僕と推理
今の情報で神凪を除いた全ての情報が集まった。灯夜は一度今までのことを整理するため教室に戻る。
教室に着くと、紙に消失した順に日付と名前、そして、場所を書いた。
五月十四日 神凪静流 学園で消失(推測)。
十七日 蒼崎ゆかり 二年F組にて消失。
十八日 犬神修司 音楽室にて消失。
十九日 広瀬早苗 保健室にて消失。
二十日 不動円 部室にて消失。
二十一日 石渡夕子 三階女子トイレで消失。
静流に関しては、灯夜の推理上こうなった。
教室で一人、この事件について考え始める。
まず第一に消えた人物の関連性は、エリートグループという枠組みに入れて考えることができた。静流は中立といっても、グループの中を出たり、入ったりしていたからだ。
次にどのようにして消えたかである。消失した場になんらかの共通点が、あるとにらんだ灯夜だったが、何も共通点が思いつかなかった。
考えていても仕方がないと、実際にその場に順を追って、行ってみることにした。しかし、いきなり出鼻を挫かれる。夕子のいなくなった女子トイレには、男である灯夜は当然入れないのである。仕方なく、隣の男子トイレに入る。構造上の違いは、ほとんどないためだ。いつも見ている光景だったので、すぐに出て、次は不動のいなくなった部室に向かう。
校舎から西に二百メートルほどのところに建っている部室棟に行くと、部員に頼んで部室を見せてもらう。もちろん男子の、であるが。
ロッカーの中まで確認すると、部室棟を後にした。
一旦、校舎に戻ると、一階の端にある保健室の前に立った。ここは早苗が消失した場所だ。
ドアの前でノックを数回すると中から返事が返ってくる。
「どうぞー」
ガチャリ。
扉を開けてみると、足を組んで座っている女性の姿があった。
女性の名は、御坂久遠。歳は二十代と思われる。はっきりしないのは、教えてくれないためだ。公にはなっていないが、今まで幾人もの無謀な男共が、年齢を知ろうと挑戦したが、敗れ去っている。そして、交際を断った回数も半端じゃない。周りからは、“撃墜久遠”と呼ばれる実力者だ。
性格は掴みどころがなく、面倒臭がりなところもあるが、大人の女性らしい包容力もある人物である。容姿も申し分ない。そのため男女共に人気が高く、学園では有名な保険医だった。
「誰かと思えば、月代じゃない。どうしたの?また怪我でもした?」
声には、少し親しみのようなものが混じっている。
以前、灯夜はこの保険医に世話になったことがあった。それ以来、久遠は灯夜を普通の生徒以上に気遣い、かわいがっている。
「いえ、違います。少しこの中を見せてもらってもいいですか?」
「いいけど、どうしたの?見慣れてるでしょ?」
怪訝な顔をしながら訊ねる。
「少し色々あって。よく見ておきたいんです」
言いながら、すでに辺りを調べている。調べるといっても、ベッド位しか調べるものはないのだが。
あらかた調べ終えると一礼して出て行った。
「なんだったのかしら」
久遠は不思議そうに首を傾げた。
一階から四階まで行くことは面倒だったが、文句は言わなかった。
犬神の消えた音楽室には、人影はなく、外の喧騒は遠のいている。特に調べることもなく、教室を一回りすると教室を出た。
最後にゆかりの消えたF組の教室に辿り着く。
自分の教室となんら代わり映えしない。目新しいものなど皆無だった。それでも念のため調べることにした。
一通り全て回ってみたが、共通点どころか手掛かり一つ見付けることができなかった。立ち止まって腕を組み、じっくりと思考を巡らせる。
外からは単調な雨音が聞こえてくる。
ふと、窓の外を見てみる。一瞬のことだったが、なにかが引っかかった。そこで、灯夜はあることに気付いたのだった。
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