純白の心
静流は、どことも知れない場所を流れていた。隣にいたはずの灯夜の姿はない。どうして、そうなったのかは分かっていた。
自分には、会わなければならない人物がいる。彼女に会うために、ここにやってきたのだ。
しばらく流れていると、唐突に足場ができた。見渡す限り、白一色の大地が広がっている。そんな広大な空間に静流は一人で立っていた。
そこで相手を待った。少しして、後ろに気配を感じる。振り返ってみると、そこにはもう一人の自分がいた。
「待ったかしら」
雫はそう言った。
首を振って否定する。
「そう。なら、良かったわ」
二人の間に沈黙が降りた。
用件は分かっていた。とても悲しい話だ。
「……お別れを言いにきたの」
淡々と言う雫の表情は、上手く読み取ることができない。ただ、感じることはできた。悲しい、と。
「本当にそうするしかないの?」
静流の表情が曇る。
「そんな悲しそうな顔しないで。これは仕方のないことなの」
静流は納得できなかった。自分だけが残り、雫が消えてしまう、ということに納得いかなかった。
「大丈夫よ。私は消えない。静流のここにずっといるから。そうでしょ?」
静流の心臓の上に手を置き、微笑んだ。
雫の温もりが伝わってくる。そして、少しずつ、静流と雫の心臓の音が、同調し始めるのを感じた。別れの時は近い。
「……そうね。私と雫は二人で一人。そう月代君が、教えてくれたものね」
静流も微笑んだ。
それを見た雫は、意地悪なそうな顔つきになった。
「それはそうと、静流。あなた灯夜のこと好きなの?」
「な、なによ、いきなり。月代君とは単なる友達よ。……幼馴染の」
目が泳いでいる。その上、声も小さくなっていった。
「ふふ、まあ、そういうことにしておいてあげるわ。……でも、灯夜は鈍感そうだから、気をつけなさい。いつか、灯夜の良さに気付いてくる人が、現れるだろうから」
拗ねているのか、静流は横を向いたままだった。
おそらく、今は本当に友達だと思っているのだろう。自分の気持ちに素直じゃないのか、気付かないだけなのかは分からない。どっちにしても悲しいことだ。好きな人を好きと思えないことは。
雫は自分が静流と一つになることで、本当の気持ちを知ってもらえれば、と思っていた。それだけでも、自分が消える意味がある。
(いえ、意味なんて、いくらでもあるわ。私は静流と一つになることを望んでいるもの)
雫は小さく笑った。
「そろそろ時間みたいだわ」
雫が塵と化していく。足から順に塵となっていく。
飛び散っている塵は、静流の周りを回転し、やがて体の中に消えていく。心臓の音が重なり始めた。
「待って!早すぎるわ!こんなお別れなんて。もっと話したいこともあるのに」
「泣かないで。私じゃ、灯夜の代わりにはなれないけど……。ほら、こうしていてあげるわ」
雫は手をとり、自分の手と組み合わせた。
「ね?これで平気でしょ?これからは二人で一緒に歩いて行きましょ。……それじゃあね。バイバイ」
微笑とともに塵となった。最後の塵が静流と一つになると、心臓の音もまた一つのものとなった。心に暖かいものを感じる。きっと、これが雫なんだと実感できた。
「……バイバイ、雫」
静流は握られていた手を胸に置き、そう一言だけ言った。
静流の意識は遠のき、やがて完全に意識を失った。
自分の一番好きなシーンですかね。
こーいう間柄もあっていいんじゃないかと、
思います。次回でラストとなるでしょうが、
最後までお付き合い下さいませ!