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「失礼いたします」
その人は座っている私が見上げるほど大きな人。紅山の王様といってもまだ若そうだった。
「大きな方ですね。7尺ほどあるのではないでしょうか?」
フレディが私の横に来て耳打ちする。
「荷馬車が途中で動けなくなり遅れました。お祝いの日に申し訳ございません。王太子様、姫様とのお時間を割いていただきありがとうございます」
見上げようにも彼の厚い胸板が邪魔してよく顔も見えない。顎を覆う髭のせいかしら。
「うむ」
父様はこういうときだけ偉そうだ。
「先頃は西との戦いがあったと伺っています」
フレディが会話に入る。
「山賊が集まって悪さをしていただけのこと。追い払っただけですので戦いというほどのものではありません」
声も大きい。腰には剣を差している。大きな剣。私も小刀は胸に潜めているけれど、その40倍はありそう。
その剣を従者に渡し、こちらに敵意がないことを知らしめる。
そこでケーキが運ばれてきた。あれもこれもおいしそう。
「姉様、デザートをお取りしますね」
王太子であるフレディに身の回りの世話をしてしまって申し訳ない。
「ありがとう。フレディも踊って来たら?」
「この中に踊りたい人はいませんので。はい姉様、苺のムースですよ」
ムースの上には苺もたっぷり。
「うーん、おいしいわ」
「このすっぱいソースがたまらないですね」
「うん、うん」
フレディは男の子だけれど甘いもの好き。どちらかというとフレディは果物を煮たコンポートなどを好む。
「では、失礼いたします」
紅山の王様の第一印象は声と体の大きな人。恥ずかしくて目も合わせられなかったが、後ろ姿は凛々しかった。首も太い。
「あんなにお若いのに王様なの?」
ケーキを食べながら私は父様に聞いた。
「父様だって若いときから王様じゃぞ」
それはおじい様が亡くなったからでしょ? そう口にしたらへそを曲げるから言わないけど。
「彼も一応は王族でしたが、前王が暴君だったため討ち果たしたのですよ」
フレディが得意そうに話す。
「そう」
討ったということは殺したということだろうか。怖くて聞けなかったし、王太子だからってかわいいフレディにそんな言葉を発してほしくない。
まさか、そのような恐ろしい人からうちに縁談の話が来るなんて。