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舞踏会では父様の左隣が私の定位置。父様の右隣にフレディ。姉様たちが踊っているのを見ながら食事を取る。
「ほらリンネット、お前の好きな魚のミンチを蒸したものだぞ」
「ありがとう、父様」
父様はお魚が嫌いだから私に食べさせるのだ。私は偏食ではないが、すぐにお腹がいっぱいになる体質。足が悪くて体を動かさないからだろうか。
自分の誕生日だというのに父様は謁見などで忙しそうだった。
「フレディ、今サイカと踊っている青年は?」
と父様が探りを入れる。
「あれはベルダ姉様ですよ。あの方は確か、砂山の王子かと」
「悪い男ではないが、ちと体の線が細いな」
「あの方は兄を亡くして後継者になったようですからね」
情報通のフレディとは違い、父様はあまり人の顔と名前を覚えない。私のことだって足の悪い娘として認識している程度。ベルダ姉様とサイカ姉様のことは髪の長さで見分けている。長女のエリー姉様とフレディのことは別格のようだ。
私たちのことも他所のお山では値踏みされたりしているのかもしれない。
娘の年齢も曖昧なのに、父様は長年王として君臨している。王の息子として生まれたから、ここが平和であるから民たちの支持を得ているのだろう。生き字引のような宰相とフレディが補佐をしていなければこの国は崩壊するのではないかと心配になる。
蒼山は普通のお山だ。住みやすいから民衆も多い。災害も少なく、人々は争いを好まない。慎ましいが地味な私には合っている。
「リンネット、デザートが来たぞ。お食べなさい」
父様は甘いものも好きではない。
「はい、いただきます」
フルーツもたくさん取れる。この季節は梨に桃、柑橘類も豊富だ。甘くて、お魚さんより断然こっち。うーん、瑞々しい。
「お食事中に申し訳ありません。紅山の王が先程到着され、お目通りをと」
「うむ」
父様は踊っている姉様たちを見ている最中に話しかけられるのが嫌いだ。着飾った姉様たちは優雅で本当にきれい。ドレスも似合っている。それをわかっている宰相が声をかけるのだから、お相手はそれなりの立場なのだろう。
「お祝いの品もたくさんいただきました」
「仕方ない。通せ」
父様はやれやれという顔で頷いた。
お山にも格付けのようなものがある。歴史あるお山、お金持ちのお山の当主はこういうときでもいい席に座っている。もしかしたらうちは今、姉様方のおかげで注目を浴びているのかもしれない。私を除いても三人の姉様方の嫁ぎ先を探している。姉様たちの結婚相手によってはうちのお山の格も変わる。父様は好機を逃したくないのだろうし、姉様たちにとっても自分が幸せになれるかどうかの大事な場なのだ。旬のフルーツを堪能しているのは私だけだろう。だって、どれもこれも甘くておいしい。
農園のおじいさんたちにまた手紙を書こうと思っているときだった。