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ダッダッダッ。走って来たのは馬ではなかった。
「そこの者…」
猛然とコットが走ってきた。
「これは、王。お久しぶりです」
片足をつこうとしてトルル元大尉がバランスを崩し、私も手を出してしまった。
私が支えられるはずもなく二人して倒れる羽目に。
「死刑だ」
コットがそんなこと言うなんて。
冗談かと思ったが、トルル元大尉が兵に連れられてゆく。
補佐官であるバーリーさんはコットに頼むでもなくぐっと堪えている。
「コット、冗談よね」
私はコットの腕を掴んだ。
「あの者はリンネットを押し倒そうとした」
「足が悪いんだもの、ふらつくことくらいあるわ」
「そなたは王妃だ」
「王妃の前に人間です。トルル元大尉と一緒に戦ったんでしょう? バーリーさんの弟なのよ」
「しかし…」
遠征帰りのコットは疲れて苛ついているだけ。
私の部屋で服の上にまとった布を脱ぐ。
人の怒りなんて数秒らしい。それにコットは私に触るとその怒りが昇華するようだ。
「死刑なんていきすぎです。私たちは足が悪いの。人に助けてもらわねば生きてゆけません。そんなことしたら嫌いになりますからね」
私はコットに言い放った。
「あやつはそなたを泣かせた」
「じゃあ、あなただって」
「えっ?」
「こうするの4日ぶりですよ。昨日の夜、寂しくて泣きました。その前の日もです。コットのせいですよ」
コットの背に抱きつく。
あなたの匂いがする。正直、汗臭い。
でも、好き。
「あとで、バーリーに弟を放免するように伝えておく」
「今すぐ言って。行きなさい」
「わかった」
お風呂で待ってると言ったらすぐに戻って来た。
「本当は、死刑にしちゃったらバーリーに嫌われるかなって思ってた。リンネットが止めてくれてよかった」
と私を抱き締めながら言った。
体は大きくても人の心の大きさはそんなに変わらないのかもしれない。
「自分で気づきなさいよ、王様なんだから」
「すいません」
私のせいでカッとしちゃっただけなのだろう。
毛むくじゃらだからコットはすぐに泡立つ。背中が広いな。
「コット、お尻洗うから立ち上がって」
「自分でする」
「恥ずかしいの? 私のは洗ってね。ほら、座る前に洗っちゃって」
左足が悪いから、左右のお尻で肉のつき方は違う。そんなこと、もう恥ずかしくない。
「痛くないか?」
ってあなたはいつも聞く。
「うん」
と私は答える。




