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第15話

「シーラ、突然で悪いんだが明日の夜予定を開けておいてくれないか」

「構いませんが……どうかされたんですか?」


 いつもの如く突然やってきたエリック様は私の部屋に入るなりそんなことを言ってきた。しかもその表情は重々しく、いつものお出かけのお誘いではないようだった。


「実は……兄上が君と話したいらしいんだ」

「兄上って……こ、国王陛下ですか!?」


 エリック様のお兄様は現国王陛下だ。国で一番偉い方とお話しなんて……私何かやらかした? もしかして父のことでやはり私にも処罰が……。


 顔が青ざめるとエリック様は慌てて手を振る。


「ああ、違うんだ。家のことじゃないんだ。いや、少し関わりはあるみたいだが罰が降るわけじゃない。ただ単に家族として私の婚約者と話がしたいらしいんだ」

「家族として……」

「ああ。家族だけの晩餐会だから気を張らなくていい。兄上と義姉上とフランシスカ、私たちだけだから」

「そ、それは……逆に気が抜けません……」


 王様と王妃様、そしてお姫様との晩餐だなんて。今までの人生だったら絶対関わることのなかった雲の上の方々。緊張で震えているとエリック様が私の手を握る。


「シーラが無理と思うんなら断るから」

「……い、いえ。旦那様のご家族には良い印象を持っていただきたいので」

「シーラ……!」


 握り拳を作って意気込むと、破顔したエリック様は私を思い切り抱きしめた。あの日、彼からお母様の話をされてからエリック様のスキンシップが増したような気がする。


 恋愛経験ゼロの私はいつだって固まってしまって反応できなくて。いつか私からも愛情表現できるようになりたい。




 ◇◇◇




 ドレスをお母様に見立ててもらい、迎えにきてくれたエリック様の馬車に乗り込んで王宮へと向かう。その間ずっとガッチガチの私をエリック様が小さく笑う。


「そんなに緊張しなくていいから」

「む、無理です……王族の方々とお食事なんですから……粗相をしてしまったらごめんなさい……」

「そんなこと気にしなくていい。ただのプライベートなんだから」

「でも、でも……!」

「シーラ」


 緊張から泣きそうになっていると、隣に座るエリック様の手が私の頬に触れて彼のほうに向かされる。吸い込まれそうになるほど綺麗なアメジストの瞳に心臓の鼓動が更に速くなる。


「あ、あの……」

「シーラはずっと私のことだけを見ていればいい」

「え……」

「そうすれば緊張しないだろう?」


 目を細めて微笑むエリック様。私のために言ってくれているのは分かっているのだけれど、晩餐会より貴方の顔を顔を見ている方が緊張します!


 自分の格好良さを把握していないエリック様の腕に手を添えて王宮の廊下を歩く彼についていく。


 食堂の前には従者が立っていて、私たちに気付いた彼は頭を下げて後ろのドアをノックし「ブランジェ公爵様並びにボードリエ伯爵令嬢様がご到着されました」と声をかけると中から「入れ」と返事が聞こえて緊張がまたぶり返す。


 肩に力が入ったことに気付いたエリック様が腕を引き寄せて「大丈夫」と耳元で声をかけてくれて、たったそれだけで緊張が緩んで私は微笑んで頷く。


 従者がドアを開き、エリック様と並んで中に入ると部屋の真ん中にある大きな食卓の奥に三人が座っている。


「よく来てくれたな二人とも。さ、こちらにかけなさい」

「はい」

「は、はい」


 エリック様に続いて隣の席に座る。上座には王様、エリック様の対面に王妃様が。王妃様の隣にフランシスカ様が座っている。


 向かいに座って目が合うと、彼女は愛らしく微笑んでくれて胸がキュンと高鳴ってしまった。


「シーラ嬢、急な呼び出しですまなかった」

「と、とんでもございません」

「はは。そんな固くならなくていい」


 目尻に皺を寄せる笑い方がエリック様と似ていて兄弟なんだぁと納得していると思っていると「乾杯しよう」と王様がグラスを手に持ったので、慌ててワインが入ったグラスを持ち乾杯して一口飲むとあまりの美味しさに目を輝かせる。


 お酒に慣れていない私でも飲みやすくて、さすが王族御用達。料理もお城の一流シェフによる豪華なディナーで全部に舌鼓を打った。


 デザートは見た目がお洒落な上にものすごく美味しくて、口に運ぶ手が止まらないでいるといくつもの視線を感じて顔を上げると全員の視線が私に集まっていて、驚きのあまりデザートが変なところに入るところだった。


「ふふ。可愛らしいお嬢さんね」

「そうなの。シーラ様本当に愛らしくてわたくしの大事なお友達ですわ」

「エリックには勿体無いな」

「どういう意味ですか兄上」


 四人の言葉からして食べているところをずっと見られていたらしく顔が熱い。


 楽しそうに談笑している風景は普通の家族で王族だからと緊張していたのが馬鹿みたいだ。そんなふうに思っていると、陛下が真剣な眼差しでこちらを見てくるので思わず背筋を伸ばした。


「さてシーラ嬢。此度のキャロラインの話は弟から聞いているかな」

「は、はい。陛下の手を煩わせてしまい申し訳ありません」

「頭をあげてくれ。君に謝罪させるために呼んだわけじゃないんだ」


 深々と頭を下げるもそう言われ、恐る恐る顔を上げれば両陛下の眼差しは柔らかかった。


「それにあれはあの家の問題で君はもう関係ない。そうだろうエリック」

「はい。彼女はボードリエの娘です。あの家とは無関係です。だから気にやまないでくれシーラ」

「……お心使い感謝いたします。ですがあの人たちは家族でした。家族がしていたことを知らなかったことが罪なんです」

「シーラ様……」


 そう。書類上赤の他人だとしても半年前まで人を売ったお金で私は生きていたのだ。もう関係ないからと私だけ処罰が下されないのは私が許せない。


「……本当、お前には勿体無いお嬢さんだなエリック」

「……そうですね。私には眩しいほどに真っ直ぐで、だからこそ惹かれたのかもしれません」

「まさかお前から惚気話を聞かされる日がくるとは思ってもいなかった」

「……陛下が話を振ったのでしょう」

「昔からああ言えばこう言うな、お前は。本当にこんな男でいいのか? シーラ嬢」

「も、勿論です。私には勿体無いぐらいとても素敵な方で……逆に私なんかで良いのかと不安になります」

「シーラ。私は君だから良いんだ。不安がる必要はない」

「エリック様……」


 肩に手が置かれ見つめ合っていると「ごほん」と陛下の咳払いが聞こえて慌てて目を逸らす。ここにはエリック様のご家族がいるんだった……! 甘い雰囲気で忘れかけていて恥ずかしい。


「弟のこんな場面を見せられては居た堪れんな」

「ふふ。仲がよろしいですわね」


 両陛下の揶揄う声に私の頭はもう茹だりそうになりそうだった。本当に恥ずかしい……。


「ねえシーラ様。今日は泊まっていきませんか?」

「え!?」


 突然のフランシスカ様もお誘いに大きな声が出てしまい慌てて口を手で塞ぐ。


「もう夜も遅いですし、わたくしお友達とお泊まり会をするのが夢でしたの。叔父様よろしいでしょう?」

「……シーラが良いなら構わないよ」

「シーラ様、お願い」


 フランシスカ様はアメジストの瞳を潤ませ、眉を下げてお願いのポーズをしてくるので、そんな愛らしい顔を見せられたら断られるはずがない。


「わ、私でよければ……」

「ありがとうシーラ様! それじゃあわたくしの部屋に行きましょう」

「え、あ、」

「ならお前も泊まっていけ。良い酒が入ったんだ」

「……お相手になります」


 フランシスカ様に手を引かれて食堂を出て行こうとする前に慌てて振り返ると、こちらを見ていたエリック様が困ったように手を振って見送ってくれた。



 それから彼女の部屋に入るととんでもない広さに開いた口が塞がらない。これがお姫様の部屋ということか。


 私たちはお揃いのナイトドレスを身に纏って二人で寝ても十分余る大きさのベッドで彼女の隣に寝転がる。


 寝心地抜群のベッドなのに緊張で全く眠れそうにない。髪型もお揃いの三つ編みで結ったフランシスカ様がこちらに寝返りを打つ。


「ねえシーラ様」

「は、はい」

「わたくしね、こうやってお友達と一緒に寝るのが本当に夢だったの。アネットもフィオナも大事なお友達だけれど、二人はどこか私と一定の距離を取っているから。しょうがないわよね、わたくしは姫で二人は家に言われてわたくしと一緒にいるんだもの」

「そんなこと……!」

「ええ。分かってる。それでも家臣の子供だからどうしてもね。こんな姿シーラ様にしか見せれないわ。家族の貴方にしか」

「……家族」

「叔父様の奥方になるんだもの。姪の私とも家族でしょう? といってもわたくしのほうが年は上なんだけれど。おかしいわね」

「……そうですね。ふふっ」


 私たちは内緒話をしているかのように小さく笑い合う。こんなことレイラとだってしたことがない。


 家族って血のつながりのことだと思っていたけれど、そうじゃないことをエリック様とお母様に教えてもらった。


「それじゃあ……家族になるので私のこともシーラと呼び捨てで呼んでください」

「いいの?」

「はい。フランシスカ様にそう呼ばれたいので」

「分かったわ。それじゃあシーラもわたくしのこと呼び捨てで呼んでちょうだい」

「そ! それは畏れ多いので無理です……」


 本当に無理だと伝えると彼女は「しょうがないわね」と諦めてくれたけれど、多分エリック様に嫁いだ時に無理にでも呼ばされそうだ。


「シーラ、叔父様のことお願いね」

「はい……おまかせくださいフランシスカ様」


 それから私たちはこっそり夜遅くまで話に花を咲かせ、手を握り合って眠りについていた。


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