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【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第一章 救国の英雄と記憶喪失の詠唱士
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第七話 城郭都市オレオール

 ルーカス達は朝食を終えると、騎士団本部に向かうため邸宅から馬車へと乗り込んだ。


 馬は白馬、白塗りのキャビンには金に縁取(ふちど)られた窓と扉があり、装飾と車輪も金で色取られていた。


 扉のない方の窓側には公爵家の紋章——盾と剣と王冠、そして翼を持った白馬の(いなな)く姿が(えが)かれている。


 ルーカスのエスコートでシャノンとシェリルが乗り込み、二人は隣合わせに座った。

 最後にルーカスが乗り込み、反対側へ腰を降ろした。


 グランベル公爵邸は、エターク王国首都・城郭都市(じょうかくとし)オレオール——中心部の王城を起点として、放射状に作られた都市の内部にある。

 

 都市の外壁には十の監視塔があり、外周は水を引き込んだ堀で守られている。

 また首都を(かこ)う堀は、上空から見ると十多角形(じゅったかっけい)の星状になっているのが特徴だ。


 入口の門は北西・北東・南東・南西の計四ヶ所。


 堀を渡るため掛けられた橋は、いずれも跳開橋(ちょうかいきょう)となっており、有事には橋を上げ下ろしする事で通行の制限が可能である。


 ルーカス達が向かう騎士団本部は行政区にあり、王城の置かれた中心地に位置する。

 公爵邸からは距離があるため、馬車での移動が基本だ。


 特殊な移動手段としては、設置型のマナ機関である瞬間移動門(ワープポータル)瞬間移動(テレポーテーション)の魔術も存在している。


 だが、前者は国家レベルで運用されている物で、後者は詠唱に魔術師が何十人、下手したら百に届く単位で必要で、一度に転移させられるのは一人〜二人が限度のため、どちらも一般的な移動手段としては非現実的である。


 近年では自走するマナ機関や、空を飛ぶマナ機関の開発に力を入れている国もあり、近い将来実現するのでは——と、期待の声が寄せられているが真偽のほどは(さだ)かではない。


 そんな訳で、陸上は馬や馬車、海上は船による移動が一般的な移動手段となっている。


 ルーカス達はガタゴトと馬車に揺られ、通り過ぎる景色を(なが)めながら、目的地を目指した。


 公爵邸は富裕層の居住区の北東、教育機関・研究機関(アカデミー)特区——簡潔に言うと、教養や専門知識を学ぶための学校等と、魔術やマナ機関の研究所と工場等が立ち並ぶ区画——との境界(きょうかい)に、限りなく近い立地にある。


  王立学院と王立研究所がすぐ近くにあるため、道中は学生服を着た幼年部から高等部の少年・少女、白衣に身を包んだ研究者たちの、行き交う姿が多く見られた。


 移動時間、暇を持て余したシェリルが「そういえば……」と、話題を振ってきた。



「お兄様、お父様は昨晩(さくばん)もお戻りにならなかったのですか?」

「ああ、急増する魔獣の対策会議と、もうすぐアルカディア教団教皇聖下による聖地巡礼(ペレグリヌス)の時期だからな。警備の配置に訓練、それとあちら側との調整に苦労されている様だ」



 アルカディア教団は、世界の中心に(そび)え立つ世界樹の、その守り人によって開かれた宗教だ。


 世界樹の(ふもと)にアルカディア神聖国と言う宗教国家を建国し、創造の女神を主神に、世界樹の守護と世界の秩序を守る事を教義・使命として、数多くの信者を世界中に抱えている。


 各国に教団が管理する教会を有しており、その理念と活動もあいまって、世界各国に多大な影響力を(およ)ぼしていた。


 一説によると開祖(かいそ)は、女神の子孫であったと言われている。


 聖地巡礼(ペレグリヌス)とは、世界各地に点在する女神を(まつ)った祭壇(さいだん)(めぐ)って祈りを捧げる旅である。


 (めぐ)る神殿と祭壇(さいだん)の数は十。

 五年に一度、教皇聖下(きょうこうせいか)(みずか)ら神殿へと(おもむ)()り行う一大イベントだ。



聖地巡礼(ペレグリヌス)かぁ。昨年、教皇聖下が代替わりしたから、現教皇にとっては初めての行事なんだよね?」

「そうだ。それもあって例年以上に緊迫(きんぱく)している。しばらくは家に帰れそうもないと(なげ)いていたな……」

「お父様も大変そうですね。私たちにお手伝い出来る事があればいいのですけど」



 まだ下士官にも満たない自分たちでは、力になれないとシェリルが暗に(なげ)いていた。


 それを聞いたシャノンは何やら考え込み——しばらくして、良い事を思いついたとでも言いたげに目を輝かせ、人差し指を突き立てた。



「なら、次の休暇に差し入れを持っていくのはどう? お父様の好きな食べ物とお菓子たくさん用意して、お気に入りの茶葉も添えて!」

「名案ね。きっと喜んでくれると思います。ね?」



 「お兄様もそう思うでしょう?」と、同意を求める視線が送られる。


 役職柄、仕事熱心でワーカホリック気味ではあるが、父ならばどんな形であれ、自分を思い()る家族の気持ちを(ないがし)ろにはしないだろう。


 仕事では冷静沈着と評価され常に強面(こわもて)の父だが、家族と過ごす時間は別だ。

 普段からは想像もつかない優しげな顔に、抱擁(ハグ)などの惜しみない愛情表現をする。


 家族と過ごす父の顔しか知らなかったので、少年時代そのギャップに驚かされた事もあった。



「父上の破顔(はがん)した表情が浮かぶな」

「ふふ、そうと決まったら計画を立てなくちゃ」

「ついでにお兄様にも差し入れしてあげるね! 楽しみにしててね」

「楽しみにしてるよ」



 わいわいとはしゃぐ双子の笑顔を背景に、馬車は進む。


 国の重要施設を有する行政区は、厳重な警備体制が()かれている。


 境界線は塀で囲まれ、巡回の騎士が見守っており、いくつかある通行門では騎士による検問が必ず(おこな)われた。


 通行門に差し掛かったところで馬車は一度止められ、キャビン内部の目視と、身元の確認が行われた。


 この検問は相手が王族・貴族の誰でもあろうと顔パスは出来ない。

 危機管理の観点から、門を通る全ての人・物に実施されており、例外はない。


 警備に当たっていたのは若い青年の騎士と壮年(そうねん)の騎士で、キャビンの扉が開かれると、ルーカスに気付いた二人の男性騎士がすかさず敬礼をした。



「ルーカス団長お疲れ様です!」

「警備任務ご苦労様」

恐縮(きょうしゅく)です! 妹さんもご一緒とは珍しいですね」

「たまには一緒に出勤も悪くないと思ってな。お陰で(にぎ)やかな朝の時間だったよ」

「公爵家の皆様は仲が良くて(うらや)ましい限りですね。うちの妹なんて、反抗期で可愛(かわい)げがなくて——」



 人懐(ひとなつ)っこい騎士の青年が世間話に花を咲かせようとしたところで、もう一人の壮年の騎士がごほんとわざとらしく咳払いする。


 内見と身元の確認が終わったのだから「これ以上引き留めるな」と言う無言の圧だろう。



「っと、失礼しました! 検問のご協力感謝いたします。どうぞお通り下さい」

「ああ。引き続きよろしく頼む」

「は!」



 二人の騎士は再度敬礼をして、公爵家の馬車は彼らに見送られながら、行政区内にある騎士団本部を目指して進んで行った。

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