嫉妬する彼女を愛おしいと思う
昼休みの中庭には、今日も人だかりができていた。
その中心にいるのは、うちのクラスの“王子様”、白瀬 蓮。
長身に、端整な顔立ち。
涼やかな目元と、いつも完璧な立ち居振る舞い。
同性の女子から憧れの視線を集め続けている彼女――
そして、その彼女の彼女である私は、教室の窓からそれを見ていた。
「……また囲まれてる」
思わずこぼれた声が、少し尖っていたのを自分でも感じる。
机の上ではお弁当が冷めていく。
それでも目は、彼女のところから離せなかった。
「モテるのはわかってる。前からだし、今さら驚かない」
でも。
「……けど、あの笑顔、私にも向けてくれたやつじゃん」
そう思うだけで、胸の奥がざわざわする。
嫉妬、してる。
ぐつぐつ煮えたぎって、どうしようもないほど。
付き合ってるのに。
毎朝一緒に登校してて、週末も映画行って、部屋でゲームして。
なのに、たった数十分の昼休みで、心が不安になる。
自分でも、ほんと面倒くさいって思う。
でも――それが恋ってやつなんでしょ?
*
午後の授業が終わって、私はさっさと帰る支度をした。
蓮が教室に戻ってくる前に出ようと思った。
なんとなく、顔を合わせたらまた変に意地を張りそうだったから。
でも、教室を出たところで、彼女は待っていた。
「おーい、逃げ足早いじゃん、うちの彼女さん」
「……別に逃げてないし」
「むぅ、それは冷たい」
蓮は笑って、私の肩に手を乗せる。
その仕草に心がきゅっとなる。
だって、彼女のこんな仕草を、さっきの女子たちにもしてたかもしれないから。
「……昼休み、楽しそうだったね」
「え?」
「囲まれて、話して、ああいうの、好きなんだ?」
蓮の笑顔が少しだけ消えた。
「……もしかして、嫉妬してる?」
「……してない」
「はい、ウソ~。顔がちょっと膨れてる」
「してないってば!」
思わず声を上げたら、蓮がちょっと驚いたような顔をした。
でもすぐに、優しく微笑んだ。
「ごめん。……ほんと、ごめん。
ああいうの、断っても勝手に寄ってきて、
無視すれば感じ悪く思われるし、でも君を不安にさせるのは違うし……」
「別に、責めてないよ」
「ううん。されても仕方ないよ。
だって――こんなに愛されてるんだもん、私」
ぽん、と頭を撫でられる。
「嫉妬してくれるの、嬉しい。
なんか、私だけの“君”って感じがするから」
「……うざい」
「でも、好きでしょ?」
「……うん」
私は俯いて、彼女の袖を掴んだ。
「好きだよ。……めちゃくちゃ。だから、怖くなる」
「私もだよ」
蓮はそっと耳元で囁いた。
「君が誰か他の子と仲良くしてたら、私だって同じように嫉妬する。
だって、私は“彼女”なんだから。君の、一番になりたい」
それは、強がりじゃない、まっすぐな言葉だった。
こんなに好きにさせておいて、
こんなに不安にもさせておいて、
それでも――
「ずるいよ、蓮」
「うん。だから、ずるい彼女を、もっと好きになって?」
「……ずるい」
私は彼女の胸に顔を埋めた。
中庭じゃ見せない顔。
誰にも見せない、本当の蓮の心。
それが私だけのものだと思えるから、
嫉妬なんかよりも、もっと愛しくなる。
今日も私は、嫉妬して、拗ねて、
でもそれごと全部、彼女に包まれて、恋を深めていく。
この感情は、ぜんぶ恋の味だ。




