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嬉しかったのはカトが見つからないからとアンナの弟が特別な杖を作ってくれたこと。
町医者の見習いらしい。
「いいですか、王妃。この二本の杖をそれぞれ脇に挟みます。そしてここを持って、前進する。体重をかけてしまって大丈夫です。はい、どうぞ」
幾度か調整して、試作を使い始めたところ。心配そうにコットがにらみを利かせているし、アンナはいつもの不愛想な顔が更に顔が青白くなっている。
「ええと。あ、歩ける」
人の肩を借りるよりもスムースだ。
「そうです。右足は問題ないとのことなので。怖いでしょうがこれを支えにしてなるべく左足にも力を入れてみる。歩く練習、つまりリハビリです」
毎日したら一人で歩けるようになるのかしら。
「わかったわ、やってみる」
コットが頷くとアンナはようやくほっとした顔を見せた。
その杖のおかげでトイレも一人で行けるし、エンカにもいつでも会いに行ける。ぬかるみは滑るから晴れの日限定ね。
「すごいわ。ありがとう、アンナ。弟さんにもそう伝えてね」
カトよりも邪魔じゃないし、人手もいらない。これ、すごく便利。
「ありがとうございます。この度のことで王様からお金をいただいて、医者の勉強が続けられると喜んでいました」
アンナのお給金だけではそれはむつかしいのだろうか。
私があげたいけど、お金は持っていないのよね。
「医者もいいけど発明家になったら? これ、売れるわよ。ここを調節したら長さも自由にできそうじゃない?」
「ハイエツに伝えます」
うちのお山にも足を悪くしたおじい様がいたから設計図のようなものを描いてくれないかしら。私がこんなに重宝しているんだもの。
おかげで私は時間があれば歩く練習をした。嫁ぐまで紅山のことはよく知らなかった。お城の人たちは従者だから当然私に優しい。コットに媚びへつらう人たちが私にすり寄ってくることはなかった。そんなことしたらコットの逆鱗に触れるってわかっているようだ。怒りっぽいのにコットは私にだけ優しい。
蒼山にいたときも暇だった。紅山には写真を束ねた画集という本がある。雨の日はそれを見て時間を過ごす。晴れの日はリハビリを続けた。




