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 ザァー……。

 目を覚ますとそんな音が聞こえた。灯夜はいつもと違った音で目を覚ます。

 時刻は朝の六時。

 (早いな)

 二度寝をしようにも目が、覚めてしまっていた。目覚ましのスイッチを止め、布団から抜け出し、カーテンを開ける。

 外は生憎の雨。激しくもなく、弱くもない静かな雨が降っている。天気予報通りになっっていた。

 部屋を出ると、洗面所に向かい顔を洗う。水は冷たかったが、爽快感は得られなかった。

 その後、身支度を済ませ、居間で座りながら、ぼんやりとしていた。数分が過ぎ、時刻は七時四十分。

 (早いけど、行くか)

 立ち上がって鞄を取り、玄関で傘を出して、家を後にした。

 今日は、久しぶりの雨の中の登校となった。辺りはいつも以上に静かである。雨が徐々に靴を濡らし、不快感を覚えつつも前進した。

 学園に着いた頃には足が冷たくなっていたが、幸い靴下は濡れていない。学園に来る途中、不思議なことに誰とも会わなかった。まるでゴーストタウンでも歩いているかのような気分だ。

 やや重い気分を引きずったまま、教室に入ると、もうすでに十人ほど生徒が席についている。自分も席につくと教科書を机に押し込んだ。

 (暇だな)

 やはり慣れないことは、すべきでないと後悔した。机の中に無造作に手を伸ばす。出てきたのは、国語の教科書。適当なページを開くと、それを読み始めた。読み始めたのは、どうやら小説らしい。史子が、出席を取り始めるまで読んでいたが、集中していなかったせいか、話の内容は曖昧にしか覚えていない。

 出席はなんの滞りもなく、とられていたかのように見えた。

 「神凪静流さん」

 史子が出席簿を見ながら言う。しかし、返事はない。

 灯夜は横の席を見た。そこには、本来座っているべき人物がいない。

 「神凪さん。いないの?」

 「先生、神凪いませんよ。休みじゃないですか?」

 隣の席を見ながら言った。

 史子は顔を上げ、灯夜の隣の席を見る。

 「本当。でも、変ね。休むって言う連絡は、聞いてないのに」

 彼女は怪訝な顔を浮かべたが、すぐに元の表情に戻り、再び出席をとり始めた。

 無断で欠席などというのは、どの学校でもあるもので、この時は誰も彼女の欠席を気に留める者はいなかった。もちろん、灯夜もその一人である。

 ホームルームが終わり、午前中の授業が始まる。灯夜はどの授業も受ける気になれず、ぼんやりとしているだけだった。

 昼休みになると、重い足を引きずるようにして学食に向かう。

 社は先にどこかに行っており、今日は一人で昼食をとることとなった。実に味気のない昼食をとり終えると、教室に戻り席に着いた。

 外を見ると依然として雨が降り続いている。彼は窓を眺めることが、癖になっていることを気付いていない。

 窓の外を眺めていると、ふいに睡魔に襲われる。抵抗する理由もなく、灯夜はあっさりと深い眠りについていった。

 いくらかの時間が過ぎ、目を覚ますと周りには誰も居なかった。

 時計は夜の八時を指している。

 (八時?)

 灯夜は違和感を覚えた。どう考えても八時にしては明るく、その上、こんな時間まで誰にも起こされずに寝ているなんてことは、考えられなかった。

 もう一度、時計を見てみると、鏡に写ったように左右が、逆さまになっている。よく見てみれば、八時ではなく、夕方の四時だということが分かった。どうして時計が、左右逆さになっているのか気になったが、それを知る手段はない。

 外に視線を向けると、先ほどまで降っていた雨は、すでに止んでおり、空にはどんよりとした雲だけが残っている。

 どうやら、放課後まで眠っていたらしい。寝起き独特の気だるさを感じながら、帰り支度を整え教室を後にする。

 灯夜は一階の下駄箱に向かうため階段を降り始めた。しばらく階段を下りると廊下に出る。いつもなら、そこにあるはずの下駄箱がなく、変わりに教室があった。

 (寝ぼけて、一つ上の階に来たのかな)

 首を傾げながら、再び階段を下り始める。一つ下の階に着くと辺りを見回したが、先ほどと同じ景色が広がっている。

 (そんなばかな)

 灯夜はもう一度階段を下ったが、結果はやはり同じだった。

 (そういえば、教室から出る前から誰にも会わなかった。というより、人がいる気配がない)

 寝起きで回らない頭を無理やり動かし、状況整理を行おうとする。床に書かれている数字は3。教室を出てから、階を移動していなかった。

 試しに上の階にも行こうとしたが、結果は同じく三階にたどり着くこととなった。

 灯夜はこんな状況に陥っても冷静さを失わない。

 階段が使えないと分かると、今度は廊下を歩き始めた。廊下を歩いて分かったことは、教室の配置が変わっている、ということだった。おかしいと感じつつも、とりあえず教室を調べていくことにした。

 最初の教室は二年A組。扉の前に立つと、ゆっくりと扉を開ける。教室の中には誰も居ない。教室に入り、机やロッカーも調べてみたが、なんの収穫も得られなかった。

 灯夜はA組を後にし、隣のB組に入った。同じ様に教室を隈なく調べてみたが、なんの情報も得ることができなかった。

 灯夜は次のクラス、C組に向かった。

 C組は灯夜のクラスで、さっきまでいた場所だった。

 教室の前まで来ると扉に手を掛け、扉を開けた。すると、誰もいなかったはずの教室に一人の少女が出現している。人がいることなど予想していなかったため、やや驚きはしたが、すぐに元の表情に戻る。

 灯夜はその後ろ姿に声を掛けた。

 「あの……」

 その言葉に気が付いたのか、少女がゆっくりと振り返り、こちらを見る。

 灯夜は少女の顔を見たが、さほど驚かなかった。なんとなく、そんな気がしていたからである。

 「……神凪」

 静流は、いつもと同じようにそこにいた。


いつもありがとうございます!

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

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