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 二人は寄り添っていた。遠くから見れば、仲の良い姉妹に見えたであろう。ただ、その二人の関係はそんなものではない。もっと、強い繋がりがあった。

 「やっぱり来てくれたわ」

 目の前に映る映像を見ながら、雫が言う。

 「そうね。……ねえ、月代君がみんなを助ける時、彼女たちを元通りにできる?できるなら、そうしてあげて。今まで苦しめた、せめてもの償いになるかもしれないから」

 静流がそう答えた。

 雫は黙って頷いた。静流の意思なら仕方がない。灯夜が来たことによって、状況が変わっていくのは必至である。

 静流は自分の願いが、届いたことに安堵した。静流の精神は大分侵されていた。閉じ込めた者の叫びが、耳にこびり付き、眠ることさえままならない。

 そんな静流を支えてくれたのは、雫だった。いつでも苦しい時は、傍にいてくれる。そのお陰で、自分は今までやってこれたのかもしれない。

 ここに来てからというもの、後悔の連続だった。ただ、誰にも邪魔されない世界。そう思うと、最高の居場所だった。頭の中を空にし、一人でいると心安らぐ場所だった。

 あと少しでここを去るのかと思うと、残念な気もしなくはない。雫とここにいれたら。そんなことを思う自分もいた。あの閉じ込めた人たちさえいなければ。そんな恐ろしいことも頭に浮かぶ。

 静流は迷っていた。本当は帰りたい、でも、帰る場所はあるのだろうか。居場所はあるのだろうか。また、いじめられたりしないだろうか。そんな途方もない考えが浮かんでは消えた。

 一方の雫も悩んでいた。

 このままでは灯夜が、静流を連れ去っていってしまうかもしれない。今まで芽生えることのなかった恐怖が唐突に雫を襲う。

 (それは嫌)

 三人でここにいたい。邪魔なものはなく、平穏に生きたい。いつの間にか、そんな想いが出来上がっていた。

 雫は目をきつく閉じると、今まで考えていたことを忘れる。

 「少し、行ってくるわ」

 静流に一言声を掛け、灯夜が来るであろう場所に向かう。

 静流と別れ、一人になると、またあの想いが蘇った。こんなこと想ってはいけなかったのに。気を抜けば、気持ちが溢れ出しそうだった。

 二人の心はいつしか離れ始めていた。独自の意思を持ち始めたのかもしれない。それは許されない行為だと知りながらも、止めることはできなかった。

 揺れる想いを押さえつけながら、雫は走る。その顔はいつもの雫のものに戻っていた。


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