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彼らの前で待ち受けるもの

 そして、その朝。

 夜明け前に合計三万人の将兵と大量の物資が転移していった場所を眺めていたクペル城を含めた地域を管轄する司令官アルディーシャ・グワラニーは微妙な表情を浮かべながら、隣に立つ側近に視線をやる。


「バイア。おまえはどう思う?」


 この言葉だけを聞けば、側近の男が問われているのは友軍がおこなう今回の作戦内容やその成功の可否である。

 もちろんグワラニーのこの問いかけにはその要素も含まれてはいる。

 だが、それが可能になったある状況。

 それについての見解。

 そちらの方が割合として圧倒的に多いと言える。

 むろん問われた側もその辺は十分に承知していた。


 まだ前日の陽が沈まぬ頃。


 ティールングルへの転移を敵に悟られぬために主力部隊をクペル城近郊まで後退させると通告してきたポリティラの使者に対し、グワラニーは承知する旨を伝えたうえ、説明にあったその策についていくつか質していたのだが、珍しいことにその問いについてすべて明確な答えを得ていた。


 実はその男ドゥアルテ・ソアレスはグワラニー嫌いが揃ったミュランジ城攻略部隊幹部のなかでは、アルタミアの副官アペル・マラニャンと共にグワラニーに対して悪意を持たぬ珍しい者であった。

 それがグワラニーが問いの答えを得た理由となる。

 

 そして、グワラニーは最後にある疑問について問うた。

 このように。


「……我々がミュランジ城攻略に関しては部外者であることを承知のうえで最後に尋ねる」


「突破が容易ではない強敵に対し、転移魔法で背後を突く。たしかに見事な策であるし、成功すれば、非常に見栄えのよいものとなるだろう」


「だが、他の場所が転移不能だったにも、ティールングルだけが転移が可能だったという事実について将軍たちはなにひとつ疑いを持たなかったのか?」


 これは見え見えの罠。

 それをその場にいる誰もが気づかなかったのか?


 グワラニーの言葉はそう言っていた。

 一応断りの言葉は前置きしているものの、それは上官を批判するものであり、捉え方によっては侮辱とさえいえるものだった。


 だが……。

 ソアレスは少しだけ悲しげな表情を浮かべてそれに答える。


「その疑念を言葉にしたかどうかということであれば、否となります。ただし……」


「……これはあくまで私の想像ではありますが……」


「口にはしなかったものの、ポリティラ様も、他の将軍の方々も敵軍が待ち構えていることは十分に予想していると思います。私でさえ怪しいと思うくらいなのですから。ですが……」


「敢えてそれを口にせず実行に踏み切ったのは、事態打開のためにそれ以外に選択肢がないのだから、危険を承知でやるしかないと覚悟を決めているということだと思います」


 ……なるほど。

 ……つまり、それだけ追いつめられているということか。

 ……さすがに罠の可能性に気づかなかったということはないと思ったが、功を焦って目が曇ったと疑ったのは失礼だった。


「つまらないことを聞いた。今の問いは忘れてくれるとありがたい」


 グワラニーはソアレスとの会話をその言葉で締めくくった。


 さて、裏話的なものを語り終わったところで、グワラニーとバイアとの会話の続きに話を戻そう。

 つまり、グワラニーが本当に問いたかったもの。

 それは彼らが無事転移できたその理由ということになる。

 そして、問われた者が口にした答えは……。


「あれは間違いなく罠でしょうね」


 もちろんそれにはグワラニーも同意する。

 問題はその罠の首謀者である。


 単純に考えれば、その罠を用意するのは城を守る者たちとなる。


 どれだけ正攻法に拘る者であっても、彼我にあれだけ圧倒的な力の差があれば、それを避けようとするのは攻め手としてきわめて常識的な考え方といえるだろう。

 物理的な渡河が叶わぬということになれば、使われるのは転移魔法。

 もちろんそう見せかけるという手もあるが、どちらにしても、転移魔法を使用するというのはそれなりの者であれば容易に思いつく手である。


 当然それを防ぐためには転移避けを施す。


 こちらも守備側の常道である。


 だが、相手は一か所とはいえ、転移可能な場所を残していた。

 相手の愚かなミスということでなければ、それは敵を転移をさせたうえで叩くということを意図しているとしか考えようがない。


 だが、問題もある。


 そう。

 それをおこなうためにはいつ来るかわからぬ相手のために伏兵を用意しておかねばならないのだ。

 しかも、千や二千ならともかく、数万、場合によって十万の敵を懐に呼び寄せる可能性もあるのだから、それを確実に仕留めるだけの数を用意しなければならないのだ。

 それだけの余剰戦力がミュランジ城を守るフランベーニュ軍にあるのか?

 というより、あれだけ無双状態の味方を抱えているのなら、完全な転移避けを施したうえで、苦労して狭い回廊を抜け出てくる相手を袋叩きにしたほうが無駄な戦力を用意する必要もなく効率的である。

 なぜそれをやらずにわざわざそのような大量の遊兵をつくるような策をおこなったのか?

 しかも、緒戦ならともかく、彼我の戦力バランスがハッキリしたこの状況で。


「……状況を考えれば、その策をおこなっているのはミュランジ城に籠る者たちではないでしょうね。そう考えると……」


「おそらくフランベーニュ西方軍司令官アルサンス・ベルナード。その策の首謀者は彼でしょう。彼であれば、たとえ十万の大軍が転移してきてもそれを包囲し削り取る戦いをするだけの戦力を抱えていますから」


「彼にとって正攻法を捨て、安易に奇襲や囮作戦といった策に頼る者は道化師の類。完膚なきまで叩くでしょうね」

「まあ、たしかに理由のなかにはそれもあるだろう。だが、つまらぬ損出を避ける戦いを旨としているベルナードには不似合いでもある。わざわざそれをおこなうのにはおそらくそれ以上の理由がある」


 側近の言葉を部分的に否定したグワラニーは自身の見解をつけ加える。


「……それによって連敗続きで意気消沈しているフランベーニュ軍兵士の活気を取り戻す。純軍事的には無駄なことと知りながらそれをやらねばならない理由ならこちらの方がよりふさわしい。どちらにしても……」


「……ティールングルはこの時点で完璧に包囲されているだろうな」

「ベルナードが噂どおりの人物であれば、十万の敵を殲滅できるだけの戦力で包囲しているでしょうし、相当規模の予備戦力も用意しているでしょうね。それこそ一兵たりとも逃がさぬように」

「そこにやってくるのがわずか三万。厳しいな。相当」

「ええ。側近の言葉どおりもちろんポリティラたちも敵が待ち構えていることは想定しているでしょうが、その数は数万程度。十分に排除できる範囲と思っているでしょう。まあ、そうでなければ実行に移すはずがないのですが」

「ああ」


「……出発直前という貴重な時間を削ってまでやってきた奴が下げたくもない頭を下げて頼み込んできたから授けた策も所詮小細工の類。それだけの数が相手では押しつぶされるだけだろうな」


「それにそれを使うことになるのも予定よりもだいぶ早くなるだろうな」


 側近との会話が一段落したところでグワラニーは少し前に顔を合わせた男の顔を思い浮かべながらそう呟いた。

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