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部屋に戻って、ベルダ姉様が隠し持っていた蒼山のワインを開けてくれる。
「私の旦那様はどんな方なんだろう」
「かなり年上の方と聞きましたが?」
「そうなの? なにも聞いていなくて」
ベルダ姉様が不安そうな顔をする。
「私もそうでしたよ」
みんなが調べてくれたことを耳にしては不安になっていた。
実際に会ってみたらコットは優しすぎてびっくりした。ぎゅっと抱き締めたいのに私の両腕では手が回らないことが目下の悩み。
「うまくやれるかしら? 意地悪されないかしら?」
私も心配しながら紅山に来た。私のときはベルダ姉様がついてきてくれたのだ。
初めて紅山に来たときのことを思い出す。
「紅山は基本的に目上の人に敬語だから私の従者を全員年下にしてくれたわ。それでもコットと話しているときが落ち着くのよね」
私は言った。
「すっかり心を開いているのね」
「はい。コットはああ見えてとても優しいんです。ベルダ姉様の旦那様も優しいといいですね」
「あまりいい噂は聞かないけどね」
とベルダ姉様は口ごもる。
「手紙を書きますわ」
私は紅山に来てからの手紙をベルダ姉様に見せた。
「この字はエリー姉様ね。
『王妃の仕事は子を産むことに決まってるわ。うちもまだか、まだか? と急かされてるわ。でもこっちは当主自ら農業までするから、私たちも収穫に駆り出されてなかなかね。気休めだけれどこちらの風習で寝所に黄色い実を飾るといいので送ります』
それがこれ? 金柑かしら?」
もうずいぶん前にもらったのに枯れない。実も腐らない。特別な加工が施されているようだ。
「霧山も果物がなるんですね。寒い山らしくて、コットが羊毛で作った服を手紙と一緒に送ってくれました」
「そうなのね。霧山はリンゴの栽培が盛んだった気がするわ。こっちはサイカからね」
心配するといけないからサイカ姉様が結婚してすぐの手紙は隠した。
「自分より先に妻がいる人のところなんて私なら無理だわ。でもサイカ姉様はさすがです。妻たちと仲良くなってみんなで旦那様の悪口を言ってるとか」
「あははっ。サイカはお喋りだから社交的なのかも」
遠くにいても姉妹のことは目に浮かぶ。
かの国では魚を生で食すとか、あの国では閨を監視されるとか、今更になってベルダ姉様が学校の友達から聞いた話をしてくれる。
それでもサイカ姉様のことは話せない、絶対に。
私たち、王の娘の結婚は本人の意思でどうにかなるものではない。決められた道が幸せでない人もいるだろう。自分なりの小さな幸せを見つける人もいるし、逃げ出す人も稀にいるのかもしれない。それには命を懸ける必要もある。コットがすごく嫌な人でも、私はここにいて、彼の子どもを産んだだろう。
そう言えば、コットには乳母がいたそうだけれど私は自分のお乳で育てるのかしら。お酒に弱いからベルダ姉様の話をうとうと聞きながら眠ってしまった。




