魔法のお菓子
ナニカクジャラでグワラニーたちと出会った直後、勇者ファーブとその同類ふたりが、「あれで本物の勇者なのか」と敵に疑われるという最大級の醜態を晒すことになった発端。
それは……。
再会直後に差し出されたアリシアの手作り菓子となる。
いくらおいしい料理を振舞うと言ってもそれは所詮言葉。
しかも、それを言っているのが魔族。
つまり、敵対している相手。
それだけで信じるお人よしなどそうはいない。
まして、彼らは勇者一行。
あり得ない。
だが、そこに実態が伴えば、話は別だ。
そして、目の前にそれについては彼らのなかでもそのおいしさはすでに検証済。
当然ながら、そのすべてが三人の年少組の腹に収まりすぐさま完食となる。
そこにその製作者からの言葉がやってくる。
「現在私たちが救援をおこなっている村に戻れば、まだお菓子はあるのですが……」
剣士としてはともかく、それ以外のことについていえば、平均以下の三人がアリシアに勝てるはずがない。
しかも、今のアリシアには最高の武器がある。
当然のように誘い込まれてしまう。
「本当か」
「嘘を言っても仕方がないでしょう。それに、村の方々のために炊き出しもおこなっているのですが、非常に評判がいいですよ。おいしいと」
「もし、良ければそちらを味わってはいかがですか?」
「もちろんそちらも私がつくりました」
「そ、そうか」
その瞬間、タイミングよくブランの腹部から大きな音がなる。
「あらあら、そちらの方のお腹がわかりやすい返事をしてくださいましたね」
「でも、それは村の人が食べるものでしょう。この馬鹿三人組なら百人分くらい平気で食べます」
すぐにでもイエスと返事しそうな三人を押しのけて言葉を差し込んだのはフィーネだった。
だが、色々な意味を含んだフィーネのその言葉にも笑顔を崩さないアリシアはまったく動じることはない。
「大丈夫です。食べ盛りの三人と上品なふたりが増えてもまったく問題ないくらいの材料を持ち込んでいますから」
そう言ったアリシアはフィーネからアリストへと視線を移す。
……これはすでに勝負ありだな。
心の中で呟き、首を振ったアリストは小さな声でこう答える。
「まあ、もともとそこに行くつもりだったのだ。せっかくだからご馳走になりますか」
「おう」
「急ぐぞ。アリスト」
「そうだ。ここまで来て売り切れは勘弁だからな」
「まったくだ。匂いだけで終わりなど拷問だ」
「そのとおり」
「……アリスト。私は今ほど彼らが自分の仲間だということを恥ずかしいと思ったことがないです」
「私も同じ気持ちですよ」
恥ずかしい言葉を盛大にまき散らしながらどんどん進む三人の背を眺めながら、男女ふたりは苦笑しながら小さくため息をついた。