表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第三章 動き出す歯車

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/190

『幕間 不穏の影④』

 五年に一度の祭事、聖地巡礼(ペレグリヌス)の通過点として巡礼団が初めに訪れたのはエターク王国だ。


 今宵(こよい)、首都である城郭都市(じょうかくとし)オレオールの王城、大広間(ホール)では教皇の訪問を歓迎(かんげい)して晩餐会(ばんさんかい)が開かれている。


 街も城も、夜だと言うのに光に(あふ)れ、目が(くら)みそうだ。

 ノエルはそんな光から遠ざかるように、与えられた貴賓室(きひんしつ)へと戻って来ていた。


 豪華絢爛(ごうかけんらん)な内装に調度品が取り揃えられており、家具までも(きら)びやかで(ぜい)が尽くされた一室。


 主が不在だったために照明の(とも)らないそこは真っ暗闇だった。


 どさり。と音を立てて、(やわ)らかなソファへ腰を落とした。

 抜け殻のように体を全部預けて深く沈むと、久しぶりに会った彼女——姉さんの様子に思いを()せた。



(……楽しそうだった)



 破壊の騎士、ルーカス・フォン・グランベル——黒髪で長い後ろ髪を一つにまとめ、エターク王族特有の紅眼(ルージュ)に左の目尻には泣き黒子(ぼくろ)が二つある、眉目秀麗(びもくしゅうれい)な男。


 破壊の力をその身に宿した〝救国の英雄〟と名高い騎士だ。


 姉さんは彼と仲睦(なかむつ)まじく手を繋いで露店(ろてん)を回り、しまいにはプレゼントを買ってもらっていた。



(嬉しそうだった。幸せそうに見えた)



 女神の使徒(アポストロス)として教団に居た頃には見た事のない表情、笑顔ばかりだった。



(連れ帰るつもりで来たのに……出来なかった)



 幸せそうに笑う姉さんを、あんな地獄みたいなところへ連れて帰る気が起きなかった。


 不在がばれないよう、()()に代打を頼み、晩餐会(ばんさんかい)を抜け出して行ったって言うのに、骨折り損だ。

 「滑稽(こっけい)だな」と、ノエルはから笑いを浮かべた。



「あれ? 戻ってたんですか?」



 予告なく、暗闇から鈴のような声が聞こえた。



 ——()()だ。



 晩餐会(ばんさんかい)はまだ続いていると言うのに、何故ここへ来たのだろうか。



「……頼んだことは?」

「ちょこっと抜け出して来ただけですよ~。と言うか、戻られたのならノエル様が自分で行けばいいじゃないですか」

「そんな気分じゃない」

「わがままだなぁ」



 彼女から可愛(かわい)らしく抗議の声が上がるが、今は外向きの教皇の仮面を被り、慈愛に満ちた純真無垢(じゅんしんむく)な〝()〟を演じる自信がなかった。


 コツコツと足音を鳴らして、暗闇から彼女が姿を現わす。

 聖外套(マント)羽織(はお)っているが、フードと仮面は外していた。


 その容姿は——長い銀髪に勿忘草(わすれなぐさ)色の瞳。

 姉さんの姿を()した彼女がそこに居た。



「失敗しちゃったんですね」



 事実だ。言い返す気力もない。



可哀(かわい)そうなノエル様」



 そう言う割には楽しそうな声色だ。

 ゆったりとした動きで、彼女がこちらへやって来る。


 そして(おお)いかぶさるように上からこちらを(のぞ)き込んで、ソファの背もたれに手を添えると、流れ落ちる髪を耳に掛けた。


 見上げれば赤く色付いた唇に()(えが)き、(あで)やかに笑う彼女が居る。



(なぐさ)めてあげましょうか?」



 姉さんに似せた声で甘ったるく(つぶや)き、顔が近付いて来る。



(言い知れぬ(さび)しさを埋めるには、ちょうどいいか……)



 一瞬そんな思いが(よぎ)ったが、唇が触れる瞬間、(こぼ)れ落ちた銀色にハッとして——ノエルは彼女を押し退()け立ち上がった。


 姉さんの姿でそんな事、悪趣味にも程がある。



「ふざけてないで戻って役目を果たせ」

「つれないなぁ」



 彼女は残念そうに(こぼ)しながら、パチンと得意の指鳴りをしてみせた。


 闇に包まれて、彼女の姿が変化して——次に闇が晴れた時には、ノエルの姿を写した彼女が立っていた。



「頑張ったらご褒美(ほうび)くらいくださいね♪」



 そう言って彼女は闇に(まぎ)れて行った。



 「僕の顔でそのノリはやめてくれ」と思うが、彼女は立ち去った後だ。

 (おと)れた静寂(せいじゃく)に、ノエルはため息を()らした。



(……なんだか色々と疲れた)



 やらなければいけない事は多いけれど、今日は休もう、そう思った。

 

 ふと、窓の外の明かりが目に付く。

 キラキラと輝く色はまるで宝石だ。



(宝石……僕の宝石)



 彼女は世界でただ一人の、ノエルに残された宝物。


 ——家族。



(姉さんを守るためなら、僕は修羅、悪鬼にだってなれる)



 これから()す事は、歩むこの道は、姉さんを守る(ため)に。


 自分の全ては、愛する姉さんの為に()るのだ——と想いを胸に、ノエルは(まぶた)を閉じた。

 「面白い!」「続きが読みたい!」など思えましたら、ブックマーク・評価をお願い致します。

 応援をモチベーションに繋げて頑張ります。

 是非、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ