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朝食はトマトのリゾットだった。アンナのおいしいの顔はかわいい。正直、つんつんした女の子だと思っている。笑ったところを見たことがない。
本当にすることがなくて、コットもいなくて、寂しい。
杖で外に出て、裏庭のブランコに座った。
このブランコは小サイカときに父様が私のために作ってくれたものだ。姉様たちが遊んでいるのをずっとここに座って見ていた。混ざれない。遊べもしない。見ているだけ。かろうじて片足でもブランコは漕げた。
寂しいと言えず、動きもしない足を恨んだ。
「妖精かと思った」
コットだった。
「うふふふっ。自分の妻によくそんなこと言えるわね。また一人で先に帰ってきたの? 慶事だから刀もないのでしょう?」
「いざとなれば素手で戦うさ」
と私の好きな手で私を包む。
「護衛団に迷惑かけないでくださいね」
「早く会いたくて。最初にリンネットを見たのもここだった」
とコットが告白する。
「てっきり前回の舞踏会かと」
「二年前の舞踏会の日、ここに座っていたのを目にした。俺はまだ王になりたてで、どうしてもリンネットが欲しかった。蒼山が金に困ったと聞けば用意して兵が必要だと耳にすれば即座に貸した」
「そうだったの?」
結婚を申し出たコットは私の父様から私を第二夫人か愛妾にと勧められたそうだ。私に正妻は重荷だと思ったのだろう。
「君を妻にできないなら大麦の輸出を止めるとまで言った」
それで父様はしぶしぶ認めたようだ。蒼山は小麦は作るけど大麦は作らないから。
「今なら好きという気持ちだけで嬉しいのに」
「外堀を埋めてなんとか婚姻に漕ぎつけた。リンネットが篭絡されてくれてほっとしている」
「本当によかったの? 私ではいろいろ困るでしょう?」
普通の王妃の仕事ができていない。
「困っていることあるのかい?」
コットの一番好きなところは私の足のことは問題と思っていない点。そのコットが膝を屈めてブランコに座る。
「あなたには低いわよ、ほら」
体を窮屈そうに座っている。私を包んでゆらゆらさせるだけで足を離せない。あなたと一緒にいると、私って笑っているの。知らないうちに、いつも。
「うちの城にもブランコを作ろう」
ブランコの紐に手をかける私の手をコットが包む。
「子どもができたら作ってあげて」
「リンネットに似た女の子がいいな」
「私はあなたに似た男の子がいいわ」
もうここで、きょうだいが遊ぶのを座って眺めていただけの私とは違うのだ。コットが私の世界を大きく変えてくれた。
あのままここにいて、姉様たちがお嫁に行くのを寂しく見送っていたら、私は己の足を憎んでおかしくなっていたと思う。
キスが好きなわけじゃないの。あなたが好きなの。あなたの妻でいることが嬉しい。




