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結婚したサイカ姉様から私のもとへ手紙が届いたのはそれからふた月ほど経った頃。
『結婚したら幸せになれると思っていました。リンネットからの手紙はたいそう幸せそうなのに、私は夜が怖くて堪りません』
サイカ姉様の字はいつも小さいのだけれど、細かすぎて読みにくいほどだった。しかも紙のせいなのか筆のせいなのか文字が滲んでいた。夜に読むものじゃないわね。
姉様からの手紙に私は首を捻った。
「どうしてかしら? 私は夜が好きよ。あなたといれるから。というか、コットとは夜しかゆっくり一緒にいられない。あなたってお休みないの?」
「王様だからな。他には何と書いてある?」
「え?」
次の言葉を発せなかった。
コットが手紙を盗み見る。
『初夜は義兄に奪われました。処女など面倒だ、励めよと夫となったリュールに言われ、義兄からも郷に入っては郷に従えとなぶられました』
「そんな、悍ましい」
「血が汚れという風習もあると聞く」
コットが冷静に言った。確かに私もびっくりするくらい出た。足が悪くても普通の女であることを知った。それで逆にほっとできた。
「あんなこと、私はあなたと以外したくないわ」
姉様のことを考えると、思わずコットの腕を掴んでもじゃもじゃの毛並みを同じ方向に流した。
「あとは?」
私あての手紙を勝手に見るのはよくないと悟ったのか、コットは視線を外した。
「過去の王様の名前や知らない文字の勉強ばかりさせられていますと」
私もしたほうがいいのかしら。
「桃山は歴史のあるお山だから、古い人間も多く残っているのだろう」
「姉様大変そう。お返事書くわ」
幸せではない結婚もあるのね。紅山のように離婚が死罪の場合もあるから迂闊に勧められない。
姉様が蒼山に戻る手立てはないのかしら。
私でなく父様に言ったらよかったのだろうか。もっと大変なことになるかもしれない。誰にも言えなくて、蒼山から嫁に出た私しかいなかったのかもしれない。私が嫁いでいてよかったと姉様も思っているに違いないわ。
幸せである私が、不幸な姉様を慰めるのは間違っているだろうか。
「コット、返事が書けない」
「うん」
サイカ姉様にはこんなふうに優しく頭を撫でてくれる人はいないのかしら。幸せってむつかしいですわよね。お金じゃ買えないし、人によっても違う。私はコットが私の夫でとても幸せだ。




