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コットが城に戻ったのはそれから数日後のこと。
「リンネット、戻ったぞ」
「おかえりなさい。うふふっ、夫婦が8日ぶりに会うのがお風呂なんておかしいわ」
「そうだね」
アンナに服を脱がしてもらっている途中だった。
「あとはやるから下がれ」
「はい」
いつもはアンナがゆっくりゆっくり湯船まで付き添ってくれる。お風呂場では杖が滑るのだ。
「おかえりなさい、コット。お怪我はないようですね。でもよく見せて。あなた毛むくじゃらなんだもの」
「傷などないから早く抱き締めさせておくれ」
夫の体に包まれるのが好き。二の腕まで毛むくじゃら。
「コット、苦しい」
「すまない。ずっと君にこうして触れたかった」
「私もです。コット、私のところに帰ってきてくれてありがとう。ちゅ」
「ジャムをありがとう。おいしかった。パンを食べるたびにリンネットを思い出したよ」
私は呼吸するたびコットを思い出してた。
「蒼山ではマルベリーというんです。こちらでは採らないんですってね」
コットがひょいっと私の体を抱きかかえる。この人は本当に便利。
「こっちでは葉をお茶にするんだ。おや、髪を切ったね」
「よくわかりましたね」
「ずっとリンネットのことを考えていた」
とキスをして床に下ろしてもくれない。
「待って。私まだひと湯も…」
体を洗ってからがいいの。あなたにはきれいな私を見てほしい。
「俺なんて4日ぶりの風呂だ。リンネット」
「ふふっ。お髭が伸びてる」
あなたが手のひらで石鹸を泡立たせる。雑に私の体をごしごし泡う。洗うふりをして私の両手を片手で拘束する。
私、嫌がったことなんてないのに。
浴場はいつも清潔だ。だから床に横になるのは構わないのだけれど、
「背中が痛いだろう」
って体重をかけないくせにコットは上を嫌がって、私をコットの上に乗せる。そっちのほうが恥ずかしい。
「やだっ」
と大きい声を発してしまったら、
「リンネット様?」
とキュリナが駆けてくる。
「誰だ? 男? リンネットのマブか?」
コットが素っ裸だからキュリナのほうがたじろいで目を手で隠す。
「申し訳ございません」
「コット、新しい私の侍女にございます。キュリナ、あとはコットがしてくれるから大丈夫よ。今日はもう休んで」
「はい。失礼いたしました」
キュリナはアンナの言いつけを守って、私たちに背を向けず慣れないあとずさり。
「我が妻の体に触れた男は死罪だ」
とコットが呟く。
「でもキュリナは心は女の子なのよ。それに前もそう言ってたけど、法律変えてくれないと私生きづらいかも。この足よ。アンナじゃいざというときに抱きかかえて逃げてくれないわ。あなたはしょっちゅういなくなるし」
今回だって3日の外遊の予定が8日になった。山だから、噴火とか雪崩とか起こる場合もあるし、起きなければお山様のおかげということになっている。
「一理あるな」
コットが手のひらを頬にあてて、いつもの悩む姿勢。
「見て、このお化粧もキュリナがやってくれたんですよ。あとね、髪のまとめ方がすごく上手なの。あなたに見てほしかったわ。さっきまで鳥籠みたいにしてくれたのよ」
「されど…」
しきたりとか法律を変えることが厄介なことは知っている。蒼山だって、女の子ばかりが生まれて弟のフレディが生まれたらもう打ち止め。母が体を壊したことも要因だろうが、母だってなんとしてもフレディを産みたかった。産まなければならなかった。




