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男勝りな幼馴染。鹿川由衣の場合

 あおき真幸まさきは俺の幼馴染。小学生のときからずっと一緒だった。


 あいつは男だけど、気が弱くて泣き虫で、だからいつも俺が守ってやんねぇといけなかった。


 女の俺に守られているって、からかわれていたこともあったが、それでも高校生の今まで、真幸はずっと俺の親友であり続けていてくれた。


 そんなあいつから昨日、校舎裏に呼び出された。

 そして……


由衣ゆい。僕と付き合って下さい!」

「えっ? つ、付き合って……って」


 俺は告白を受けた。

 俺より少し背の小さな真幸がピンッと背筋を伸ばして俺を見つめていた。


「ま、待てって! そのっ――つ、付き合ってってことはさ、それって、す、すすっ、好きってことか? 俺を?」


 真幸は深く頷いた。


「そ、その……いいのか? 俺なんかで。ほら、俺って全然女の子らしくないじゃん」

「そんな由衣がいいんだよ。僕のことを守ってくれる、かっこよくて、強くて、優しい由衣が」


 迷いなんてない、誠実な声。本気で俺のことを好きだということが伝わる。嬉しすぎてまともにあいつの顔が見れねぇ。


「お、俺からも、よろしく……」


 顔から火が出る思いで、俺はそう言った。


 こんな俺に……彼氏とか。それもまさか、ずっとそばにいた真幸とだなんて。


 





 そんな人生で一番嬉しい日の翌日。

 朝からウキウキで登校して、部活の朝練をし終えて、教室に入ったときだ。


「……!」


 真幸がクラスメイトの女子と話していた。俺は思わず足を止めてしまう。


 ポニーテールをしたあの女子は、顔良しプロポーション良しで、クラス内でも人気がある。男子が噂をしているところをよく耳にする。

 そんな彼女がどうして真幸と話をしてるんだ?


 いや、まあ、あいつは昔っから優しいからな。困っている人を放っておけない性格だし、頼みごとをされているところをよく見る。そのおかげで男女問わずに友達は多い。


 俺だって小さい頃から真幸に助けてもらってばっかだったしな。

 小学校の体育で俺が膝擦りむいちゃって泣いてたとき、あいつはかついで保健室まで連れて行こうとしてくれた。でも、真幸身長低かったし力なかったしで結局担げなかったんだっけ。


 あとは……今も昔も、いつも宿題とか手伝ってもらってるな。それも真幸の家で。そう、真幸の家で。


 だからあいつが誰と話そうが、それはあいつ自身の勝手だし、俺の方が真幸と付き合い長いからな。それに俺と真幸は、つ、付き合ってるんだし。なんとも思わない。思わないんだけど…………


「…………」


 なんだか胸の辺りがざわついてくる。

 自分の席に座ってからも、何度も真幸を見てしまう。

 なんか妙に話長くねぇか?

 あの女、本当に頼み事をしているだけか?


「ありがとーあおきくん。また何かあったらよろしくね」


 立ち去ったクラスメイトへ向けて手を振る真幸。


 俺は気がついたときには席から立ち上がって、あいつの元へと向かっていた。

 そして俺はその小さな背中に抱きつく。


「まっさきー!」

「うわぁっ!」


 真幸は悲鳴を上げる。


「ちょ……! 由衣!? なにしてっ……。離れてって」

「えっ……」


 あれ、拒絶された……?


 俺が離れると、真幸は顔を赤くし、心臓の辺りを押さえる。


「もう……急に後ろからおどかさないでよ。それに、ここ……教室だし……ね?」


 今、離れてって言った? 言ったよな?


 もしかして、真幸はさっき話してたやつのような女の子らしいのがいいのか?


 俺は運動しやすいようにって思って髪はいっつも短くしていたし、外にいること多いから日焼けで肌は茶色くなってるし。

 あと、口調とか態度とか性格とか色々ガサツだし、それに今は朝練したばっかだから汗臭い……かもしれない。


 そういえば小学生のときの真幸、女の俺に守ってもらってるって、それでイジられてたことあったっけ。真幸、それでコンプレックスとか持ってたりするのかな。


 俺は真幸を思って、いっつも守ってあげてたけど、もしかして余計なことしてたのかな。


 いつか真幸にフラれるんじゃ。


 そんなの、絶対に嫌だ。


 女の子らしくって、どうすれば……


「……!」


 俺はあの女子を睨みつける。


 真幸に話しかけていたアイツを観察して、仕草や口調を真似しようと決意した。













 そして、臨む昼休み。

 チャイムが鳴ると同時に弁当を持って真幸のもとへと向かう。


 のどの調子を整えて、制服が乱れてないか確認して、準備が完了してから俺は声をかける。


「真幸くん、一緒にご飯食べよ?」


 真幸は目をぱちぱちとさせて俺を見ていた。

 ふふっ、驚いてる驚いてる……。どうやら効果ありのようだ。


「あ、うん、えっと……どこで食べようか?」

「私、中庭がいいなぁ」

「じゃあ、そこにしようか」


 俺は真幸と並んで歩き、中庭のベンチまで行く。


 おっと、ただ座るだけでも油断はできねぇ。脚を閉じて座んなきゃならない。さらに背筋を伸ばして可憐な姿を真幸に見せつける。


 そう、俺はこの短時間で女の子というものを学んだんだ。男子から人気なだけあって、彼女からは多くのことを学べた。


 どうだ? これで俺のことを惚れ直すだろう。

 チラッと真幸へ視線をやる。


「えっと、由衣、どうしたの? ……なんか変だよ?」


 真幸は困ったように苦笑いを浮かべていた。


 あれ? なんか思ってたのと違う……。俺の予想だと、もっと喜んでくれるはずだったのに。

 つか、変ってなんだよ。俺はお前に気に入ってもらおうと頑張ってんのに……。


 ……やっぱ、ダメだ。こういうハッキリしねぇの、俺は耐えられない。


 直接、真幸に言わないと、この胸のモヤモヤは止まらない。


「なぁ……真幸」


 でも、声が震えていた。口にするのが怖かった。


「……俺のこと……嫌いになった?」

「――えっ? な、なんで?」

「俺、もっと頑張るからさ。真幸に好きになってもらえるように頑張るからさ! だから嫌いにならないでくれよ!」

「ちょっと、待って待って由衣!」

「俺、真幸がいないと生きていけないんだ!」

「――待ってってば!」


 真幸の叫び声で、俺は冷静になる。


「ご、ごめん……俺」


 咄嗟とっさに謝ると、真幸は優しく首を横に振った。


「僕は全然由衣のこと嫌いになんかなってないよ。むしろ……だ、大好きだよ」


 恥ずかしがる真幸だったが、俺の目を見て好きだと言ってくれた。


「そ、そうなのか? でも真幸、朝、なんか俺に冷たいっていうか素っ気ない態度取ってたじゃん」

「あれは、いきなり後ろから抱き着かれたから、恥ずかしかっただけだよ」

「じゃあ、さっき気まずそうな感じ出してたのは?」

「それは……由衣の雰囲気がいきなり変わったから、びっくりして。ねえ、どうしていきなり変わったの? いや、変わったっていうか……変えたの?」


 真幸はこちらを見て首を傾げた。


「……真幸は、女の子っぽい方が好きなのかなって思って。俺こんなんだからさ、全然かわいくないし、なんか嫌だなって思って、俺……真幸に嫌われたくなくて」


 話していると胸が苦しくなっていき目が熱くなり始める。段々と視界がぼやけていき、目から何かが流れ落ちそうだった。

 すると、真幸はその小さな体で俺を抱きしめてくれる。


「僕は、由衣が好きだよ。かっこよくて、強くて、それでいて優しいところが」


 耳元で聞き、今度は体が熱くなってくる。心臓もバクバクと激しく鳴る。


「もし由衣が女の子らしくなりたいって思うなら、僕もその由衣を好きになる。けど、今の自分が嫌いで変わりたいって思っているんだったら、僕は嫌だ。僕はそんなの認めない」


 そして真幸はじっと俺を見つめた。


「僕は、今の由衣が好きなんだ」


 普段は気が弱くて、なよなよしていたくせに、今はめっちゃカッコいいじゃんか。


 俺は何を勘違いしていたんだ。真幸が告白した相手は、まぎれもなく俺自身じゃないか。

 ずっと一緒にいて、ずっと俺のことを見ていてくれた真幸が、俺のことを好きと言ってくれたんだ。

 何も悩む必要なんてなかったんだ。


 真幸は、俺のことを求めてくれているんだ。


「そ、そうだよな! お前弱っちいからな。俺が守ってやんねぇと……いけねぇよな!」

「うん。頼りない彼氏だけど……これから、よろしくね」

「あぁ……よろしく!」


 そう笑い合って俺は真幸の肩を組む。


 そうだよ……そうだよなぁ……。真幸には俺が必要なんだ……。


 真幸の好きなものを一番知っているのは俺。

 真幸の嫌いなものを一番知っているのも俺。

 俺は真幸んちの場所も間取りも知っていて、真幸がいつ起きていつ風呂入っていつ寝るのかも知ってる。


 ずーっと一緒だった俺が真幸を守れる。

 だから他の女なんかに真幸の彼女は似合わない。


 俺が。いや、俺だけが真幸を幸せにできるんだ。

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