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私は結婚して幸せだけれど、迂闊には言えない。初夜がひどかったサイカ姉様や昔のままのような生活をしているエリー姉様みたいなケースもある。
「姉様、温泉に行きましょう」
私は誘った。気持ちも少しはすっきりするに違いない。
「はいはい」
こっちのカトは自分で動かせるの。
「すごいわね」
杖はアンナが運んでくれる。
「ベルダ姉様、見て。花がきれい」
裏庭に向かいながら私は窓から外を指差した。
「こっちの牡丹よりはひとまわり小さいのね」
「うちの花は小さめなのよ」
「もうここがリンネットの『うち』なのね」
言われるまで気づかなかった。
「ええ、そうね」
いつからだろう。コットと結婚したのが春の始まりだからまだ半年ほどなのに、すっかりここが我が家。コットが家族。
「こんなに近くに温泉があるの? いいわね」
ベルダ姉様はお風呂だけの建物が気に入ったようだ。
「はい」
それに数歩だけれど歩けるようになったの。今のところ二歩は確実。
「すごいじゃない。こんな豪華なお風呂も作ってくれたの? 本当にいい旦那様。紅山は国力もあるしね」
「そうなの?」
コットのことは好きだけど、コットが守っている紅山については今でも詳しくない。
温泉街があって、いろんな人が交易に来る。温泉で湯治をする金持ちも滞在する。サイカ姉様の桃山からは花が、エリー姉様の霧山からは野菜が入って来る。蒼山からは果物。こちらは精密な皿や山で採れる大きな石を売っている。
「はぁ、気持ちいい」
ベルダ姉様は私の理想のお尻をしている。ぷりんとしていて、あんなお尻だったらもっとコットに好きになってもらえるのでしょう。
「こうして一緒にお風呂に入るのは久方ぶりですね」
蒼山では私が10歳くらいまでしか一緒に入らなかった。
「そうね」
温泉から出るとキュリナが作ったクリームを塗ってくれる。
「グレープフルーツとハーブを混ぜました。リンネット様のお気に入りなんですよ」
「いい匂い」
とベルダ姉様は目を閉じた。
「ダイエット効果もあるようで」
キュリナがいつものように私の背中にも塗ってくれる。
「じゃあエリー姉様に送ったら?」
「そうするわ」
でもごはんも食べられないと手紙に書いてあったから、あの姉様がスリムになっていたらどうしましょう。
夜にはコットが戻って来て、紅山なりのおもてなし。と言っても、ラティウス料理長がやや豪華なごはんを作ってくれただけ。




