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相槌

 F組には今までの経緯からして、十中八九、蒼崎ゆかりがいるのは間違いなかった。灯夜の足は自然と速くなっていく。

 「ちょっと、待ちなさいよ」

 いつもの文句が飛んでくる。仕方なく振り返ると案の定、早苗が睨んでいた。

 「さっきから歩きっぱなしじゃない。少しくらい休まないと、こっちがもたないわよ!」

 相変わらず芸のない文句である。少しくらい変えたほうがいいのでは、と思ったが、決して口に出すことはない。

 だが、早苗だけでなく他の全員も疲労している様子だった。そこで、やむなく休憩をとることにした。

 皆、力無く座り込むと、回復に集中する。灯夜は気付かなかったが、もう何時間も歩き詰めだったらしい。

 確かに、今まで以上に目的地に辿り着くことが困難になっていた。一度、外にも出てみようとしたが、出ることもできず、さまようだけだった。中でも、ほとんど同じ状態が続いている。

 そのことは灯夜だけでなく、他の全員にとっても悩みの種だった。

 「そういえば僕たち、どこに向かってるんだ?」

 今更になって、犬神は訊ねてくる。

 三人は首を振って見せた。

 「私には分からない」

 「分からないって、それじゃあ、僕たちは今まで意味もなく歩き回ってたって言うのか?」

 すっかり元通りになった犬神は怒りを露わにする。

 「違うよ。意味がないって訳じゃない。月代君が行き場所を決めてくれてるから。私たちは月代君についてきたんだ」

 「なに?こいつが目的地を決めて、それについてきたって?」

 横目で灯夜を睨みながら言った。言われた本人は全く動じていない。

 「うん。そのお陰で私たち、助かったんだ」

 夕子の言葉の端々には、感謝の気持ちが入り混じっていた。

 「ふーん。じゃ、その偉い月代君に、次の目的地を教えてもらいましょうか」

 嫌みったらしく言う。

 「……二年F組」

 「F組ねえ。そこになにがあるんだ。行く意味はあるのか?」

 「少なくとも僕にはある。そこに蒼崎がいるかもしれないんだ」

 「ゆかりが……。本当なんだろうな?」

 「知りたいなら、行けばいい。そうすれば分かる」

 灯夜の言い方が癇に障ったらしく、犬神の顔は険しくなっていった。

 「はいはい、その辺でやめて、犬神君。こんな奴、気にしないのが一番よ」

 二人の間に早苗が割って入った。

 「……それもそうだな。こんな奴に腹を立てる必要もないか」

 「そうよ。それより喉が渇いたわ。飲み物はないの?」

 高圧的な態度だ。助けた恩すら忘れているようだった。

 「飲み物はないよ。人数分しか持ってきてないからね」

 「使えないわね。いいわ。しょうがないけど、水道水で我慢するわ」

 そう言うと、水道に向かう。

 水道は各階に数箇所設置されており、手を洗うと同時に飲み水でもあった。

 早苗が蛇口を捻ると、液体が湧き出す。早苗が液体に口を近づける前に、灯夜がそれを止めた。

 「止めたほうがいい」

 灯夜の言葉に振り返り、怪訝な表情を見せた。

 「はあ?なんでよ。喉が渇いてるのに、水すら飲ましてくれないの?」

 「そこから出てる液体が、普通の水とは限らないからね。もしかしたら、無色透明で、無味無臭の毒かもしれない。ここが普通の世界と違う以上、軽率な行動はとらないほうがいい」

 「な、なによ!偉そうに……」

 動揺を必死に隠そうとするが、隠しきれていない。流れ出る液体を見つめていたが、結局蛇口を閉めた。

 「これでいいんでしょ。別にあんたの言うことを聞いた訳じゃないんだからね!」

 強がって見せても、顔はやや青白くなっていた。

 改めて、自分たちが、異世界にいることを知った彼女たちは、しばらくの間、沈黙していた。

 それなりの休息をとった灯夜たちは重い腰を上げ、再び移動を始めた。自分の置かれた状況に押し潰されぬよう、今はただゆかりを助けに、二年F組に行くことだけを考えていた。

 全員の目的の一致が、運を運んできたようで道が開けていったのだった。


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