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光る朝君と

最終回です

幼稚園の頃から君と共に過ごして早十数年。

この道を並んで通うのも、もう指折り数えるほどになった。


まだほんの少し、冬の寒さが頬に残っている三月。

制服の裾を揺らしながら歩く私に、隣を歩く君――遥が、突然手を伸ばした。


「ほら、蕾……これで暖かいでしょ!」


ふわりと、彼女の指先が私の頬に触れた。

柔らかくて、ほんのり冷たくて、それでも“気持ちの奥”に火が灯るようなぬくもりだった。


「……ありがと」


「えへへ〜、ほっぺ赤くなってたから、つい」


「それ、寒さのせいだけじゃないと思う」


「ん? 何か言った?」


「ううん、なんでも」


心臓が跳ねるたびに、言葉が喉の奥に沈んでいく。


遥の隣を歩くことは、私にとって“当たり前”だった。

だけど、もうすぐそれが“終わってしまう”ことを、私は誰よりも怖がっていた。




帰り道、いつものコンビニ前。

ココアを半分こして、いつものベンチに腰を下ろす。


「……さ、さむ……!」


「そりゃそうでしょ、まだ風強いし」


「それでも! ここで飲むココアは格別なんだから!」


遥が笑ってカップを差し出す。

指先が触れた瞬間、さっきのぬくもりが蘇った。


「ねぇ、蕾」


「ん?」


「私たち、卒業したら、どうなるんだろうね?」


「……どう、って?」


「このまま、別々の道に行って、気づいたら連絡も減って、

 “昔は仲良かったんだよね〜”って、そんな風になったら……やだな」


遥の声が、ほんの少しだけ震えていた。


「なら、そうならないようにしようよ」


「……蕾が言ってくれるなら、頑張れるかも」


彼女は、私を信じてる。


きっと、昔からずっと。

どんなにふざけていても、真剣な時の私は、遥を裏切らないって。


だから今こそ、ちゃんと伝えなきゃいけない。


「遥」


「ん?」


「私……遥のこと、すごく、好き」


「……え?」


「今までの“好き”と、ちょっと違う。

 友達とか、幼なじみとか、そういうのじゃなくて。

 ……恋として、好きなの」


遥の瞳が揺れた。

ココアの湯気に混ざって、ふたりの間に沈黙が落ちる。


だけど――すぐに、彼女は微笑んだ。


「……よかった。

 私も、蕾のこと、そういう意味で好きだと思ってた」


「ほんと?」


「うん。

 今日、手を伸ばしたのもね。

 本当は、ずっとこうしたかったから」


遥の手が、私の手をぎゅっと握った。


指先が冷たくても、心の中は、

まるで春が訪れたみたいに、あたたかかった。




その日の朝と、今と、

世界は何も変わっていないようで――

私のすべてが、確かに変わっていた。


“友達”ではなく、

“恋人”として、隣に立つ。


そんな未来が、

この光る朝の中ではっきりと見えた。


残された日々は少ない。

だけど、今日から始まる日々は、もっとたくさんある。


「ねえ蕾、明日もまた、手つないで通学しよ?」


「うん。卒業しても、毎日、手つないで歩こうね」


頬に触れた手のぬくもりは、

もう“さよなら”じゃない。


それは、私たちの恋の始まりだった。


付き合い始めたからと言って、

特に大きく変わるわけでもなかった。


いや――正確には、“恋人繋ぎ”くらいはするようになったかな。


駅へ向かういつもの道、

遥がそっと私の手を握ってくる。


それまで、ただ並んで歩いていた手の距離。

それが、指を絡めて歩くだけで、こんなに心が弾むなんて。


「蕾、今日はちょっと冷たいね?」


「手?」


「ううん、言い方が可愛すぎて心があったかいって意味!」


「意味わかんないよ……」


「でも好き!」


毎朝、同じ道を歩いて、

バスの時間に合わせて校門をくぐって。

それだけの“繰り返し”が、

いまはキラキラして見える。


“恋人になったから特別になる”のではなくて――

「君と一緒にいられる」という事実が、何よりの宝物だった。




教室では、あまり変わらないふりをしていた。


でも、ノートの端に「ゆ」って書きかけては消して、

窓の外を眺める遥の横顔に見とれてしまって、

提出物を忘れて二人揃って怒られるのも、

なぜか全部、楽しかった。


「ねえ蕾、私たちってバレてると思う?」


「たぶんね……」


「やっぱり? だってさ、放課後のあれ、誰かに見られてたかも」


「あれって……どの“あれ”?」


「おでこくっつけたやつ!」


「わー! それ言うなって!」


「ふふ。恥ずかしがる蕾も、付き合ってから知った“新情報”だよ」


「じゃあこっちも言っていい? 遥、朝ぼーっとしてる時、ちょっと口あいてる」


「えっ、え、うそ!? やだ、やだやだ!!」


「やだって言っても私の脳に保存済み」


「ハッキングじゃん! 脳内侵入罪だよ!!」


「じゃあおあいこでしょ。お互い、初めて知ることだらけだし」


「それって、もっと一緒にいたいってこと?」


「……うん、そうだよ」


なんでもない放課後の教室。

ただふたりで笑い合えるだけで、

まるで世界の中心がここにある気がした。




卒業式まで、あと三日。


時間は容赦なく過ぎていく。


この制服も、この教室も、この風景も――

もうすぐ「過去」になる。


それでも、私たちは変わらず並んで歩く。


「ねえ、蕾」


「なに?」


「この先も、ずっと恋人でいてくれる?」


「もちろん」


「遠くに行っても?」


「うん」


「忙しくなっても?」


「絶対に」


遥はそれを聞いて、ほんの少し泣きそうな顔で笑った。


「ねえ、じゃあさ。卒業式の後、あの坂の上で、もう一回だけ、“はじめまして”しよ?」


「……うん。今度は、“未来のふたり”として、だね」


春の朝日が昇っていた。


私たちはまだ、“卒業”の意味を知らない。

でも、“始まり”の予感だけは、しっかりと手の中にあった。




卒業式の日、私たちは柄にもなく泣いた。


在り来りな別れとはいえ、

三年間、同じ空気を吸って、同じ黒板を見ていた友人たちと――

もう、毎日顔を合わせることはなくなるのだと思えば、

自然と涙が込み上げてきた。


遥も、少しだけ目元を赤くしていた。


「バレるかな、マスカラ」


「大丈夫、もうみんな泣いてるよ」


「そっか、じゃあ……泣いてもいいよね」


私の袖を握りながら、そっと涙を拭うその仕草が、

やけにいとおしくて、また胸がきゅっとなった。


教室に戻り、担任の先生と別れを交わし、

黒板に寄せ書きをして、皆でふざけて写真を撮って――

いよいよ、本当に「卒業」がやってきた。


私たちは、名残惜しそうに手を振り合いながら、

約束の場所へと歩き出す。




それは、学校の裏手にある、小高い坂の上。


風がよく通るその場所は、

春になると誰よりも早く桜が咲き始める。


「……まだ、五分咲きってとこかな」


「でも十分綺麗」


少し肌寒い風の中、

私たちはふたりきりで向かい合う。


制服のまま、花びらが舞う中で、

まるで“はじめまして”の時のように――

新しい“わたしたち”として、出会うように。


遥がそっと、私の手を握った。


「ねえ、蕾」


「……うん」


「今日まで、隣にいてくれてありがとう。

 そしてこれからも、また“よろしく”」


「……ふふ、なんか、それ、プロポーズみたい」


「言われちゃった?」


「うん。じゃあ、私も言わせて」


私は、目を細めて笑いながら、彼女の指をぎゅっと握り返す。


「はじめまして。これからまた、たくさんの朝を、

 “恋人”として、隣で迎えに行くから。

 その全部に、君がいてくれたら、私はきっと幸せです」


遥の目が潤んで、でも笑っていた。


「……だめ、もう一回泣きそう」


「いいよ。今日は、泣いてもいい日なんだから」


「でも、ほっぺ濡れてるとキスしにくい」


「キス……って……」


「……だって、卒業祝いだよ?」


そう言って、遥がそっと顔を近づけてきた。


私は目を閉じて――

その温度を、優しく受け取った。


桜の花びらが舞う中で交わした、それは**“始まりのキス”**だった。




春は、終わりの季節じゃない。

春は、始まりの合図。


「光る朝に、君と出会って、恋になった」


この先、いくつの朝を迎えても、

私は今日を、きっとずっと覚えている。


そう、ここからは――


“ふたりの時間”が、未来になっていく物語。


ここまで書いてこれたの本当に不思議。


やっぱり勢いとか大事だなと感じる大切であり貴重な時間でした。


櫻川大縁の次回作にご期待下さい。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

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