表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/57

提言

 部室棟は、主に室内などで活動する部活が使っており、すぐ隣には体育館や格技場といったものがある。二階建てになっていて、一階は男子専用で、二階は女子専用と決められていた。

 二人とも傘を持っていなかったため、制服が雨で湿っている。

 夕子は灯夜についていくのに必死で、走った結果として肩で息をしていた。

 そんな夕子を気遣うことなく、二階に進み、薄暗い道を各部室のプレートを見ながら歩いていく。二人の間に会話はない。

 三つ目の部屋の前で止まると、プレートを見る。そこには「バスケットボール部」と書かれていた。

 「本当に誰かいるのかな」

 「開ければ分かる」

 それだけ言うと、鍵が掛かっていないことを確認してノブを回した。

 扉の先に見えたのは、頭を抱ええた少女が一人。部屋の真ん中に立ち、なにかを叫んでいる。

 「やめてよ!こんなの違う!」

 見えないなにかを見ているようだった。

 夕子は、この尋常じゃない光景にすっかり怯えている。

 「ねえ、僕の声が聞こえる!?」

 大声を出してみると、こちらを向いて走りよってくる。

 「あんたが、こんなの見せてるのか!一体何なんだ!」

 怒鳴りつけると同時に右手を振り上げ、殴りかかってくる。それをなんなく受け止めると、離れないよう腕を掴んだ。

 「ねえ、落ち着いてよ」

 腕を振り払おうと懸命に暴れるが、効果はない。

 「落ち着いてって」

 掴んでいる手に力を込める。痛みに顔が歪んだ。それが、きっかけになったのか、相手の動きは徐々に静かになっていった。

 床に座り込むと、今度は泣き出した。

 灯夜は、これで今日、何度目かのため息をついた。とにかく、泣かれるのは面倒である。涙は苦手だった。どうしていいのか、分からなくなる。それに、泣き止むまで待たなければならないからだ。

 夕子の時と同じように泣き止むまで待った。落ち着いたのを見計らって、水と食料を渡す。こちらも、夕子と同じく、いい食べっぷりだった。実際、夕子の時より多く食べていた。当然といえば当然である。彼女の方が先にここに来たのだから。

 「一応聞くけど、名前は?」

 「……不動円」

 夕子は円に怯えているのか、離れたところに立っている。ちなみに灯夜は円と向かい合って、ベンチに腰掛けている。

 「どうやってここに?」

 「部活の後、忘れ物に気付いて、ロッカーの中戻って見てたら、急に鏡が光って吸い込まれた。それで、気が付いたらここにいたんだ」

 涙に腫れた目は、その後の苦痛を物語っている。

 「さっきは一体どうしたの?なんで、ここを出なかったの?」

 あからさまに眉を曇らす。

 「さっきのは、幻……というか過去を見せられてたんだ。しかも、何度も何度も同じ映像。目を瞑っても消えなかった。私もこんなとこ出れば、見なくて済むと思って、出ようとした。でも、ドアが開かなかったんだ」

 「それに『力』も使えなかったって?」

 言い当てられ、驚く円を尻目に続ける。

 「石渡も『力』を使えなかったらしい」

 夕子の方に視線を向ける。円も灯夜に倣う。

 「まあ、そんなことは、どうでもいいんだ。不動は神凪のこと、なにか知ってる?」

 やはり、円も神凪という言葉に反応した。円の表情はどんどん暗くなっていき、話を聞ける状況ではなくなった。

 (不動もだめか)

 情報が得られないとなると、次に行かなくてはならなかった。例え、全員助けたところで、情報が手に入るという可能性は低かった。しかし、ゼロではない。灯夜は約束のためなら、なんでもする少年だった。それが、彼にとっての信念だから。

 すっと立ち上がると、その場を立ち去ろうとする。

 「ちょっと、どこ行くの?」

 「保健室に行く」

 「どうして?」

 「なにか分かるかもしれないから」

 そこに夕子が割って入る。

 「円も一緒に行こう。ここにいてもしょうがないよ。ね?円も一緒に連れて行っていいでしょ?」

 灯夜はなにも答えない。

 「さ、行こう」

 円に手を伸ばす。その顔には恐怖の色が消えている。

 「え?でも、いいの?月代はなにも言ってないけど……」

「大丈夫!きっとついてきてもいいって思ってるから」

 「……そうだな。どっちにしろ、こんなところにいたくないし、私もついていく」

 話し合いはが済んだのか、二人は灯夜の後をついてくる。

 自分と行動を共にすることを拒絶するかと思ったが、そうでもなかった。ただ、一人が嫌なだけなのか、信頼してのことなのか、それは分からない。ただ、どちらでもいい話であった。


随分と待たせてしまってすいません!続きを書きました。どうぞ読んで下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ