通学路
灯夜にとって、学園生活ははっきり言って楽しいものではなかったが、遅刻や欠席はしたことがなかった。楽しくない理由はクラスの環境にある。
クラスメートたちは、成績や家柄といったものを必要以上に気にしており、憎しみや嫉妬といった負の感情が、教室に溢れているのだ。自分こそが一番でありたいと強く願い、表立って行ってはいないものの、裏では生徒同士の蹴落とし合いが常に続いている。
そんなところに毎日のように通う自分はなにがしたいのだろう、と灯夜は登校時にいつも考えている。今日も変わらずそのことについて考えを巡らせていた。
「ふぅ」
そんなことを考えていると自然と溜息が出てしまった。嫌な考えを振り払い、また歩き始めると、不意に後ろから声がした。
「朝からやる気がねえなぁ。ま、その気持ちは、分からなくもないけどな」
振り返って見てみると、そこには少年が片手を挙げて立っていた。
「社か」
社と呼ばれた少年は少し不満げな顔をしながら答える。
「社か……はないだろ。せっかく声掛けてやったのによ」
灯夜は形だけの謝罪をすると二人は歩き始めた。
この灯夜の隣を歩く少年の名は社迅。灯夜のクラスメートであり、唯一友達と呼べる人間である。
長身で、顔はすっきりと整っており、美形と呼んでもおかしくない顔立ちである。短めに切られた髪は茶に染まっていて、耳にはピアスがある。いかにも遊んでいそうな風体だが、彼は至って普通だった。運動能力は高いが、勉強の方は普通で、中の上といったところだ。ただ、『力』に関してはかなりレベルが高い。
社の持っている『力』は『魔力』で、威力もさることながら、その精確さはクラスでも5本の指に入るほどである。社はそんな使い手であるが、アバウトな性格をしていて、何事も適当にしか行わない。しかし、友人が困っている時などは打って変わり、真剣に心配してくれるいい奴なのだ。
そんな社が灯夜に出会ったのは、今から遡ること一ヶ月前の四月のことである。
学年が一つ上がり新しいクラスになって、数日が経ったある日の昼休み。灯夜はいつも通り誰とも話すことなく、席で昼食を食べていた。その時、灯夜の前の席に座り、話し掛けてきた男子生徒がこの社迅だったのだ。話し掛けてきた理由は「自分と同じでクラスに馴染めてなさそうだったから」というものだった。
当初、灯夜は社のことを避けていた。しかし、社はこちらのことなど気にせず、話し掛けてきた。灯夜は、そのしつこさに負け、結局友達となった。灯夜や社にとってつまらなかった学園生活が少しだけマシに瞬間である。
二人は軽い世間話をしながら歩き続け、ようやく校門に到着した。
校門は大きく趣のあるレンガ造りとなっている。所々レンガが風化し、色褪せているのが、この門の古さを感じさせていた。
校門には灯夜と社の他にほんの少しだけしか生徒がいない。遅刻ぎりぎりにくる生徒はほとんどいないためである。
校門をくぐると同時に社はため息をついた。
「また、あんな教室に行かなきゃいけないのか」
「まあ、しょうがないよ」
灯夜がなだめるように言う。
「そうなんだけどさ。あの教室に行って、あいつらの話とか聞いてると、気が滅入ってくるんだよな」
社は本当にうんざり、といった風に答える。
灯夜と社はそんな話をしながら校舎に入っていった。
二本目ですが、これからも頑張っていきます。