止まった時計
食器棚の側面にかけられた時計はいつ見ても10時10分をさしている。
それを見上げながら私はマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れる。
どこかけだるい空気。
朝のひとコマ。
ベランダに視線を向ければ半端に立てかけられたよしずから夏の日差しが見える。
ぷひゅ
っと気の抜けた音でケトルがお湯が沸騰したと知らせてくる。
マグカップにお湯を半分。
表面張力に挑戦するようにそこへ牛乳を注ぐ。
黒い液体が消え、ミルクブラウンに変わる。
ぬるい液体で喉を潤し、時計を見上げる。
10時10分。
丸い壁掛け時計は常にその時間をさす。
時間に意味はない。
正しい時間を示すことのない時計に存在価値はない。
それでも。
その時計は止まったままそこに置かれ続けている。
そして私は止まった時計を見上げてインスタントコーヒーを飲み干す。