明け暮れ
校舎に戻るため、またしても雨の中を走らなければならなかった。三人は灯夜を先頭とし、その後に二人が並ぶ。丁度、三角形の形をしていた。
感覚的に二百メートルほど走っただろうか、灯夜は足を止めた。
「どうしたの?」
二人も立ち止まる。
「おかしい。とっくに着いてもいい頃なのに、全然着かない」
「ああ、確かに。私は部活でいつも通ってるけど、こんなに遠くはなかった」
灯夜がしばらく考えていると、円が提案した。
「一度、部室棟に戻ろう。それから考えた方がいい」
雨で頭が冷やされたのか、先刻までひどい状態だったにも関わらず、冷静だった。
「いや、たぶん戻ることもできないと思う」
「じゃあ、どうするの?」
夕子はいつも不安そうである。
「とりあえず、こんなところで立っててもしょうがない。今は校舎に入ることだけ考えて、進もう」
雨の中を再び走り出した。円はあまり納得していない様子だったが、黙ってついてきた。
更に五分ほど走ると、ようやく校舎が近づいてきた。校舎にたどり着いた時には、三人とも濡れねずみになっていた。
夕子はその場に座り込むと、息を整えるのに必死になる。流石にバスケ部で鍛えられているといったところか、円はまだまだ走れそうだった。全く変化のない灯夜は、一人周りを観察していた。
左右が反転していること以外は、なんの変化もない。
(どうして、ここは思うように進めなかったり、戻れなかったりするんだ)
一人、考え込んでいると、円の大きな声が聞こえてくる。
「最悪!下着まで濡れちゃってるよ。なんか拭くもんないかな」
「ちょっと円!月代君に聞こえちゃうよ」
「大丈夫だよ。相変わらず心配性だな。夕子は」
けらけらと笑う。それを見た夕子は怒って見せるが、まるで迫力はない。
「と、それより、タオルかなんか探そう。このままじゃ、風邪ひくからさ」
汗が引き、温まっていた体が急激に熱を失ったのか、体を抱き寒そうにしている。
「そうだ。家庭科室になら、タオルと着替えがあるかも」
そう言うと、夕子の腕を掴み引きずっていく。
「ちょっと待って!」
灯夜の声は届かなかった。悪態を吐き、二人の後を追いかける。二人に追いつく頃には、家庭科室に着いていた。