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蒼山は好き。でも小さい頃から私の面倒を見てくれる乳母も歳だし、父の側近たちも年長者ばかり。
弟が王太子だから、このままここにいたら弟の奥さんにいじめられて肩身が狭くなること間違いなし。しかし他に行きようもない。姉様たちが嫁いでしまったら王宮内のどこかの塔でひっそりと生きよう。それくらいしか将来の展望がない。趣味もないし、夢もない。
動かない左足もつねれば痛い。
「歩かないから細くなったのか、細いから歩けないのかしら?」
自室からほとんど出ず、動かない足を見つめているだけの私の生活。
「リンネット姉様、それはたまごか先かニワトリが先かの理論と同じですよ」
弟のフレディは17歳なのにずっと本を読んでいるからなのか頭がいい。いずれ国を継ぐのだから利口であるに越したことはない。
「リンネット、お菓子が焼けたわ」
ふわっと甘い匂いが私の部屋に広がる。サイカ姉様は私のふたつ年上でフレディと同じように頭がよく、お菓子作りが得意。レシピも見ずにおいしいお菓子が作れる天才です。
「ありがとう。うーん、おいしい」
「ブルーベリーを入れたから砂糖を控えたの。冷めても美味しいはずよ」
あったかいケーキは作りたてしか食べられない。
「ベルダにフレディ、リンネットはともかくあなたたちまでベッドでゴロゴロしないの。しゃんとしなさい」
長女のエリー姉様は髪がきれいです。口調は厳しいです。
次女のベルダ姉様は走るのが速いです。馬とかけっこをしているからだと思います。
我が王族の子どもは同じ年に生まれた馬と友達になります。姉様方の馬は歳老いて亡くなりましたが、私とフレディの馬はまだ生きています。
「ベルダ様、ドレスの仕立て屋がお見えですよ」
サシャはエリー姉様の乳母でしたが、フレディを産んで間もなく私たちの母様が亡くなってしまったのでみんなのお母さん代わりです。
昔はすらりときれいだったのにこのところはぶくぶくしてきている。当人はおばあさんになったからと気にしていないようです。
他のメイドたちは若く器量もいい。他にもきちんとした縁談が持ち込まれたのだろうが父様は誰にも靡きませんでした。
「サシャ、すぐ行くわ。姉様、私からでいいの?」
ガサツなベルダ姉様がくるりと回転しベッドを降りた。
「うん。私はちょっと痩せないと」
エリー姉様が己の二の腕を掴む。姉様は姉妹の中では一番ふっくらしています。
「じゃあ、その次は私ね」
サイカ姉様が手を上げる。
「僕はあるのでいいよ」
フレディは王太子なのに地味好み。ずっと幼馴染の女の子と付き合っている。
「私も」
踊れない私は父様の横に座っているだけだし。