30
次の日は晴れていたから、サンドイッチを持って外で食事をした。
エンカも一緒。
王様自ら王妃をこんなに抱きかかえるものなの?
護衛の人たちはエンカよりも遠くにいた。
藁で編んだようなシートを広げてくれた。そこで言葉もなくぐりぐりと私の指に指輪をはめる。
「うちは王冠なので作らせた。そなたの国では夫婦は指輪を交換し合うのだろう?」
「はい」
自分のははめてほしそうに待っている。この人、本当にかわいい。
父様の指輪もごつごつしていた。似たものを作ってくれたのかしら。私の関節を覆うほどある。幅が広くて邪魔。でも王様の大きな手にはちょうどいい。
「ありがとう、王様」
「名前でいい」
王様の名前はすごく長い。アスタ・ミール・コット・パードリア4世。
「コット?」
「そう呼ばれることはない。そなただけだな」
と嬉しそうにはにかんだ。
「私も『王妃』ばかりで。急にこっちに来た人間を崇めるのなんて嫌でしょうに」
歩けないし。
「リンネット、すぐに慣れるさ。嫌なことがあったらすぐに言ってくれ。おっ、あっちの花がきれいだ」
私を抱えてどうしてずんずん歩けるのだろう。
「重くない?」
「ちっとも」
「きれい。部屋に飾ってもいい?」
フレディがくれた野花もまだ部屋の花瓶に元気に咲いている。
「もちろん」
私を抱えたまま中腰。
「その体勢辛いでしょ?」
「大丈夫だ。ほら、好きなのを取りなさい」
コットとはたくさん話した。
「前王には側室がいたが自分には必要ないと考えている」
コットは私の目を見て言った。
「でも、子ができなかったら考えてくださいましね。そうだ、ベルダ姉様とお昼を食べたときの白くてこりっとした食べ物はなんですか?」
「どんなだ?」
「白いソースの食べ物に紛れていたから。それも白くて四角でした」
「イーカだろうか。海の食べ物だよ」
「不思議な触感で」
「気に入ったのなら取り寄せよう。こんな形だ」
コットが紙に絵を描く。紙に草の繊維が残っているからいい匂いがするのかもしれない。
「嘘よ。そんなオバケみたいな形」
「横に向いて泳ぐんだ。君たちが食べたのはこのあたり。一番柔らかい。ここは筒状になっている」
コットが書くそれは不思議だ。手に墨がつかない。
「コット、その棒みたいなものは?」
「炭をペンにしたものだ。持ち歩けるし、書ける」
「へえ、うちのほうは墨よ。筆を使うの。それ、いいわね。フレディにあげたいわ」
「ああ、送っておあげ」
やっぱりこの字、あなただったのね。
「うふふふ」
「どうした、リンネット?」
「なんでもないわ」
コットは顔を撫でても伸びたお髭を引っ張っても怒りません。
『それによく笑います。きれいな花を見ても笑うし、おいしいものを食べても笑います。晴れでも雨でも曇りでも笑っています。王様なのにあんなにわかりやすくて対外的なことはできているのでしょうか。心を見せないようにするのが王様でしょう? わかりやすくて心配になるほどです。
そうだ。この手紙と一緒に写真というものを送ります。コットから説明を受けたのですがわかりません。鏡を紙に写したようなものらしいです。私たちの婚儀の様子です。絵じゃないですよ』
ベルダ姉様にイーカを教えたし、サシャにも心配しないように記した。フレディには炭筆。そうなるとエリー姉様とサイカ姉様にも何か送らないと。あ、父様にも。新妻ってこんなことばかりしていていいのかしら。




