18
初めてのあの方からの手紙は馬についてだった。
馬蹄の管理をする者もいるし、
「馬と話せる婆がいるらしいわ」
と私が言うと姉様方がげらげら笑った。
「大丈夫なの、あのお山」
「しっかりしていそうな国だと思ってたけど」
とフレディまで。
「ん? この書簡、今までの筆跡と違うわ。あの方が書いたのかしら」
ハネの部分がちょっと乱暴で、文字全体が右肩上がり。
「馬と話せる婆が書いたんじゃない?」
「ベルダ、笑わせないで」
私たちは手紙ひとつでけらけら笑っていた。フレディはその間も私のために薬を用意してくれていた。芋虫を乾かしたものなんて絶対に嫌よ。
サイカ姉様は保存の効くお菓子を作り、エリー姉様とベルダ姉様は母様の形見を漁っているようだった。
私は自分に重要なものがあまりわからなくて、杖以外はみんながくれたものになってしまった。
「リンネット様、新しい口紅ですよ」
サシャがふたを開ける。
「赤すぎない?」
こんなのつけたことない。
「もう王妃なのですから」
サシャは私と目が合うたび涙を目に溜めた。
私は私以外の人が私のことで泣くのが苦手。それが嬉し涙でも。結婚が決まってから益々そう思う。
それを手紙にしたためると、
『少しわかります』
と、右肩上がりの文字で返事が来た。
結婚までは本当に短かった。恐らく、私が生きてきた人生の中で最もせわしなく、ある意味充実していて、それでいて嬉しくて物悲しい。