表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/57

布石

 黒夜は攻撃を仕掛けながら、小声で囁いていた。その囁きが終わりを迎えるまで、詠唱は決して出来なかった。いわば、この攻撃は単なる時間稼ぎ、つなぎに過ぎない。

 そして、その呟きが終わると、早口に呪文を唱え放った。

 「ライトニングスロー」

 黒夜は雫がギリギリ右に避けられるように照準を絞っていた。

 手中にあった光は真っ直ぐに雫に伸びていく。立ち上る煙をなぎ払った。その先に雫の姿が見える。思った通りの反応を示し、肩をかすめつつも右に避けた。

 「かかった!」

 罠を発動する。

 「協奏曲絶望・泥沼の檻」

 灯夜を捕らえた時のように五亡星が浮かび上がる。

 (えっ)

 雫が驚くよりも早く、体が硬直する。

 「やっと捕まえた。そいつの効力は相手の動きと『力』封じる」

 確かに黒夜の言う通り体を動かすことも『霊力』を使うこともできない。

 「これの効力の持続時間が短いんだ。悪いが、さっさと決めさせてもらう。さよならだ」

 無慈悲な死神はそう告げる。が、それを宣告されたからといって、大人しくしているほど雫も素直ではない。体を動かそうと必死に暴れようとする。動かないと分かっていても。

 「地獄の業火を纏いし精霊よ、我が求めに応じ、その荒ぶる力を存分に示せ」

 一片の迷いもない早い詠唱。腕に炎が巻きつく。

 「インフェルスエンド」

 黒夜の腕に絡み付いていた業火が解き放たれた。

 灯夜はそのただただ無力さを噛み締め、拳を握り締めている。決して目は逸らさない。

 雫はなおも抵抗するが、一向に結界が破れる気配はなかった。そんな彼女の気持ちも知らず、業火は距離を縮めていた。あっという間にその距離も消える。

 目の前に広がる炎を見て、雫はきつく目を閉じた。

 爆発。

 風。

 そして、黒煙。

 立ち上る黒煙と炎を見て、心が乾いた。空っぽだ。何もない。

 灯夜は突っ立っているだけだ。今にも倒れそうだった。

 黒夜は燃える炎をぼんやりと見つめていた。

 終わった。確かに終わった。だが、虚しい。一体なんなんだ、これは。きっと灯夜も同じ気持ちを抱えてるに違いない。やはり、あいつは殺しておいてよかった。これ以上、俺たちの心に入りこませない方が、いいに決まっているんだから。

 黒夜はすぐに元の表情に戻った。

 そんなことを考えていると、徐々に煙が晴れてきた。その中からチラチラと光が見える。

 (なんだと)

 その光の正体は結界だった。それも複雑に組まれた強力な結界。あの一瞬で形成するのは不可能だ。もとよりあの結界の中では『力』は使えない。ならば、なぜ?

 雫が一番驚いていた。確実にやられたと思っていたからだ。それにこんな結界を作った覚えがない。自分の作る結界と全く同じ構成だが、今の一瞬で作り上げることは不可能だった。

ふと、胸の方が温かくなっているのを感じた。あまりの出来事に周りに注意がいっていなかったせいだろう。今の今まで気付かなかった。

 (これは……)

 ブレザーの内ポケットから出てきたのは一枚の護符だった。それはここに来る前に静流から貰ったものだ。

 (……助けられちゃったみたいね)

 戦闘中だというのに、つい笑みがこぼれてしまった。

 (私って、ひどい女ね)

 黒夜は雫が握っている護符を見て、一人納得した。

 「なるほど、護符か。確かにそれなら結界の中にいても発動したわけだ」

 そう、黒夜が張った結界は『力』が使えないだけで、発動しないという訳ではない。つまり、雫が持っていたような、予め用意していた物ならば、結界の中にいてもその効力は消えないという訳だ。

 「そんな物まで隠し持ってるとはな。全くしぶとい奴だ」

 結界が消えた雫はふらつきながらも立ち上がり、駆け出した。想定外の出来事でできた唯一のチャンスを逃すほど、雫は馬鹿ではなかったのだ。

 灯夜は雫が生きていたことに、心のどこかで安堵していた。それと同時に一つの疑問が浮上してきた。それは、雫の動きだった。

 その動きは戦闘中にも行われていた。雫はある時は避け、あるときはその場に留まるといったことを数回繰り替えしていた。その光景は別段意識するほどのものではなかった。実際、黒夜はそんな事に気が付いていないようだ。が、灯夜にはなぜか気になった。

 何かある。そんな漠然とした考えが、頭に浮かんでいたのだ。

 またしても、雫が止まる。荒い息を吐き、倒れそうな体を二本の足で支え、黒夜を睨んでいる。その下には血が滴り水溜りを作っていた。

 「……だけ……とね」

 言葉が小さく聞き取ることが出来ない。

 「なにを言ってるんだ」

 黒夜が言った。

 その言葉に雫は微笑を浮かべ、今度ははっきりと言った。

 「結界が、あなただけの専売特許と思わないことね」

 血で出来た水溜りの上に両手をついた。

 その瞬間、雫の両手から二本の光が生まれ、黒夜を囲うように大きな円を描いた。

 「なに」

 流石の黒夜も驚きを隠せないようだ。

 その光の通過点には、雫の血で出来た水溜りが四つあった。雫がいる場所を含め、合計で五つ。

 そう、灯夜の違和感の正体は、この結界を完成させるための布石だったのだ。

 雫は円に命を吹き込む。

 「水は木々を育み、木は火を生む、火は土に還り、土は金を生じる」

 受けた傷など無いかのような力強い詩。

 「これが世を司る理、その力、今我と共に!」

 「煽華センカ・五行包囲陣!」

 結界が眩いほどに光を放ち、円の中に五亡星が刻み込まれた。


戦い続きで疲れます。難しいですね〜、ホント。

小説が難しい物だと思う一瞬です。上手く書けているか分かりませんが、伝わると嬉しいです!では!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ