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来訪者

ぱっかりと空いた空間から出てきたのは、神凪だった。

 「お前は静流……いや、違うな。雫の方か」

 「ええ、そうよ。でも、一目見て分かるなんて流石ね」

 そう言って静かに笑う。

 「そのくらい当然だ。感じる気が俺に近いからな」

 二人の会話で、ようやく意識を保てるようになってきた灯夜は口を挟んだ。

 「……どうして君までここに来たんだ」

 「静流が心配していたからよ。それに私も気になったから。それにしても、ここに入るのには苦労したわ。全く厄介なものを作ってくれたわね」

 「気に入って頂ければ、なによりだ」

 雫は横目で倒れている犬神だったものを見る。血の海に沈む彼は、もはや人ではない。ただの屍だった。これ以上、黒夜の好きにさせる訳にはいかない。全ての計画が崩れ去ってしまう前に止めることが先決だ。

 そんな彼女の気持ちを知っていながら、黒夜は邪魔することにした。これも灯夜のため。

 灯夜の方に視線をやると、小声でなにか呟く。

 「ここは退いて貰えるかしら?灯夜に手を出すことは、私たち……。いいえ、私が許さない」

 「手を出すだと?それはこっちの台詞だ。灯夜にお前たちは必要ない。いずれ災いの元になる邪魔者だ。……そうだ。なぁ、灯夜。こいつが死んだら、お前どうする?」

 黒夜の言葉にはっとする。

 なんだ、この胸の苦しみは。今までなら、黒夜の言う通り他人なんて邪魔なだけだったはずなのに。最近の自分はおかしい。特に神凪のことになると、訳が分からなくなる。どうしてだ。

 幼少より、数多の感情を殺してきた灯夜にも分からない感情が多すぎた。だが、口から勝手に言葉が生み出される。

 「そんなこと、させない。もし、そんなことをするなら、黒夜、お前を殺す」

 黒夜には先程まで見ていた、あの蒼い炎が大きくなっていくのが分かった。そして、その憎悪の炎は灯夜の瞳に宿っている。

 黒夜は灯夜の返答に満足すると、口の端を歪めた。

 「くっく、これは何が何でも雫を殺した方が良さそうだ。やはり雫、そして静流の二人は邪魔になる」

 灯夜に向けていた視線を雫に戻す。正面から雫もその言葉を受け止めた。

 「……。このまま退いてはくれないようね。いいわ。私があなたを止める。灯夜は私が守る」

 これほど感情を出すのは珍しいことだった。彼女をこうさせるほどの何かが、灯夜にはあった。

 「なに言ってるんだ!早くここから逃げろ!」

 「いや、逃げられないさ。とっくに空間は閉じてるからな」

 空間の亀裂は瞬く間に小さくなり、人が入ることは不可能なまでになっていた。

 「そういうことよ、灯夜。私はこいつを倒さなくちゃならないの」

 「は、やる気満々って感じだな。嬉しい限りだ。俺は一度あんたと戦ってみたかったんだ」

 「あら、そうなの?でも、残念ね。あなた、後悔することになるわよ」

 「ぬかせ」

 二人の間で勝手に話が進められている。そして、どちらも実力には、自信がありそうだった。

 「待てよ!」

 焦燥に駆られ、灯夜は駆け出そうとした次の瞬間。

 「独奏曲幻想、束縛の鎖」

 黒夜が呟くと、灯夜の真下に五汒星が浮かび上がる。そこから光の鎖が伸び、灯夜の体を縛りつけた。

 「くっ、どういうことだ」

 「悪いな、灯夜。少しの間、そこでじっとしてて貰う」

 力任せに鎖を断ち切ろうとするが、効果はない。

 「無駄だ。今回の結界は犬神時のよりも強力にしてあるからな。今のお前じゃ到底抜け出すことはできない」

 灯夜は黒夜を睨み付けながら、思い出した。黒夜は雫がここに来た時にこちらに向かって、小声で何かを呟いていた。それが、この結果を張るための下準備だったのだ。

 そのことに気付くのが遅すぎた。心中で悪態を吐く。黒夜の言う通り、鎖を断ち切ることは不可能だ。だが、恐らくチャンスはある。雫との戦いに集中すれば、こちらが疎かになるはず。その時なら『力』使えない灯夜でも、抜け出すことが可能だった。今はそれに期待するしかない。結界が解ければ、すぐさま割って入るつもりだ。

 そこまで考えると、体力温存のために足掻くことをやめた。

 (ごめん)

 結局止めることのできなかった自分を情けなく思いつつ、雫に謝った。

 「灯夜、心配しなくても私なら大丈夫よ。だから、そこで大人しくしていて」

 黒夜から視線を外すことなく、雫は言った。

 雫が言い終わるのを待って、

 「さあ、やろうか」

 黒夜は構えたのだった。


明けましておめでとうございます!これからも、どうぞよろしくお願いします!

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