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 私が出立する前夜の晩餐ではみんな泣いてしまって、せっかくの鶏料理がもったいない。


「リンネットの好きな芋を揚げたものよ。私の分も食べなさい」

「サイカ姉様、食事のマナーが悪いと叱られます」

「いいのよ、最後なんだもの」

 姉様方が右と左の手も握るから、揚げ芋にソースがかけたかったのに、サイカ姉様に口に運ばれてそのまま食べた。


 父様はずっと黙っていた。


 夜、宰相に連れられて久しぶりに父様の執務室に入った。

「リンネット、なにを贈ればいいのかわからず今日になってしまった。流れる時間は同じだから時計を与える」

「ありがとうございます」

 父様は父様だった。王なのにしくしく泣いて、母様の肖像画を小さくしたものを手渡した。

「宰相、いえ叔父様、父をお願いします」

「はい」


 帰りは宰相が部屋までカトを押してくれた。

「王が申しておりました。リンネット様を嫁に出すのは国のためだけではないと。ここにいてみんなに守られる人生もいいだろうが、蒼山を出てもきっとリンネット様なら幸せになれると。少し過保護に育てた後悔もあるようです」

「宰相は母様と一緒にここへ来たのですよね? 母様も蒼山に馴染むまでに時間がかかりましたか?」

「ゲイローでいいですよ、姫様。姉の場合は幼き頃より家同士での婚姻が決まっていたのですが、大人になる前にうちの銘山が噴火してしまって。家族だけでなく民まで受け入れてくださって王には感謝しかありません」

「そうだったのですね」

 そんな事情があったなら母様は人質みたいな気持ちだったのだろうか。


「では、おやすみなさいませ」

「おやすみなさい、ゲイロー叔父様」

 緊張して眠れなかった。ずっとこの部屋で眠っていたんだもの。


 明日からは違う場所で眠るのだ。

「大丈夫かしら、私」

 ドキドキすることもない人生だった。今は早く夜が明けてほしいような、時間が止まってほしいような、不思議な気持ち。葛藤ではない。


 王宮は山の中腹にあって、窓を開けると民の家に明かりがついているのが見える。そうだわ、蝋燭も持って行かなくちゃ。あっちにあるかしら。


 夜のお山様を見るのも今夜が最後。ありがとうございました。お山様が元気でいらしてくれたので、私たち家族も民たちもこうして生きてこれました。明日からは別のお山に暮らすなんて嘘みたいです。


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