこれとこれね、んー、
2つは遠いわね、どちらもアステロイドベルト2の内側の軌道?、
何やってんのかしら…、旧型艦にしてはサイズも大きめね。
資源採掘にしてはベルトから離れてるし…、
星系観光ツアーでもやってんのかしら?」
「ぷっ…、さすがにそれは…」
「コッペパン?、このスネア艦aとbは何なの?」
『敵性種《HS》との戦闘を目的としているようです。
周辺にその残骸らしき小さな物体が飛翔した形跡があります。』
「ふぅん、パトロール?、感心ね。まぁそうね、アレ(敵性種《HS》)
ほっとくと大変だものね。もうしばらく頑張ってもらいましょう。
スネア艦cのほうは、アステロイドベルト1の近くから
こっちのほうに向かってるようね。これも今は放置かなー。
んでこの、アステロイドベルト1に居るラゴニア艦は何なの?」
「どうやら係留して偽装されてるようですね」
「ふぅん、コッペパン?、移動中って、もしかしてくっついてる
アステロイドごと動いてるって意味なの?」
『はい少佐。その通りです。』
「うーん、えらく古い艦艇のようだし、ステラの監視でも
してるんでしょうね。どうしようかな…。」
モニタに、外に出たテリーら4名がふわふわ歩いているのが映った。
ちゃんとそれぞれタグで名前が表示されている。
2人ずつ担架のように機材を運んでいる。
「テリー気を付けてね。」
『はい、行ってきます。』
左側のモニタにそれぞれの名前と状態を表す数値がいくつかリスト状になって表示されていた。
「これ、スキャンデータで見たところ、かなりボロいわねー。
使えるのかしら…?、まぁ来る前からボロいだろうなーとは
思っていたのだけれど。」
「そうですねー、建て直したほうが早いかもしれませんよ?」
「うーん、そこを判断するのはあたしたちじゃないけどねー。」
「ははは、そうでした。」
ちなみに、テリーについて調査班になっている3人は、
ワーカー・スミス(通称:スミス)、
グラジオ・ハルマン(通称:ハルマン)
ホンマ・ヤーデンス(通称:デン)
の3人で、こちらに残っているのが、
ウィルソン・トーマス(通称:トム)
グラジオ・ニキータ(通称:ニキ)
の2人だ。
さきほどから少佐の相手をして喋っているのはトムで、金髪蒼眼に七三メガネ、細身がっちりの、元43局の研究員だ。
ロックとテリーの大学時代からの1年後輩で、2人の推薦で43局のほうに入ったらしい。
43局に入ったのは少佐より彼のほうが早く、少佐の先輩になるが、ロックもトムも少佐の部下としてのほうが長いのでこういう話し方に落ち着いている。(ロックはあんなだが)
この5人はデンが元40局員なだけで、他は元43局員だ。スミスとグラジオ双子の3人は、少佐よりあとに43局に入って、ロックと同じ研究チームだった。
そうこうしてる間に、テリーらは基地の扉から内部に入った。
少佐は星系図を消し、テリーらのヘルメットからの映像を、正面のモニタに4つ表示している。
「うーん、きちゃないわねー、基地ってのはもうちょっと整理しないと…」
「少佐、ここは海賊の基地ですよ?」
「海賊だからきちゃなくてもいい、とは思わないけれども…」
「ははは」
ここで顔色がだいぶ復活したステラ中尉が発言した。
「少佐?、中にいた海賊たちは一体どうなったんです?」
「え?、転送したわよ?、見てたでしょ?」
「い、一体どこにですか…」
「わが艦内にある、捕虜収容所の体育館よ。」
「ええっ!?」
「白ウサギチームが捕獲したのは合計86名よ、表示されてたでしょ?」
「まさか、そんなことが…」
「できるのよ。言ったでしょ?、
『誰も死なないし、安全だから信じて』って。」
「…こういうことだったんですか…。」
「ちゃんと資料渡したでしょ?」
「あれを見てこんなの想像できませんよ…、半分どころかほとんど理解
できませんでしたし…。」
「少佐?、もしかして…」
「ん?」
「我々研究者向けの資料をお渡ししたのでは…?」
「えっ?、……抜粋したけれどだいぶ説明とか書いておいたし、
結構分かりやすくできたかなーって思ってたんだけど…。」
「ヴィクス中尉、ちょっとその渡された資料、見せてもらえます?」
と言ってトムがベルトを外してステラのところへ行き、ステラが個人端末を取り出して表示させ、トムが横からそれをちょいちょいっと指で操作して資料を見る。
止める機会を逃した少佐は、ばつが悪そうに、2人を見ないようにして正面のモニタや数値を見ていた。
「少佐、これは研究者向けと言える資料ですよ。確かにとても分かり易く
私も参考にしたい出来だと思いますが、この作戦に関してで言えば、
失礼ながら、ヴィクス中尉は素人なんですから、これでは
分からなかったんじゃないでしょうか?」
「あら~…、ごめんねステラ中尉。」
「いえ…すみません理解力がなくて…せっかく少佐がお気遣いを
して下さったのに…」
「トム、ありがとう、席に戻ってね。」
「はははは、少佐の困った顔なんて何年ぶりでしょうね。」
「トム~、覚えときなさいよ?」
「おぉ、コワイコワイ。」
妙な足取りで席に戻るトム。昨日からの不安が解消されたのか、少佐とトムとのやり取りを見てすこし笑顔になるステラ。
――トムったら、ステラ中尉の元気を出させるためにわざわざ…。
ありがたいことなのだが、なんとなく釈然としない少佐だった。
と言っている間に、ニキが画面上で何か気になるものを見つけたようだ。
「スミス、今のとこもう一度見せて」
『はい、どこデスか?』
「2歩下がって、ちょっと左向いて、そうそれ、その下の赤い箱」
『なんでショウね?、これ』
「ニキ、材質データと照合して、中身のスキャンデータも。」
「わかりました。」
そう言ってトムとニキが分析調査をする。
海賊たちは転送される時に、身に着けていた武器らしきものを除外されて転送されているので、それらの武器と判断された装備や金属製品・樹脂製品は床におちて転がっていたりする。
ベルトのバックルや爪、円形の飾り部分や、金属製のボタンやファスナー、指輪やピアス、ネックレスなどの装飾品、硬貨に金具類、(金属製の歯は除外、体内の金属製品も除外)も床に散乱しており、それらはテリーたちにはできるだけ回収しておくように言ってある。
テリーたちが言うには、
「ズボンやツナギタイプの作業服のファスナーらしきものが…。」
確かにこちらに届いている映像でもそう見える。収容所では一体どうなっているのか、あまり想像したくない。
そのあたりはあとでコッペパンを調整(調教?)すべきなのかもしれない。いくらなんでも厳しすぎるだろう。
一部、布きれも転がっているのは金属部品が外れたためだろう。
基地内部の部屋・区域ごとに布袋に分けて回収するように言ってあるので、現地では混乱しないように返却してあげて欲しいと思う。
――やっぱり恨まれるかな…?、その後のフォロー次第かもしれないわね。
でもマイナスからプラスになったほうが振り幅が大きいとか、
マイナスからのほうが反転しやすいとか、
どこかで神さまが言ってたらしいし、気にしないようにしよう。
あたしが好かれてもしょうがないもの。
銃器などもそのまますっころがっているので、テリーたちはそれらをちょいちょい弾倉を外したり、バッテリーパックを抜いたりと、手間がかかるのだ。
「それ、消火用設備じゃない?」
「え!?、なんでそんなものが…」
『どこにもつなガッテませんヨ?』
「中は樹脂と布製の帯と金属製の筒のようなものが…なんでしょうね?」
「それは樹脂と合成繊維製のホースでしょう、筒はノズルではないかと。」
「危険はなさそうだから放置でいいわ、そんなの。」
「「はい」」 『ハイ』
「じゃ、スミス、調査を続けて。」
『わかりマシた』
などというようないくつかの不審物もあったが、概ね危険はなく、調査が終わろうとしていた。
あちらでも当然、会話しながら調査や回収作業をしているので、それらの音声や物音もこちらにちゃんと聞こえている。時々デンがブツブツと聞き取れない小声で呟いていたが、クセだとみんな知っているのでいちいち取り合わない。彼がブツブツ言っているのは作業が捗っている証拠のようなもので、気にしてたらキリがないからだ。
「テリー、そちらに備蓄食料らしきものはあるかしら?」
『合成食品ならありましたよ』
「じゃ、それ1ケース持ってきて」
『?!、わかりました』
カンのいいテリーのことだ、何に使うのかわかったのかもしれない。
そして調査が終わり、帰還前に隠蔽用装置や監視装置を設置して、テリーらが艦載機に帰還してきた。
テリーらが回収してきたものは、まず船外活動服姿のテリーらと共に除染室に寄ってから、持ち帰って検疫や検査が行われる。基地に設置されていた設備の一部も、テリーがコッペパンに指示してごそっと転送で回収されている。どうせ改装・改造して新しくなる基地なのだから、旧式の設備など残しておいたところで解体・回収されて他の廃材と一緒にリサイクルされるだけだ。そもそも調査ということで来ているのだから。
「コッペパン?、収容者の報告を。」
『はい少佐。収容者数、白86名、黒39名、合計125名です。
まだ誰も起きていません。』
「ありがとうコッペパン。」
『どういたしまして。』
「じゃ、ここを撤収して次行きましょうか。」
「次ですか?」
「そう、アステロイドベルト1のほうに、海賊ラゴニアの艦艇が
係留潜伏状態なの。ついでだからそっちも片付けましょう。」
「「了解」」
「あ、黒ウサギのほうが近いのかな、あっちはどうかな、
コッペパン?、黒ウサギの状況を教えて。」
『さきほど隠蔽、監視装置の設置を終えて、離脱するところのようです。』
「じゃ、ちょうどいいわね、黒ウサギにやってもらいましょうか、
コッペパン、黒ウサギにアステロイドベルト1、海賊ラゴニア艦の位置を
通知、同様に処理するように伝えて。」
『了解しました少佐。』
「じゃ、こっちは撤収しましょう。白ウサギ発進!」
「「はい!」」
そうして黒ウサギも調査作業に入り、3時間ほど後に帰還。
このようにして、宙域に存在する海賊ラゴニアの人員は全て回収され、捕虜収容所に集められたのだった。
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20150211---- 一部の語尾を修正しました。




