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「勝手に決めて王が怒りませんか?」
とアンナが帰りの馬車で心配そうな顔をする。
私が来る前、コットは怒りん坊のへそ曲がりだったらしい。
「コットだって私になにも言わずにまた4日も留守にしてるのよ」
いつ帰るとか言わないのよね、コットって。
「念のため、素性を調べさせます。いいですね、王妃様」
トルル元大尉が心配してくれる気持ちも有難い。
紅山は前王のときに西側を侵略して無理くりに領土を広げた。コットはいい王だけれども反乱分子はどこにでもいる。
王妃の私は呑気に街へ出るべきではないのだ。誘拐されるかもしれない。私はコットの弱みなのだ。それになるくらいなら死を選ぶ。
二日後、キュリナは勤めるために城へ来てくれた。
私の部屋付きメイドにして男性であることは極一部にしか知らせないことにした。
キュリナはすごいの。お化粧だけじゃなく、髪の結い方が芸術的すぎる。
「三つ編みを編んでいる手を見ているだけで酔いそう」
とアンナがキュリナの手さばきを見て言った。優しく引っ張るからちっとも痛くない。
「街の女たちも帽子の中はきれいにしてるんですよ。若い女の子は編みどころに行ってます」
「専門のお店もあるのね。あら、すごい。編んでるだけなのに豪華。早くコットに見せたいわ」
ねじって、ひねり出して、編んで、丸めて、髪が白鳥みたい。
「お気に召していただいて嬉しいです」
私の部屋で髪を結ってもらったからキュリナがベッドを気にする。
キュリナは子どものときにコットに殺されそうなところを助けてもらったことがあり、親愛の念を抱いている。
好きな気持ちは私と違うのだろうか。謎。
私だけでなく、ほかの侍女や城勤めの伴侶までがキュリナの技の虜になる。髪を結ってくれる上にお化粧、マッサージまで。姉様が公務で紅山に来たりしないかしら。絶対に気に入るわ。お嫁に行った姉様たちだと国交の問題があるのだろうか。姉妹でも面倒だ。まだ結婚していないベルダ姉様は髪が短いし。
手紙のやりとりばかりでは寂しい。蒼山に誰かが帰るときに呼んでもらおう。




