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エリー姉様がぶるぶるの二の腕でずっと手を振ってくれていた。
「ありゃまずいな。帰ったらダイエットさせよう」
ベルダ姉様と同じ馬車でよかった。
「南のほうではふくよかなほうが富みの象徴らしいですわ」
「エリー姉様、運動嫌いだからな」
と言いながらベルダ姉様は自分のコルセットを緩ませる。
「サイカ姉様のお菓子食べましょう?」
私は包みを開けた。
「もう? リンネット、あっちに行ってから食べなよ」
「あっ、門をくぐるわ」
王宮を出ると朝早いのに民の者たちが見送りに来ていた。
「リンネットは王宮から出なかったから民の間ではかなりの美人ってことになってるよ」
「やだ。ハードル上げないで」
「実際に美人だけどね」
馬車にはレースのカーテンがついていた。それでも手を振ってくれる民が見えるから私も手を振り返した。
私たちが乗っている馬車以外にも、私のてんこ盛りの荷物、それから護衛の騎士たちで総勢20名ほどの一団で移動する。
「リンネット、黒峠よ。あんた、初めてじゃない?」
ベルダ姉様が窓から指をさす。
「本当に黒い峠なんですね」
そこを越えるまでが蒼山の領土だと聞いている。
「リンネット、お山様だわ。よく見ておきなさい」
「うん」
ベルダ姉様と手を合わせる。そしてお山様が見えなくなるとベルダ姉様が私の手を取った。
「私はリンネットの婚姻が決まるまで正直この地を離れる実感がなかった。今だってない。ずっとあそこでみんなで暮らすものだと思ってたわ。姉妹って寂しいね」
いつか散り散りになるのだろう。だからこそ一番にここを出る私は幸せにならねばならない。結婚は悪いものではないと姉様たちに教えたい。
「でも離れていても姉妹は姉妹です。フレディも大事な弟に変わりありません」
ずっと一緒に育ってきた過去は変わらない。
「うん」
国境付近ではあの方が馬に乗って待っていてくれた。紅山の騎兵隊も10人ほど引き連れている。
「すいません。王太子が来る予定だったのに、私で」
ベルダ姉様が馬車から顔を出す。
「早馬の知らせがありました」
馬車に乗っているのに王の馬が大きいせいかやはり見上げる。
「王様自らお出迎えありがとうございます」
私は言った。
「この辺りは山賊も出る故」
一瞬だけ、目が合った気がした。それだけで鼓動が速くなる。
馬に乗った姿がまたかっこいい。
「いい旦那様になりそうじゃん」
とベルダ姉様も太鼓判を押してくれる。




