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年に一度、わが国では舞踏会が開かれます。父の誕生日という名目の姉様方のお相手探し。
エリー姉様はまだ25歳なのに世間では行き遅れと言われている。今年は父様が本腰を入れ、今まで招いていないお山の方々にまで招待状を送ったそうだ。
私には関係のないことだけれど。
「リンネットは顔がこんなにきれいなのにね」
サイカ姉様が私の左足を擦る。私の足が悪いのは誰のせいでもない。
「いいんだよ。姉様たちがみんなお嫁さんに行ったら僕が寂しいじゃないか」
「フレディにはイネスがいるじゃない」
私がそう言うとフレディは押し黙った。利口な弟は平民の幼馴染と結婚できないことを理解している。
そう、私たちの結婚は政。
「みんな、生地だけでも先に選んだらって」
ベルダ姉様が下着姿で生地を持って来た。
「ベルダ様、そんな恰好で」
サシャがベルダ姉様にストールをかける。
その瞬間、生地の見本の中から水色の布がはらりと私の頭に落ちてきた。
「リンネット姉様、ベールみたいできれいです」
フレディが言った。
「うん。なんとなくリンネットは末娘だから父様がピンクとかオレンジばかり着させていたけれど、寒色も似合うわね。この薄いグリーンなんていいんじゃない?」
エリー姉様が生地を私の腕に当てる。
「そうかしら」
自分では選ばない色だ。
「せっかくなんだからリンネットもドレス作ったら? 誰かがお嫁に行ったら一緒にこうしてドレスを作ることなんてないんだもの。そうだわ、似たようなデザインにしましょうよ」
サイカ姉様のその言葉、何度目だろう。毎年同じことを言っている。
「うん、そうしなよ。父様には僕から言っておく。お金が足りなかったら僕のなんとか金から出したらいいよ」
フレディは自分の王太子という身分をよくわかっている。姉が四人もいて不憫だとは感じていないよう。
「じゃあ私、採寸の続きをしながら仕立て屋さんに話してみる」
「私はあんまり腕とか背中出したくないわ。お願いね、ベルダ」
エリー姉様は黄色が気に入ったみたい。
「でも黄色って太って見えるよ。エリー姉様、この銀色なんてどう? 私はこれにしようかな」
サイカ姉様はいつも濃い色を選びたがる。生地見本のワイン色のあたりを行ったり来たり。
「いいな。楽しそうで」
フレディは男の子だし、王太子だから正装が決まっている。色もカラフルでない。
確かに、こんなふうに私のベッドでみんなでゴロゴロできるのなんてあと僅かなのだろう。時間は限られている。私含めフレディ以外はもう成年だから、いつまでも子どもじゃいられない。ずっとこうしてきたのに、私だけが取り残されるのだろう。寂しいって思ってはいけない。誰かの結婚が決まったら笑顔で送り出さなくては。
エリー姉様から順番に輿入れが決まるのかしら。私から会いに行くことは不可能だから、このむちむちの二の腕の感触忘れないようにしよう。