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しばらくして金山へ嫁いだベルダ姉様から手紙が届いた。
『前歯を二本、抜かれました。
金を採掘するために山に爆薬を仕掛け幾人もの人が死んでおります。ドカーンドカーンと不穏な音が響き、眠れません。
頭領は前妃が亡くなったために私を娶ったようです。愛人は多いようですが、私を血筋だけで選んだと申してます』
世の中って、不公平だ。私の幸せをわけてあげたい。
コットには話せなかった。それでも夜中に私の寝返りが増えるから、
「リンネット、心配事か?」
と抱き締めてくれる。
「あなたと結婚できてよかったわ」
「俺もだ」
夢の中でも抱き合っていることさえある。まだコットの妻になって一年にも満たないのに。
そのうち、蒼山にいた時間よりもここで暮らす方が長くなるのだろう。コットを好きな時間が増えてゆく。私が生きるということはそういうこと。
たぶん他の夫婦よりも仲がいいのは私の足のせいかもしれない。頼らざるを得ない。
寒くなってきたからトイレが近くなる。杖で移動するにもカトに乗るのも時間がかかるから、
「コット、トイレ」
と運んでくれるようお願いする。
さすがに放尿シーンまでは見ないで戸を隔てて待ってくれる。
普通ではないのだろう。まして王と王妃だ。
「寒いからベッドに戻ってもう少し寝よう、リンネット」
「うん」
私は足の指先が冷たいけど、コットは体全体が熱い。
「あなたのおかげでアンカいらずだわ」
「アンカ?」
「石を温めて布に包むの」
コットは知らないようだった。雪が少ないということは蒼山よりも寒くないのかもしれない。いや、気温はこっちのほうが下がると聞いているから暑がりのコットが単に知らないのだろう。こんなに温かければアンカの必要がないのだ。
コットと同時に欠伸をして、二人でくすっと笑って、特に会話もせずにそのまま眠った。




