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遅れてベルダ姉様とその旦那様もやって来た。
ベルダ姉様がずっと扇で口元を押さえていることに違和感はあった。
フレディの嫁の話になって、
「は?」
と言ったときに見えてしまった。
「ベルダ姉様、その歯どうしたの?」
私は手紙で聞いていたが、サイカ姉様には話してなかったようだ。
ベルダ姉様は夫に聞こえぬように、小声で答えた。
「結婚した者はこうする風習なんですって」
「痛かったでしょう?」
エリー姉様がベルダ姉様を抱き締める。サイカ姉様は自分のほうが大変だったという顔をして声もかけない。
夫たちは窓から外を眺めている。さすがにこの季節は花も少ない。こっちは姉妹で、あっちは他人だけれど、親族ではある。不思議。
ベルダ姉様の旦那様はおじさんで、禿げていた。細い目の小太りで、下品な感じがする。それでももう身内なのだ。
コットに手招きをしてトイレに連れて行ってもらったときに聞いてしまった。
「婚姻はします。その暁にはイネスを側めにという約束です」
フレディが父様に懇願しているようだった。
その願いのためにずっとフレディは動いて来たのだ。小姑である私たちを売るように金を得て、父様の役に立ってきたつもりなのだろう。
「考えよう」
父様のその言葉を聞いてしまった私は震えた。
コットとそ知らぬ顔で皆の元へ戻る。
フレディも若干顔に暗い影を落としたまま新妻と挨拶に来た。どんな女かと思っていたが、きれいでびっくり。
「亭山より参りましたイリハと申します」
エリー姉様と同じ歳くらいに見える。
「姉様方、この度はわざわざお集まりいただきましてありがとうございます」
フレディももう子どもの顔じゃない。なにかを諦めて吹っ切った人間の顔をしている。大切なものを得るために別の大切なものを失うということは世の中ではよくあることなのかもしれない。




