15
しばらくその場から動けず呆けていた私の周りに姉様たちとフレディがいた。
「フレディ、あの方を門まで送ったの?」
私は聞いた。
「そうです、リンネット姉様」
「私のことはなにか言ってた?」
「大丈夫ですか? 顔が赤いですよ。お風邪を召したのでは? だから外ではなく王宮内のほうがいいと進言したのに」
「バカね。恋をすると女はこういう顔になるのよ」
とサイカ姉様が言ってくれた。
「だってずっと心臓がバクバクして。さっきお別れしたのにもうお会いしたいわ。私のこと、どう思ったかしら」
これが恋心というものなのだろうか。指がこめかみを撫でてしまう。彼の感触がいつでも蘇る。
サシャが私をカトに乗せて部屋まで移動してくれた。椅子に車輪をつけたような乗り物だ。
姉様たちも私の感想を聞こうとついてくる。
「ようございましたね、姫様」
「サシャも見たでしょ? とても大きい方なのよ」
「はい。姫様を守ってくれそうな人ですね。それに、たくさんの贈り物をいただいたそうで。リンネット様の部屋に運んであるそうですよ」
「見たいわ」
とサイカ姉様が私より先に部屋へ入る。
私の部屋なのにきらびやか。
「すごい。でかい。なにこれ?」
「ベルダ姉様、それは水晶というものです」
フレディがまん丸の透明な球を覗き込む。
「宝石の?」
「場所によっては魔除けに使用します。紅山では水晶が取れるのか。しかもこんなに丸くする技術があるとは。うちでは水で削っているがどうやってるんだろう」
フレディは他にも長い棒に文字の書いてあるものや、星の本を開いた。
「リンネット、見て。豪華なネックスレス。プレゼントでこれじゃ、どんな婚礼になるのかしら。あなたの首が取れないか心配よ」
とエリー姉様は宝飾品にうっとり。
「金が取れるとは聞いていないが、金山も近いからですからね。姉様、金の純度を計るため一つお借りしますね」
「うん。いいけど、フレディあとで返してね」
「はい、必ず」
「これは銀じゃないな。姉様、これも借ります」
とフレディがスプーンのセットを持って行ってしまった。どこかの国では愛する人が食べるものに困らないようにという願いを込めてスプーンを贈ると聞いたことがある。
フレディがいなくなると女ばかりで品定め。
たくさんの贈り物の中に髪留めがあった。緑の宝石がはめ込まれていた。
「かわいい」
サイカ姉様が髪に差してくれる。
「うん。リンネットに似合う」
「あの人もそう思って選んだんじゃない?」
「あんな熊みたいなのにね」
「遠くから見たらリンネットの倍くらいの顔の大きさよ。食べられちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしながら父様と見てたわ」
「きれいに細工されているし、石も上物だわ」
「リンネット、大事にされるのよ」
エリー姉様が泣くから、みんな泣いた。エリー姉様は頬を、ベルダ姉様は左足を、サイカ姉様は右手を擦る。お嫁に行くということは生まれ育ったこの場所から離れるのだ。私を知っている人もいない地で、この足で生きてゆけるのだろうか。
不安はあるけれど彼の言葉を信じたいと今は思う。