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手紙を広げていると、
「またどこかの姉様からか?」
とコットがため息をついた。
「うん、エリー姉様から。結婚をしたばかりのときは不安なのよ。あの堅物のお姉様が慣れない土地で頑張るっているんだもの、応援しなくちゃ」
コットが手紙を盗み見るから、渡した。
隠していることなんて私にはないもの。
「水が豊富なのでトイレがいつも水で流れています。
蒼山よりも標高が高いです。真夏には光る虫が飛ぶそうです。それは死者の蘇りとされていて、殺してはいけないそうです」
エリー姉様の手紙をコットが読んでも姉様の声に聞こえる。
「コットは霧山行ったことある?」
私は蒼山にいたとき、遠くに見える霧山が見えると明日も晴れるなと天気予報代わりにしていた。
「ああ。真面目な人たちだよ。青っぽい民族衣装で派手ではないがまとまった集団だ。あまり文明を取り入れず男でも耳に飾りをしていた。あ、あれがうまかったな、腐ったドロドロのしょっぱいもの」
コットの例え方に笑ってしまう。
「腐豆かしら。うちにもあったわ」
豆を腐らせて作る調味料のようなものだ。
ラティウス料理長に聞いてみたら腐豆を絞った汁ならわかるらしい。
コットがうまいと言ったから食べさせてあげたい。しかし、材料すらわからない。
「その汁とカスごと発酵させるのかしら?」
私もそれの作り方まではわからない。蒼山ではとにかく大きな樽で作っていた。
「作ってみましょう」
「はい」
念のため、
『エリー姉様、腐豆の作り方知ってる?』
と手紙を書いてみた。
向こうの検閲官もこんな手紙を見ても無意味だと早く気づかないかしら。私たちは、姉妹は絶対に敵になれない。しかしコットとの間柄ももう絶対。
ラティウス料理長となんとかそれっぽものを作ってコットと食べた。
パン、腐豆、チーズと重ねる。
「どうかしら? おいしい?」
「ああ。我々の結婚のようだな」
コットは自分ではうまい例えだと思ったらしく、私を膝においてご機嫌だった。
口の中で咀嚼してぐちゃぐちゃになっていい味になるということだろうか。
「明日でもよかろう」
というコットを放置して、エリー姉様にお返事を書く。姑よりも小姑が厄介らしい。
「私もあなたがもらってくれなかったらフレディのお嫁さんにとって小姑だったのよ」
この足を貶されても嫌だし不憫に思われるのも違う。要するに私は面倒な小姑になったに違いない。
コットと手をつないで手紙を書いていたら、コットが紙を押さえてくれる。
『エリー姉様、お会いできる日を楽しみにしております』
小さな頃、草笛を教えてくれたのはエリー姉様だった。物がないなら、機転を利かしてなんとかしているはず。でもエリー姉様のきれいな髪を維持するために私からではなくフレディから椿油を送らせよう。そうすれば蒼山と霧山の結束も強くなるはず。
蒼山にいたときはみんなに守られているだけの私が姉様たちの心配をしているなんて不思議な話ね。




