帰路
薄暗い中を歩いていた。一本道なのにも関わらず、迷路を歩いている感覚だった。雨を吸って重くなった靴は、足取りをより重くさせる。それでも歩みを止めることはない。
そうして、歩いていると、道の終わりが見えてきた。その頃には、先ほどの怒りは収まっていた。その出口を出ると、見慣れた光景が広がった。
目の前には、忙しなく車が行き交う、大きめの道路とビルが立ち並んでいる。道は人波が絶えず、活気に満ちていた。学生の姿が多く見られた。どうやら、駅近くのオフィス街に出てしまったらしい。
ここは、学園からやや離れた場所にあるが、交通の便もよく、駅までの通り道でもあり、下校中の生徒がよく使う道だった。灯夜は遠回りになる上、騒がしいという理由で、あまり通ったことのない道だった。
雑踏を鬱陶しく思いながら、灯夜は遅くなった帰路へとつく。冷えた頭で占い師の話について考えていた。
(あの占い師は一体何者だったんだろう)
どう考えても、あの口ぶりからして、自分のことを知っているようだった。しかも、随分と昔、幼少時代のことまでも。
(本当にあの時みたいに周りに影響を与えてるかな)
ふと、そのことで静流の顔が浮かんだ。五日前から休み続けている少女。清く、美しい少女。しかし、どこか陰のある少女。一体、彼女は、今どこにいるのか。様々な疑問が浮かぶ。そして、どの疑問にもまとわりつく答え。自分のせいなのかもしれない。そんな根拠もない答え。
そんなはずはない、と頭を振った。無理やり思考を止めると、足早に雑踏の中を進んでいった。
傘をさしているため、人波を掻き分けて進むのには、想像以上に困難だった。何度も傘がぶつからないよう、動かす。途中、横断歩道を渡り、川沿いに向かって行く。川沿いに近づくにつれ、人の数も減っていった。川は雨の影響で、やや水位が上がっていたものの、いたって穏やかに流れている。
この川は、灯夜が住んでいる岬町と隣町とを分けている割と大きい川である。春には花見が。夏には花火大会と、名所の一つとなっている。
しばらく川沿いに歩くと左に折れ、家の垣根を縫うようにして進む。一見遠回りに見えるが、実際は近道になっている。この道は歩き回っているうちに偶然見つけたもので、灯夜の気に入っている道の一つだった。
迷路のような垣根の道を出ると、緩やかな坂が出現した。この坂を上って行けば、家に着けるのである。
ようやく家の前にたどり着く。はっきり言って心身共に疲れていた。手早く戸を開けると、家に入った。