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至急

 全員を見つけ出すため一刻も早く残りの二人を探し出さなくてはならない。

 丁度、あちらにいる三人が立ち上がったので思考を止め、次の目的地へと急いだ。後ろから色々と文句が聞こえてくるが、全て無視する。

 最初はおとなしかった早苗も、徐々に元気を取り戻した。ただ、元気を取り戻したことで、灯夜に対してことあるごとに突っ掛かってきた。少々うんざりもしたが、止まる訳にもいかず、歩を進める。

 「ちょっと、どこに向かってんのよ」

 早苗の態度は豹変している。

 あれほど精神的に追いやられていたのにも関わらず、今はそれを微塵も感じさせない。大した回復力、というだけでは足りなかった。なにかが働きかけこうなった、という方がしっくりくる。

 投げ掛けられた言葉に素っ気なく答える。

 「音楽室」

 「音楽室って……。ちっとも着かないじゃない。どれくらい歩いたか分かってんの?」

 早苗が元気を取り戻してから、ずっとこんなやり取りが続いていた。灯夜が無視すると、更にうるさく言ってくるため、仕方なく返事をするしかなかった。夕子と円も最初のうちは、止めに入ったが、今では放置している。

 灯夜が保健室を出て行く時、出たがらない早苗を夕子と円が、無理やり連れてきた結果がこれだった。

 しかし、早苗の言うことも分からなくはない。もう歩き始めて、軽く体感時間でいっても一時間は経過しているだろう。愚痴をこぼすのも無理はなかった。

 一行が音楽室に行こうとしても、他の場所に飛ばされたり、階段が上がれなかったりと進むことが、容易でなかったのだ。

 早苗の意見を考慮し、二度目の休憩することになった。

 「なんで着かないのよ!」

 床に座るなり、そんなことを言う。

 「落ち着けって、早苗。怒ってもしょうがないだろ」

 「そうだよ。ここはみんなで協力し合わなきゃ」

 灯夜は一人会話から外れ、静流とこの世界のことを考えていた。今、分かっているのは静流は二人に別れ、必ずここ世界のどこかにいること。それと、ここでは『力』が使えないということだけだった。元々、『力』の使えない灯夜にとっては、関係のない話である。

 (せめてこの世界についての情報が、もう少しあれば……)

 鏡の世界は全くといっていいほど、規則性や法則を見つけることができなかった。規則さえ見つかれば、移動も容易になる上、元の世界に戻ることもできるかもしれないのである。だが、灯夜は、規則性を見つけ出すことができないでいた。

 灯夜がそんなことを考えている最中、彼女たちは呑気に会話していた。

 「ねえ、月代って、あんな感じの奴だった?」

 早苗が言った。

 「あんな感じって?」

 「なんか、いつもと雰囲気が違うって思って。なんていうか、前みたいに緩んでないっていうか、やる気があるっていうか」

 上手く言葉にできない様子だった。

 「確かにそうかもな。それよりも、今はどうやってここから出るか、考えた方がいいだろ」

 そうしているうちに、それなりの時間が経過した。

 「そろそろ行こう」

 誰に言う訳でもなく、灯夜は言った。

 「もう少し休んでたって、いいじゃない。まだ、少ししか経ってないんだし」

 早苗は、疲労がとれていないらしい。

 「そう言わないでよ。ここにいてもしょうがないんだし、行こう」

 「そうだよ。頑張ろう、早苗」

 灯夜の言うことには、耳を貸さない早苗も夕子の言葉なら聞き入れてくれる。それが、灯夜のとっては救いだった。それでも、しばらくの間は文句を言ってくる。

 やっと静まった頃には、会話が消えていた。今はただ保健室に向かって夢中で足を動かしていた。

 一つずつ階段を上がり四階を目指す。ここまではなんの問題もない。四階の廊下もどの階の廊下と変わることがなく、味気のない景色が続いている。

 休憩したことが功を奏したのか、はたまた、天が味方したのか、あっさりと目的の場所へ到達することができたのだった。


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