74
「リンネット、おいで。眠ろう。また手紙を書いているかい?」
コットはこのところ忙しくないらしく、それはお山が安泰ということだから喜ばしいことだけれど、夕飯を食べてすぐに眠ろうとする。
「あなた暇なの? 南の畑の鳥獣被害は? 北の橋は復旧したの? 東に治療院を作る約束でしょう?」
「やってるよ」
ペンを取り上げて、私を抱きかかえる。
「あのねコット、私しばらく実家に帰ろうと思うの」
その言葉にコットはキスをやめてくれた。
「どうして?」
「結婚してから一度も帰ってないし」
「ホームシック?」
「そういうわけじゃないけど」
コットだけでなく、男の人には察する気持ちがないらしい。キスをすれば妻がご機嫌になるとでも思っているのだろうか。
「姉上の結婚式前にも帰らなかったのに? なぜだ? リンネット、申してみろ」
言えないの。言いたくないの。
そうこうしているうちにコットの手が私の夜着に侵入する。
「待って。あなたに体を見られたくないから」
「は?」
「コットを嫌いになったわけじゃないから誤解しないで。このところ、痣が消えないの。結婚前はなかったのに。おかしな病気だったら困るわ」
「痣? 見せろ」
と服を脱がそうとする。
「嫌です、恥ずかしい。湿疹ではなくて、こう内出血のような」
胸の上のそれを見せた。
「それは、こうした痕だと思うが?」
コットが私の腕にキスをした。
「え?」
「ほうら、赤くなって来た。思い出してみろ。俺に抱かれたあとにこれが出るだろう?」
体中に斑点のようにあって、自分でも気持ち悪いと思っていた。
「そうかも。やだ、てっきり病気なのかと。もう、誰も教えてくれないんだから。くすくす笑うだけで、ハイエツも薬がないと言うし。私、自分が病気で死ぬことよりも私が死んだらあなたでも泣くのかしらってそんなことばかり考えていたわ」
「きっと泣くよ。毎日泣いて、バーリーに怒られるだろうな」
そんなこと姉様たちの手紙に書かなくてよかった。
「私でもつけられますか?」
「俺の皮膚は硬いから」
「ちゅー」
毛むくじゃらのコットも二の腕の内側とかまでは剛毛ではない。
「もっと強く吸わないと」
「こう?」
うまくできない。
「歯形でもつけてくれ」
コットの肌は硬くて歯形もつかなそう。人間ベッドだなといつも思う。コットの抱擁は弱いようで強く、優しいようで逃げられない。
「あなたに触られるの好き」
「俺もだ」
家族愛とはまた別の愛しい気持ちを教えてくれたのはコットだ。それってちょっと汚い気持ちも含んでいる。ずっとこうしていたい。コットに触られていたい。
姉様たちの夫には他の妻や愛人がいる。最初からそうならしょうがないと飲み込むのだろうけれど、自分のあとにそれらを持たれるのは嫌だわ。
独占欲というのでしょう。それは習わなくても知っている。コットというよりも、コットの体からたくさん生えている毛が全部私を好きならいいのに。胸のもじゃもじゃも、背中のぐるぐるもずっと私だけのものならいいのに。




