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その肉料理は煮込むほど、味が深くなった。
だからコットが帰ってくるのが余計に待ち遠しい。
「リンネット、戻ったぞ」
「おかえりなさいませ」
抱きつくかと思ったのにコットが近づかない。
「こちらの服にしたのか? よく似合っている」
と褒めてはくれる。
「ありがとう」
なんとなく私を欲してぎゅっと抱き締めて離さない人だと勝手に思い込んでいた。エリー姉様のロマンス本の読みすぎね。
「汗臭いから、温泉に入って来る」
とコットは顔を逸らした。
「はーい」
よし、その間に食事の準備。
コットの好きなお肉料理にパン。サラダは酸っぱいドレッシングにニンジンのスープ。私は柘榴のジュースでコットはワイン。こっちは次々に運んでくるスタイルだけど、面倒なので全部並べてもらった。
「いただきましょう」
と席に着く。
「うん。リンネットは今日まで何をしていたんだ?」
「いろいろよ」
コットがパンを口に運んで咀嚼を止める。
「料理した者を呼べ」
コットが口から出したのは爪だった。
コットが激怒するから従者たちが一瞬で凍り付く。
「コット、ごめんなさい。たぶん私のだわ。うちの作り方と違ってすごくこねるんだもの。ほら、ここの爪が割れてる」
右手を私は見せた。
「そなたのなら構わない。そうか、リンネットが作ったのか。あとはどれ?」
「肉と野菜を切りました。調味料の配合もしたわ。サラダもちぎったわ」
私が話すたび、コットはそれを口に運んだ。
「うん、全部うまい」
「あらあら、そんなに詰め込んだら味が混ざるでしょう」
コットは王様だから王が怒ると臣下はオロオロしちゃう。
そうだ。私はコットが怒らないように心掛けよう。仕事のことはわからないけれど、なるたけ平穏に、調和を重んじよう。




