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ずんずん歩くのに振動が少ない。恥ずかしくてあなたの顎下の髭ばかり見てしまう。
「ここがそなたの部屋だ」
蒼山での私の部屋よりも広い。
ベッドにテーブル、壁には机や棚まで。
「ありがとうございます」
「あとで荷物を運ばせよう」
「ベルダ様がおかえりになる前に昼食をご用意いたします」
王様の補佐官には会ったことがある。
「ありがとう。バーリーさん」
お礼を言ったのに王様はため息をついて出て行ってしまった。
「ごゆるりとお休みください」
バーリーさんが部屋を出るとベルダ姉様がベッドへ飛び乗る。
「絶対すると思った」
「リンネット、うちよりもふかふかだよ」
「はやくカトを持ってくれないかしら。片足ケンケンになっちゃう。えいっ」
私もベッドに横になった。
「立派なお住まいね。うちと同じ石造りのようだけれど大きなお城だわ」
「迷子になりそう」
私は言った。
「なんだろ、これ?」
ベルダ姉様が壁に掛けられた草木を指さす。
「唐辛子が魔除けになると聞いたことはあるけど、ピーマン?」
赤い実だがもっとぶりっとしている。
「そういう類か」
コンコン。
こちらはノックの作法があるのだ。うちのほうはドアを普段は開けておいて、閉まっているときは寝ているか籠りたいという合図。
「は、はーい」
声が裏返ってしまった。
「お食事をお持ちいたしました」
「ありがとう」
テーブルいっぱいに次から次へと運ばれてくる。二人では多すぎる量だわ。
「あの王様、家族がいないらしいけど、いないほうが楽かもね。王様がべた惚れならリンネットの足を悪く言う人もいないだろうし」
人払いをしたあとでベルダ姉様が仰る。
「そうかな」
姉様や父様はそれが一番嫌なのだろう。私は自分のことだから全部がしょうがないって思ってる。
「失礼いたします。部屋付き侍女のアンナと申します。お味のほうはいかがでしょうかと厨房の人間が気にしていまして」
お団子頭にメイド服の女の子が入ってきた。私よりも年下かしら。
「とってもおいしいわ」
私は言った。
「そうですか。よかったです。では、失礼いたします」
アンナが部屋を出ると、
「不愛想な子ね。目も合わせないし」
とベルダ姉様が眉間に皺を寄せる。
「最初から愛想がいいと私に取り入ろうとしているのかと勘繰ってしまうわ」
「確かにそうかもだけれども。これ、うま」
ベルダ姉様が声を上げる。
「なんでしょう?」
白くてこりっとしていて、野菜なのか動物なのかもわからない。初めての食感。
「ぬちょって、にょりってする」
ベルダ姉様の例えは間違っていないけれど独特。
「この味付けもおいしい」
オイルと調味料を混ぜたような、うちとは違う食べ物。
「これがおいしいよ。百合根じゃないし」
ベルダ姉様はそれを見つけては嬉しそうに食べている。
「動物っぽいですけどね」
「こっちで取れる食材なんだろうか」
食事が進むのはいいけれど、食べ終わったらもうベルダ姉様は帰ってしまう。
こちらのしきたりで、婚礼は王と王妃の二人きりで誓いを捧げ、あとは民衆にお披露目で終わりらしい。




