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近頃コットは朝食を終えると私の部屋で着替えまで済ませるようになった。片時も離れたくないと思ってくれるのは嬉しいけれど、従者が増えて私の部屋が重々しい空気になる。
結婚は幸せなものと断言したいけれど、紅山では離婚は死罪と聞いて、
「ひぇー」
と叫んでしまった。
「それじゃあ離婚する人いないでしょう?」
「伴侶と別れるために死を選ぶ者もいる」
とコットは言った。それほど嫌いになってしまうのだろうか。
不貞も島流し。
「前王には側室がいたのに不貞ではないの?」
私は聞いた。
「国を維持するために王には子を作ってもらわねばなりません」
と補佐官のバーリーさんが口を挟む。いつも黒い服の男の人で、補佐官だからその色を纏えるとアンナに教えてもらった。細身のメガネだけれど陰湿そうではない。王が結婚してしまったため、今はすごくモテるらしいが誰ともお付き合いはしていないというのもアンナ情報。女はどこでもいつでも噂話が好きだ。
「がんばってますよ。昨日だってコットは私が寝てるのに…」
そこでコットが会話を遮る。
「リンネット、また蒼山から手紙が来ておるぞ」
手紙を開いてすぐにフレディの字だとわかる。
「まぁ、コット聞いて。サイカ姉様の結婚が決まったらしいわ。桃山だって。わかる?」
「東のお山だ。確か女性でも王になるところだったかな」
場所が違えば私も国王になっていたのだろうか。
「そこの三男ですって」
「気楽そうでいいではないか」
「えっ、でも既に二人も妃がいるって。大丈夫かしら?」
手紙にはたいそう男前と書かれていたけれどコットには秘密にした。そもそも男前の判断は人による。
姉様たちはコットを大男と言ったけれど、大男だからこそ軽々しく私を運べるのだし、毛むくじゃらでも私にはコットが世界一の男前。
「姉妹だから結婚式に呼ばれたのか?」
コットがナッツを剥きながら聞く。私は殻が剥けないからコットが中身だけ口に放り入れてくれる。そろそろお仕事に行ってくれないと、バーリーさんまでここから動けない。
「ううん。父様とエリー姉様が行くらしいわ」
「うちもそんなには桃山とは交流がないからな。祝いの書簡を送っておこう」
「そうして」
手を振って見送るとしぶしぶコットは私の部屋を出て行った。
コットは城にいるときは昼食も抜けてきて私の部屋で取るし、お茶の時間も外で設けてくれる。心配しているのか愛されているのか。両方ということも有り得る。




