34
調理場は城の一階の奥。
「あのう…」
こっそりと私はドアを開けた。
「王妃様?」
若そうな料理人見習いが私に気づく。
「いいの、手を止めないで。そのまま」
うちは飯炊き女ばかりだったが、こっちは男性ばかり。
ざわつく料理人たちの中で一人のおじさんが私に声をかける。
「食事の件でしょうか?」
と恐縮される。コットは偉くても私は違うから。
「はい。夫のために料理をしたくて。3日くらいかかって、日を増すほどおいしくなるような」
料理長はラティウスと名乗った。コットほどではないけれど、背か高い。こちらの男性はみんな彫りが深い。というか、鼻が高い。ついでに鼻の穴もでかい。
「煮込み料理はいかがでしょうか?」
少し考えて料理長は答えた。
「いいわね」
ラティウス料理長はコットの好きな味を教えてくれた。
「王は胡椒などを好みます」
レシピをまとめている。ほぼ毎日違う食事が出てくるし、私の好みも書き添えられていた。
有難い。
「邪魔しないから見ていていい?」
料理の風景って好きなのだ。調理器具を扱う音はサイカ姉様のお菓子作りを思い出す。
「一緒に作りましょう」
「はい、ラティウス料理長」
見たことのない道具ばかりだ。うちは石臼ですりつぶしていたけれど木の棒に木の凸凹した器でぐりぐり。
肉は鉄板ではなく串にさして焼く。
「まず、肉をぶった切ります」
「はい」
包丁がデカい。四角。
「そして野菜もぶった切ります」
「はい」
することがあると楽しい。皮むきくらいはできるわ。
アンナは呆れ顔だ。
「王妃が料理なんて聞いたことないですよ」
「夫のためだもの。あなたも好きな人ができればわかるわよ」
今日も一人で夕食を取る。アンナに同席をお願いしたが、
「決まりなので」
と一蹴される。王妃だって人間よ。大勢に食べているところを見られるのは嫌だから部屋でしんみり。
コットがいないとせっかくの料理も味気ない。薄味を希望したのは私だ。コットはお仕事だし、しょうがないわ。どこへ行ったのかは聞かされていない。まだ結婚して数日なのに、あなたとは知り合ったばかりなのに、もう寂しい。
今まで私、どうやって生きていたのかしら。頭も体もあなたがいない寂しさに浸食される。




